王都から追放されて、貴族学院の落ちこぼれ美少女たちを教育することになりました。

スタジオ.T

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13時限目 フラガラッハの魔眼(1)

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 耳を閉ざせ。何も考えるな。
 けれど視界だけは広く、脚を動かせ。

「何のつもりだ。てめぇ……」

 徒手空拳としゅくうけん
 武器すら持たずに向かい合ったリリアを見て、ブラムは怪訝けげんそうに眉をひそめた。模擬剣を無防備な彼女の顔に向けると、「お遊びじゃねぇんだぞ」と吐き捨てた。

「気でも狂ったか」

「どうしたブラム。約束通り一太刀でも浴びせたらお前の勝ちだ」

 間に立ったダンテはブラムを見た。

「それとも怖いのか?」

「……舐めやがって。負け犬どもが」

 低い姿勢で武器を構えた彼は、取り巻きの女生徒たちの声援をバックに殺気をみなぎらせた。

「お望み通り、ボコボコにしてやるよ」

 ブラムとリリアが相対する。武器を持っていない素手のリリアと、小ぶりの模擬剣を持ったリーチの差は明らかだった。それでもブラムは容赦をするつもりはなかった。

(俺に喧嘩けんかを売った罰だ)

 開始の合図とともにブラムは脚を踏み込んだ。リリアの腰のあたりに向けて、一気に刀を振る。無防備な身体に直撃すれば、いかに模擬剣であろうとも立ってはいられない。

「……っ」

 リリアはまばたきすらせずに、その剣筋を追っていた。ブラムの一撃が迫ってくる。ギャラリーの女子生徒たちが悲鳴をあげて、目を覆った。

 何も考えるな。

 衝突の直前、リリアの脚は後ろへ跳んだ。模擬剣の切っ先が彼女の腹をかすめる。

「よくかわしたな!」

 敵も甘くはない。ブラムは刀を切り返し、今度は左肩へと狙いを変えた。

「これで終わりだ!」

 ……しかし模擬剣は再び空を切った。
 リリアの長髪が宙になびく。素早い動作で、彼女はかがんでブラムの攻撃をかわした。呼吸は落ち着いている。剣から眼を話すことなく、攻撃を追うことができている。

 私が相手にしているのは剣士じゃない。彼女はもう一度自分に言い聞かせた。

 リリアは続いて放たれた攻撃もかわした。右から左にステップ。最小限の動作で、ブラムの攻撃を避けてみせる。

「くそっ! ちょこまかと!」

 ブラムが悪態をつき、模擬剣に力を込める。間合いに思い切り踏み込んで、上半身から一気に袈裟けさ斬りにかかる。「死ね!」とイライラしたように剣を振り下ろした。

 その攻撃もかわす。
 次の攻撃も。そのまた次も。剣を当てることができないブラムに焦りが出る。まるでかすみを相手にしているように、リリアを捉えることができなかった。

(なんで当たらねぇんだ!)

 ブラムの表情に陰りが見えた。

 最初はへらへらと笑いながら見ていた取り巻きたちも、事態の異常さに気がついていた。ブラムの猛攻を、リリアがかわし続けている。息ひとつ切らさずに、彼女は紙一重のところで何度も攻撃を避けていた。決してまぐれではなく、常にギリギリの所で回避している。

 当のリリアはこれまでになく集中していた。剣筋を見る。かわす。彼女はひたすらに脚を動かしていた。

「リリア……すごい……」

 間近で見ていたシオンたちも信じられなかった。剣に相対するだけで、気絶していたリリアがあの猛攻撃を前にした正気でいるばかりではなく、完全に相手を掌握しょうあくし始めていた。

「先生、いったい何をしたんですか?」

「何もしてねぇよ。あれは元々あいつが持っているものだ。フラガラッハの血族が持つ魔眼。神がかった動体視力のおかげだ」

「魔眼……」

「異界レベルSのとんでもない代物だよ。並の剣士が相手できるものじゃない」

「……リリア、どうして今まで使わなかったんだろう……」

 マキネスの言葉にダンテは「トラウマだな」と言って肩をすくめた。

「恐らく幼少期の記憶だと思うけどな。フラガラッハとしての責任ゆえか、剣に対する恐怖が心を縛っていたんだろう」

「リリア、トラウマを克服できたんだニャ?」

「いや、そう容易く克服できるものじゃない。心の傷はそう簡単には塞がらない」

「じゃあ、どうやって……」

「暗示をかけたんだ」

 ダンテは何も持たずに、ブラムの猛攻をかわし続けるリリアに目を向けて言った。

「トラウマのスイッチは『戦闘』だ。敵と戦うことが、あいつにとって恐怖になっているなら、戦わなければ良い。向かってくる剣を避けるだけ。そういう暗示をかけておいた」

「そんなことで、ここまで変わるんですか……」

「集中させるための暗示だ。剣をよけることで頭をいっぱいにすれば、トラウマの入ってくる余地はない。集中しすぎて、本人にも何が起こっているかは分からないだろうけどな」

 ブラムの渾身こんしんの攻撃をリリアが軽々とかわしてみせた。疲弊しきったブラムの剣筋は徐々に精彩せいさいを欠いていった。

「はぁ……はぁ……」

 汗だらけのブラムの手から模擬剣が落ちる。カンと乾いた音が彼の敗北の合図だった。

「……くそっ!!」

 息を切らしたブラムは前に立つリリアを睨みつけた。青筋を立てるほど怒り狂った彼をよそに、リリアはハッと我に帰ると、きょとんとした顔で周りを見た。

「あれ、わたし……」

「リリア、お疲れさん。良く頑張った」

「ん? あれ? わたし勝ったの?」

「完勝だ」

 ブラムは顔をひきつらせて、リリアの顔を見た。彼女の余裕の表情に、さらなる怒りを掻き立てられたブラムは吐き捨てるように言った。

「できそこないの……くせに……っ!」

「ブラムさま……」

「うるさい。黙れっ!!」

 取り巻きの声を一蹴いっしゅうして、ブラムはリリアに向けて手をかざした。

「くたばれ!」

 燃え上がる炎がブラムの手から発射される。ほうけたように立ちすくむリリアに向かって、一直線に魔導が放たれた。

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