王都から追放されて、貴族学院の落ちこぼれ美少女たちを教育することになりました。

スタジオ.T

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11時限目 乱入者

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 本校舎には様々な設備がある。雨の日でも魔導の訓練ができる全天候型のドームや、校内行事で使われるホール、レクリエーション施設。古今東西の料理を集めたカフェテリアなどは、生徒の中でも人気の施設だ。

 この学園でもっとも優れているものと言えるのは、生徒用の戦闘訓場だ。事前に予約しておけば学内の誰でも使うことができる訓練場は、王都兵団にも負けず劣らずの設備が整えられている。

「では、隊長。私はこれで帰ります」

「おう助かったよ」

 授業終わりに起こされたダンテは気持ちよさそうにあくびをした。「おかげさまでよく寝れた」とフジバナに頭を下げた。

「このくらいお安いご用です。隊長が王都に帰ってこられるのなら、それ以上に嬉しいことはないですから」

 にこりと微笑んで、彼女は生徒たちに言った。

「明日も来ますからね。皆さん、渡した課題の復習をお願いします」

「い、いっぱいあるニャ……」

 山積みになったプリントを見て、ミミが真っ青な顔になっていた。

「成績に応じて、課題を変えています。特にミミは普段の十倍です。これくらい、やらなければ間に合いません」

「ひえぇ……」

「私達も多いけれど、ミミはけた違いだね。頑張って……」

 しょげてしまったミミを、同情したようにリリアが励ました。ミミは哀れな声で「脳が死んでしまうニャあ」とぼやいた。

「さぁて、頭の訓練も良いが、こっからは実践戦闘だ。訓練場を押さえておいた。本校舎まで移動するぞ。走ってついてこい」

「え、ここからあっちの校舎まで走るの?」

 リリアが目を丸くして言った。

「当然。魔導を使うのに体力は基本だからな。十キロくらいだろ。ちょうど良い」

「げぇ……」

 そこからダンテを先頭にして、旧校舎を抜けて、訓練上までの道を走って行った。ペースを緩めずぐんぐんとで進むダンテに、生徒たちは見失わないように付いていくのがやっとだった。皆、汗だくで息も絶え絶えだった。

「は、速すぎる……」

「……私も、もうダメかも」

「マキネス! しっかりするニャ!」

「……私の代わりに、この触手を……」

「それはいらないニャ」

「……うぅ」

 結局誰一人付いていくことができず、訓練場についた頃にはダンテは訓練の準備を終えていた。ケロリとした顔で「遅かったな」と生徒たちを迎え入れた。

 地面に柔らかい砂が敷き詰められた訓練場の中心には、細長いつつのついた得体の知れない機械が置かれていた。

「なんですかこれ?」

 シオンが、ウィンウィンと駆動音を立てる機械を見て、不思議そうに首をかしげた。

「当面の課題だ。シオンちょっとそこに立ってくれ」

「ここですか?」

「もうちょい後ろ……あぁ、そこそこ……」

 シオンが機械の目前に立ったのを確認して、ダンテはスイッチを押した。

 バシュ!

 筒から丸いボールが飛び出した。

「いたぁい!」 

 飛び出したボールはシオンの顔面を直撃した。野球ボール程度の小ぶりな玉は柔らかく、ぽーんと跳ねて床に落ちた。

「いったーい。なにするんですかぁ」

「擬似魔導弾マドアだ。防御は最大の攻撃。適当に素振りをするよりかは、ずっと効果がある」

「回避の訓練ですか……?」

「そうだ」

「地味だニャア」

 バシュ!
 続いて飛び出したボールはミミの顔面に激突した。「ふげっ」と声を漏らした彼女
は尻餅をついた。

「不意打ちはひどいニャ!」

「今のが戦闘だったら、死んでいたぞ。いかに強い魔導師だろうが、頭を矢で撃ち抜
かれたら死ぬし、頭を叩けば昏倒こんとうする。どんな強い魔導より、一発の暴力の方が効果的だ」

