10 / 56
10時限目 頼れる後輩
しおりを挟む深夜まで魔導学の教科書を読んでいたダンテが起きると、すっかり太陽が昇ってしまっていた。
「やべえ、寝坊だ」
枕元には魔導学の教科書が転がっている。何度も眠気と戦いながら、分厚い教科書と解説書を読んでいたが、結局一ミリも理解できなかった。
(この分だと、今日の授業も頓死だな)
自分の腐りきった頭が恨めしい。ねぼけた目をこすりながら、教室へ向かうと、意外なことに教壇にはすでに人影があり講義を始めていた。
おかしい、教授陣は派遣されてこないはずなのに、と恐る恐るドアを開けると、そこにはダンテにとっては見知った人物がいた。
「フジバナ……」
「お久しぶりです。ダンテ隊長」
すらりと背の高い黒髪の女が、ダンテに深々と頭を下げた。真面目で几帳面そうな雰囲気は相変わらずで、きりっとした眉は寸分の狂いなく左右対称に整えられていた。
「どうしてここに……」
「アカデミアの噂を耳にしました。バーンズ卿の嫌がらせで、隊長がお困りになっていると聞いて、いてもたってもいられませんでした」
「お前、仕事はどうした」
「有給をいただいております」
「……先生、2人はいったいどういう関係ですか?」
最後列にいたマキネスが怪訝そうな顔をして、手を挙げた。
「俺の兵団時代の部下だ。これ、どういう状況だ」
「魔導学の授業です。特別講師だと思っていたんですが……とても分かりやすくて……」
「良かったニャ」
シオンとミミは満足そうに言った。
「フジバナ、お前」
「ある程度の素養はあります。末端ではありますが、一応貴族の端くれなんです。ご迷惑……でしたか?」
「めっちゃ助かる」
「先生」
再びマキネスが手を挙げて言った。
「……2人はいったい『どういう』関係ですか」
「だから、俺の部下で……」
「彼は私の命の恩人です。マキネス・サイレウス」
ダンテの言葉を遮って、フジバナが言った。そわそわするマキネスに、彼女は言った。
「改めまして、私の本名はフジバナ・カイ。謎の魔導学特別講師ではなく、現役の王都兵です。以前の任務で危機に瀕した私を、隊長は身を呈して守ってくださいました。そのせいで、隊長はバーンズ卿の怒りを買って、王都を追放されたんです」
「そうだったんだ……」
「隊長には返しても返し切れぬ恩があります。この度は何か力になれないかと、参上した次第です」
「良いって。気を使わなくても」
「いえ、やらせてください。大丈夫です。隊長の脳が筋肉でできていて、こういう些事には向かないことは了承済みです。目のクマ、取れていませんよ」
「うっ」
頭を抱えたダンテは何も言い返せなかった。
「というわけでダンテ隊長。ここは私が請け負います。魔導学でしたら、人並みの知識はありますので」
「あんな分厚い教科書が理解できたのか?」
「あんなのは高慢ちきな教授陣が作った自己顕示欲の塊ですよ。生徒たちに理解できるように作られているものではないです。もっと分かりやすくするべきだと、常日頃から思っていました」
「へー……俺の頭が腐っていたわけではなかったんだな……」
「さ、さ。隊長はお休みになって。さっそく始めましょう」
ダンテの背中を押して、椅子に座らせるとフジバナはごほんと咳払いをした。教室に座った生徒たちを見渡すと、最初にリリアを指差した。
「では授業の続きです。リリア・フラガラッハ。魔導学とは、何を学ぶものだと理解していますか?」
「えぇと……魔導の使い方?」
「それはどちらかというと、実践魔導の分野になります。魔導学とは、そもそも魔導とはどんなものかというものです。そこで、マキネス・サイレウス」
フジバナは続いてマキネスを指差した。
「魔導とはどんなものですか?」
「……うーん、召喚術のことですか……?」
「そうですね。合っていますが、正解ではありません。それは結果として現れるものであり、魔導の根幹ではないのです。魔導とは一言で言うと……」
フジバナはチョークを持って黒板に文字を刻んだ。
「神秘への接続。あるいは異界物質の現界術式。それが魔導の本質です」
「……異界ってあんまりイメージ湧かないんだよね」
「その疑問はもっともです」
不思議そうに首をかしげたリリアに、フジバナは言った。
