王都から追放されて、貴族学院の落ちこぼれ美少女たちを教育することになりました。

スタジオ.T

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4時限目 問題児、集う

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 魔導の特性は血に寄るものが大きい。一族によって代々研鑽けんさんされてきたもの、その叡智えいちの成果が魔導となって体現される。

 サイレウス家の治療魔導はその最たるもので、彼らの優れた魔導は唯一無二の高潔なるものとして掲げられている。

 校舎の三階で増殖し続ける触手を見上げながら、シオンは言った。

「前回の試験でも触手を召喚させて、大騒ぎになったんです」

「……すいません。気合を入れるほど失敗しちゃうんです……」

「どちらかというと召喚魔導のたぐいだな。あれ悪魔の一部だ」

 系統としてはまったく逆の魔導になる。
 気色悪い触手を見ながら、ダンテは舌打ちした。魔導のコントロールがまったくできていない。なまじ魔力量が多いために太刀が悪い。

「あれ、消せないのか?」

「……消せません。戻ってくれないんです……」

「いつもどうしているんだ?」

「前は僕とミミでやっつけました」

 シオンは「さすがにあれは無理です」と言って首を横に振った。

「今回は校舎半壊じゃ済まなそうだね」

「みじん切りにできる大きさじゃないニャあ」

「……ごめんね」 

 しょぼんと肩を落としたマキネスの横で、気絶していたリリアがようやく目を覚ました。「うーん」と眠たげに顔をこすった後、彼女の目に暴走する触手が飛び込んできた。

「ぎゃー! 何あれー! マキネス、どんだけやらかしたのー!」

「おう、やっと起きたか」

「……っ。暴力教師……」

「先生は何もしてないよ。リリアが勝手に気絶したんだよ」

「そうだニャ」

 シオンとミミが突っ込むと、リリアはぷいとそっぽを向いた。イライラしたように彼女は感情をむき出しにして、口を開いた。

「ふん。どうせ他の教師みたいに、すぐにいなくなるんでしょ。知ってるもん」

 リリアはそう言ってダンテを拒絶した。目も合わさず、壊れゆく旧校舎に視線を送っていた。

「私たちみたいな落ちこぼれ、面倒を見る奴がいるわけない。誰が教えようが、何一つうまくいかなかったじゃん」

「リリア……」

「みんなそうだった。みんな、私たちを見捨てていく」

 リリアの声は震えていた。悲しみと怒りが言葉の節々に見えていた。胸の内にある思いを吐露とろするように、彼女は言葉を続けた。

「あげくの果てに来たのは、クビになった兵士。命令違反で送られてきたんでしょ。先生ですらないじゃん」

 リリアの言うことに間違いはなかった。ダンテはフッと自嘲気味に笑って返答した。

「実際そうだな。俺は教師ですらない。ただの兵士だった男だ」

「ほら、やっぱり」

 すすり泣くように声を震わせたリリアに、他の三人も沈んだ表情でうつむいた。その姿にダンテは「おし」と言って、腰にぶら下げた剣のつかを握った。

「……確かにただの兵士だったが、実戦経験はあるし、教えられることはある。まぁ見てろ。いくつもの修羅場をくぐってきたんだ。お前らくらい、なんてことはない。そんなに悲観的になるな」

「そんなの……」

「あの触手を退治すれば納得するか」

「あっ、ちょっと。先生!?」

 シオンの制止の声を聞かず、ダンテは跳んだ。
 暴れまわる触手はさらに大きく膨れ上がっている。突撃したダンテとは比べものにならない大きさまで、成長していた。

「一人じゃ無理ですよー!」

 シオンの叫び声が聞こえて来る。
 それでも彼は迷いなく剣を抜いた。
 一切のよどみない抜刀だった。すぐ近くで見ていた生徒たちは、何が起こったのか理解できなかった。