「……乱暴な理論ニャ……」

「魔導をする暇があったら、素早く動いて鈍器どんきで頭を叩く。この上なくシンプルだろうが。さ、行くぞ」

 人数分の機械を並べて、ダンテは生徒たちに向かってボールを連射し始めた。バケツいっぱいに盛られていたボールがみるみるうちになくなっていく。

「いたたたたた」

 雨あられのごとく連射されていくボールは、運動神経がずば抜けて良いミミすらも避けることができなかった。シオンやマキネスは言わずもがな、ほとんどのボールに当たっている。

 少し厳しめに、かなり速めのスピードに設定してある。当然といえば当然だった。

(さて、こいつはどうか)

 ダンテは最後にリリアの前にある機械のスイッチを入れた。

「行くぞ」

「うん」

 バシュ!
 ボールが射出される。

 魔導弾マドアを想定した弾丸は。常人なら目で追うのがやっとなはずだった。いかに直進するだけの単純な弾道とはいえ、初見で避けることは素人ならほぼ不可能だった。

「よっ」

 その弾丸をリリアは軽々と避けてみせた。昨日よりもリリアの表情が軽い。ダンテはさらに球速をあげて、リリアに放った。

「ほっ」

 それも回避する。余裕の表情で、かすりもせずボールをかわして見せた。ボールに当たり過ぎて、メガネが吹き飛んだマキネスが驚いたようにつぶやいた。

「……リリア、すごいね……」

「ん? このくらいなら大丈夫だよ。先生もっと速くても大丈夫!」

「そうか。よし」

 もう一段階球速をあげる。この機械が出せるほぼマックスのスピード。ウィウィンと唸りをあげる機械から射出されたボールを、リリアがくるりと舞うようにかわして見せた。

「へへん。よゆーよゆー」

 得意げな顔でリリアは笑った。次から次へと飛んでくるボールのどれもをかわして見せている。

(フラガラッハの魔眼まがんは健在か)

 神業に近い動体視力。
 ダンテは彼女がかわせる理由を、フラガラッハの家系に受け継がれている魔眼の影響だと確信していた。

 魔導師の家系には、『異界物質』を代々受け継いでいるものがいる。フラガラッハのそれは人間離れした動体視力を持つ魔眼で、ゆえに敵の攻撃を見切る絶対の武器として威力を発揮してきた。

 リリアがその魔眼を持っているのは間違いない。純粋に才能を発揮すれば、一対一の戦いにおいて彼女の右に出るものはそういないはずだった。

(戦闘恐怖症さえ克服できれば、恐ろしい使い手になるんだが)

 他の生徒達が息も絶え絶えになっても、リリアは全く疲れを見せていなかった。

「よし、休憩にするか」

 バケツに一杯あったボールが空っぽになったところで、ダンテが合図をした。ボールを回収しようと立ち上がった時、バンと音を立てて訓練場のドアがあいた。

「おや、先客かな」

 声がした方向を振り向くと、入ってきたのはダンテの知らない生徒たちだった。
 髪をオールバックにしたいかにも高慢そうな男子生徒を中心に、タッパの良い男子生徒が数人が子分のように彼を取り囲んでいる。

 中にダンテたちがいることを確認した後も、彼はずかずかと訓練場の中へと入ってきた。ダンテはそれを制止させて、立ちはだかった。

「すまんな、授業中だ。帰ってくれないか」

「授業……? 誰だお前」

「教師だ。昨日付けだがな」

 怪訝そうな顔でダンテに問いかけたリーダーと見られる生徒は、「あぁ」と思い出したように言った。

「誰かと思えばナッツのクズどもか」

 そう言うと彼はリリアたちを見ながら、嘲るような笑みを見せた。ダンテはくるりと振り返って、シオンに「誰だ?」と問いかけた。

「急に授業に割り込んできて、随分と生意気なガキどもだな」

「……彼ら、同学年のパラディンの生徒です。真ん中のあいつは首席のブラム・バーンズ」

「バーンズ……」

 嫌な名前を聞いた。ダンテの顔が苦々しげに歪む。

 ずかずかと入ってきたオールバックの男子生徒は、ダンテを指差して言った。

「……そうか。お前が俺の父親に逆らって、王都を追い出された身の程しらずか!」

 訓練場に響く大声で、ブラム・バーンズはゲタゲタと笑った。

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