王都から追放されて、貴族学院の落ちこぼれ美少女たちを教育することになりました。

スタジオ.T

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12時限目 クラスパラディン

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 訓練場に乱入してきたパラディンの生徒たちを見て、リリアは顔を引きつらせた。

「ブラム……バーンズ」

「おや、そこにいるのは模擬試験で俺の相手をしてくれたお姫様じゃないか。どうだ、気絶する癖は治ったのか? 一人でトイレに行けるか?」

 ブラムの言葉を聞いて、周りの取り巻きはおかしそうにケタケタと笑った。良い気になったのか、ブラムはシオンたちを見ながら、あおるようにニヤけながら言った。

「魔導も使えないカスと、変態女装男、それと亜人か。この校舎に足を踏み入れるのも汚らわしいクズばかりだな。なんだイムドレッドはどうした? あの処刑人の汚れた血はとうとう退学になったか?」

「おまえ……!」

「やめとけ、シオン。向こうのペースに乗るな」

 怒りをむき出しにしたシオンを制して、ダンテはブラムに言った。

「バーンズ卿のご子息か。随分人気者のようだが、悪いな。今は授業中なんだ、帰ってくれ」

「授業? おままごとじゃないのか? こんな奴らに何を教えるっていうんだ。どうせすぐに退学になるって言うのに」

 ダンテに詰め寄りながら、ブラムは言葉を続けた。

「知っているぞ。こいつらを卒業させられなかったら、お前牢獄に送られるんだってな。こんなことしている前に、荷物をまとめるほうが先なんじゃないのか?」

「口だけは随分と達者じゃないか。政治家に向いている」

「口だけじゃないさ。俺はクラス『パラディン』だ。この学校の最高位なんだよ。お前らとは格が違う」

 懐から剣を取り出すと、その先端から青い炎を出現させてみせた。異界の炎を出現させる上級魔導。後ろでシオンたちがひるむのが分かった。ブラムが炎をチラつかせながら、近づいてくる。

「帰るのはお前らだ。そんな能無しに訓練所を使わせるなんて、時間と機材の無駄だ」

「いや、そんなことはない。俺の生徒たちの方がお前よりずっと強い」

「強がりを言うなよ。剣もまともに触れない奴らだぜ」

 リリアの方を見ながら、ブラムはせせら笑うように言った。その言葉を聞きながら、リリアはグッと自分の唇を噛み締めていた。

(何も言い返せない。私じゃこいつに勝てない)

 リリアの中に悔しさと情けなさがこみ上げてきていた。こんなにバカにされているのに自分は何もできない。

 不甲斐ふがいなくて、惨めだ。

「なら、やってみるか」

 何もできない、そんなリリアの思いに反して、ダンテはブラムをきつけた。思いもしない提案にブラムは戸惑い、そして怒りで眉間にしわを寄せた。

「あ?」

「俺の生徒より強いんだろ。証明してみせろよ。リリアと戦って、勝ったらここを明け渡す。二度とこの場所に近づかない」

「正気か、てめぇ」

「正気だ。子供相手に嘘はつかん」

 言葉通り大真面目な顔でダンテは言った。

「リリアに一太刀でも当ててみせろ。そうすれば、お前の勝利だ」

「先生……わたし……!」

「お前なら大丈夫だ。あいつくらいになら勝てる」

 リリアの肩を叩いて、ダンテは言った。

「行けるか?」

「……い……け……」

 彼女は青ざめた顔で、自分を睨みつけるブラムを見返した。すでに上級魔導の域に手を伸ばしているクラス「パラディン」。彼の実力は知っている。剣の腕前も並みではない。

 怖い。怖い。
 震えるリリアの耳元でそっとダンテが囁いた。

「大丈夫だ。お前の実力なら勝てる」

「そ……そんなわけ……」

「本当だ。俺に任せろ。勝ち方を教えてやる」

「勝ち方……」

「俺を信じろ」

 まっすぐに見つめてくるダンテから、リリアは目をそらすことができなかった。今まで感じたことない瞳。不思議と大丈夫なのではないかと錯覚するような、自信に満ちた眼。

「……分かった」 

 リリアは深く息を吐き出して、ブラムの前に立った。

「ブラム、勝負よ」

「良いぜ。やってやる」

 ブラムはリリアの返答を聞いて、あざけるように言った。

「青あざだらけになって、せいぜい後悔するんだな」

「よし、交渉成立だ」

「先生、さすがにこんな……」

 勝負を受けたものの、脚を震わせるリリアを見ながら、シオンが心配そうに言った。

「ブラムは強いです。僕たちと同い年ですけど、大人にだって負けないくらい強い。今のリリアじゃ……勝てるとは思いません」

「分かる。ブラムは強いよ。あの太った父親とは大違いだ」

「じゃあ、どうして……!」

「リリアは前に進みたいって言ったんだ。ここであいつ相手に踏みとどまっているようじゃ、トラウマなんて克服できない」

 額に滲む汗をぬぐって、リリアは壁にかけられた模擬剣を手に取った。その途端に電撃のように脳裏に蘇るものがあった。

 痛み。
 恐怖。

 何度も立ち上がって、何度も打たれる。じんじんとした痛みと、朦朧もうろうとする痛みの中でも誰かが手を差し伸べることはない。冷たい床の上に、血と涙が滲んでいく。

 私は何のために戦っているんだろう? なんでこんなに痛い思いをしないといけないんだろう? なんでこんなに怖い思いをしないといけないんだろう?

 だめだ。
 やっぱり勝てない。

「リリア!」

 彼女の思考を打ち破って、ダンテの声が頭の奥に届いた。ハッと我に返った彼女は、ダンテの方を振り返った。ダンテは彼女の眼をジッと覗き込むと、言い聞かせるようにゆっくりと言葉を放った。

「武器は持たなくて良い」

「…………え」

「これがお前の勝ち方だ。さっきの訓練を思い出すんだ。お前が相手にするのは剣士じゃない」

「剣士じゃ……ない?」

「そうだ」

 その言葉でリリアの思考が狭まっていく。痛みと恐怖が波のように遠ざかっていく。汗がサァッと引いて、頭の中に驚くほど冷たい風が流れる。

「行って来い」

 脚の震えはいつの間にか止まっていた。
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