「意外とやわいな」

 ダンテが剣を鞘に収める。

 あまりの素早さに、触手はダンテに触れることすらできなかった。音もなく、衝撃もなく、巨大触手は両断されていた。

「ピギイイイ!!」

 まっぷたつに裂かれた触手は光と共に消滅していった。ただの一度の攻撃で、人間の数百倍ほどもある怪物が霧散むさんしていく。

「すごい……あの怪物を一撃で殺した……!?」

 生徒たちの誰もがあっけに取られていた。
 一仕事終えたという表情で、ダンテは生徒たちの近くに降り立った。表情一つ変えることなく、彼は剣の柄から手を離した。

「あんた、何者?」

「戦闘経験はあるって言っただろ」

「尋常じゃない攻撃だったニャ……」

 ミミは興奮したようにピコピコと耳を動かした。

「マキネスの触手を一撃で倒した担任はいなかったニャ。いつも一時間以上はかかっているニャ」

「どうしてこんなところにいるの?」

「アイリッシュ卿に頼まれたんだ」

 リリアの言葉にダンテは肩をすくめて言った。

「お前たちを全員卒業させるように指示があった。正直に言うが、それを成功させれば、俺は復職できるようになっている。訳は分からんが、それが事情だ」

「そういうことだったんだ……」

「逆に言えば卒業できなければ牢獄送り。だから、安心しろ。絶対にお前たちを卒業させてやる」

 ダンテはひとりひとりを見ながら言った。彼はふところから、マキネスの実験室から回収したクラス名簿を取り出した。

「俺自身の首がかかっている。どうだ、少しは信用したか」

「……あんた」

「『先生』だ。リリア。戦闘恐怖症の理由は分からんが、どうにかならんもんじゃない。できる限り協力する」

「むぅ……」

 持っていた木刀を握りしめて、リリアは頷いた。消えていく触手のかけらを見つめながら、マキネスが頭をさげた。

「……先生、ありがとう……」

「マキネス。魔力コントロールは訓練次第だ。ただデタラメにやれば良いってもんじゃないぞ」

「はい、触手いりますか?」

「いらん」

 差し出してきた触手を断って、ダンテはミミの方を向いた。

「それから、ミミ。お前はなんでこのクラスなんだ? 特待生じゃないのか」

「運動はできるけど、勉強がからっきしニャ」

「……なんとかする」

「ありがとニャ!」

 続いてクラス名簿に視線を落としたダンテは、不思議そうに首をかしげた。五人の氏名が書いてあるが、どこにも「シオン」という名前が見つからなかった。

「なんだ、この名簿。間違ってるのか? シオンの名前が載っていないぞ。イムドレッド・ブラッドとジオルグ・ルブラン?」

「合ってるよ、それ。イムドレッドは来てないけど、ジオルグはちゃんといる。名前が違うけど」

「なんだと?」

 リリアの言葉にダンテは表情をくもらせた。ジオルグなんてどう考えても男の名前だ。そんなやつは見当たらないし、名簿にシオンの名前が載っていないというのはおかしい。

 ……待てよ。
 一周回ったダンテの思考は、さっきまで話していた金髪ツインテールの少女の前で止まった。リリアの言葉を信じると、残りは彼女しかいない。

「ジオルグ……ルブラン?」

「……はい」

 シオンと名乗ったはもじもじと恥ずかしそうに頷いた。

「そっちが本当の名前。ジオルグ・ルブラン。このクラスの生徒です」

「男?」

「一応……」

 彼はコクンと頷いた。姿、仕草、声。どれを取っても少女としか、思えなかった。

「シオンはニックネームだニャ」

「どうしてこのクラスに?」

「そ、素行不良です。女の子の格好で登校したら、このクラスに落とされました。やめないと退学だって……」

「好きなんだから、しょうがないニャ」

「……というわけです」

 ダンテの手からクラス名簿が落ちていった。

(俺にどうしろって言うんだ)

 今までどんな戦場にいても感じなかったキリキリとした胃の痛みが、ダンテを襲った。
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