「異界とは本来目には見えない世界のことです。ですが世界という言い方には少し語弊がありますし、それを見た人間もいません。存在はあくまで理論上でしかありません。例えるなら、ページの表と裏のようなものでしょうか。決して表からでは確認できない場所。私たちが表なら、異界は裏。裏は確かに存在する。そして、その二つの世界を一時的に結びつけることを、『魔を導く』すなわち『魔導』と呼んでいます」
「へー……」
「無意識的に魔導をそれを行使できるのは、私たちにはもともと、異界に接続できる力が備わっているものと考えられています。知識がなくとも、その接続方法……つまり詠唱文と真名ですね。それさえ分かれば、魔導は行使できる。例えば、隊長のように」
「ぐーぐー」
寝息を立てるダンテをスルーして、フジバナは話を続けた。
「さて、ではなぜ魔導は魔導としてなるのか。私たちが神秘と呼ぶものはいったい何でできているのか。ミミ、分かりますか?」
「分からないニャ」
「素直でよろしい。例えば、初等魔導として一般的な魔導弾ですが……」
フジバナは手のひらから黒い球体を発生させた。
「この球体の弾丸は本来は異界のものです。その成分をこちら側に引っ張りだす際に、魔導弾として再構成されるのです」
「つまり僕たちが魔導として使っているものは、もともと異界の物質ってことですか?」
「その通りです、シオン・ルブラン。それが顕著だと言えるのが、召喚魔導ですね。あれは異界生物を呼び出して使役する、極めて難易度の高い魔導です」
「なるほど……」
「魔導のことを別名で『異界物質』と呼ぶ訳はこういった理由です。また、その難易度の高さを『異界レベル』と言うのはその物質の神秘の強さに関連しています。例年の傾向を見る限り、この辺りがテストに出るので、しっかり覚えておいてくださいね」
「はーい」
「なかなか分かりやすいニャ」
せっせとノートを取り始めた生徒たちを見渡して、フジバナは丁寧な図を黒板に刻んでいった。前日、徹夜していたダンテは結局授業が終わるまで、目を覚ますことはなかった。
0
あなたにおすすめの小説
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。
故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。
一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。
「もう遅い」と。
これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!
防御力ゼロと追放された盾使い、実は受けたダメージを100倍で反射する最強スキルを持ってました
黒崎隼人
ファンタジー
どんな攻撃も防げない【盾使い】のアッシュは、仲間から「歩く的」と罵られ、理不尽の限りを尽くされてパーティーを追放される。長年想いを寄せた少女にも裏切られ、全てを失った彼が死の淵で目覚めたのは、受けたダメージを百倍にして反射する攻防一体の最強スキルだった!
これは、無能と蔑まれた心優しき盾使いが、真の力に目覚め、最高の仲間と出会い、自分を虐げた者たちに鮮やかな鉄槌を下す、痛快な成り上がり英雄譚! 「もうお前たちの壁にはならない」――絶望の底から這い上がった男の、爽快な逆転劇が今、始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
かくろう
ファンタジー
【ためて・放つ】という地味スキルを一生に一度の儀式で授かってしまった主人公セージ。
そのせいで家から追放され、挙げ句に異母弟から殺されかけてしまう。
しかしあらゆるものを【ためる】でパワフルにできるこのスキルは、最高ランクの冒険者すらかすんでしまうほどのぶっ壊れ能力だった!
命からがら魔物の強襲から脱したセージは、この力を駆使して成り上がっていく事を決意する。
そして命の危機に瀕していた少女リンカニアと出会い、絆を深めていくうちに自分のスキルを共有できる事に気が付いた。
――これは、世界で類を見ない最強に成り上がっていく主人公と、彼の元へ集まってくる仲間達との物語である。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる