王都から追放されて、貴族学院の落ちこぼれ美少女たちを教育することになりました。

スタジオ.T

文字の大きさ
25 / 56

25時限目 対抗戦、迫る(2)

しおりを挟む

 妖精たちは呼び出されるやいなや、ダンテを襲い始めた。執拗しつように飛び回り、ダンテの肌をつねったり、ひっぱたりして、良く分からない言葉を放っていた。荒ぶる妖精たちに、ダンテは必死に謝罪していた。

「分かった分かった。今度からはちゃんと定期的に呼んでやるから」

「先生、妖精語が分かるんですか?」

「ん? こんなもん勘だ」

「しれっと四体も召喚しているし……」

 リリアはごくりと唾を飲み込んだ。
 召喚魔導は数ある異界物質の中でも、かなり負荷ふかが大きい。持続的な魔導の維持と、異界生物を服従させる術者の力が必要になる。簡単なものでも異界レベルはBクラスで、異界レベルの高い妖精となるとその難易度は計り知れない。

「先生、一体何者? どこの人外魔境で戦ってたのよ?」

「底辺の前線兵だからな。辺境から辺境だ。いやでも魔導は身につくさ。よしよしエレナ。そうだ、お前の相手はあの娘たちだ」

 顔の周りを蜂のように飛び回る妖精を捕まえて、ダンテはリリアを指差した。キキキと笑った妖精はくるくると回転して、リリアの肩に着地した。

 顔の大部分を占める大きな目がリリアのことを見ていた。

「かわいい……」

「見た目はかわいいが、なかなか頑固なところがあるんだ。機嫌を損ねないようにな」

「キキキ」

 口を抑えて、楽しげに妖精は笑った。

「この子が私の訓練相手?」

「そうだ。こいつの名前はエレナ。仮想の対戦相手として、これから三週間みっちり戦ってもらう」

「こんなに小さい子と戦うんだ……」

「戦うといっても、試合をするわけじゃない。さ、これを付けてくれ」

 ダンテは持ってきた箱の中から、風船を取り出した。ベルトが付随していて、あごにかけて帽子のようにかぶれるようになっている。ダンテはそれを四人に手渡した。

「本番の対抗戦で使うやつと同じタイプのものを貸してもらった。一分間逃げ続けられるまでやってもらう。バルーンは割られても、また自動的に膨らむようになっている」

「……この妖精がバルーンを割りに狙ってくるってことですか……」

「その通りだ。素早く動くエレナたちの動きを読み、かわし続ける。対抗戦で他のクラスの攻撃を想定した訓練だ」

「身体を動かすのは得意ニャ!」

「もちろん一筋縄ではいかない。エレナの長所は俊敏な運動能力だからな」

 ダンテの言葉を証明するかのように、ミミの近くにいたエレナが動いた。目にも止まらない速さで動いた妖精は、あっという間にバルーンを破壊してしまった。

 ミミは反応することすらできずに、棒立ちしていた。

「……速いニャ」

「ボールとは比べものにならない速さだろ。これが避けられるようになれば、魔導弾マドアなんて止まって見えるさ」

 ミミのバルーンが再び膨らむのを待って、ダンテは開始の合図をした。生徒たちの近くにいた妖精が一斉に動き始め、バルーンを狙ってくる。誰一人避けることができずに、バルーンはあっけなく割れた。

「ひいぃ……」

「これを一分……?」

「さぁさぁ、休んでいる暇はない。次も来るぞ」

 バルーンが膨らんだと同時に、再びエレナたちは動き始める。なんとか一回をかわしても、すぐに切り返して襲いかかってくる。視界の端から端を飛び回り、まるで相手をからかっているかのように、攻撃を行う。

 生徒たちになすすべはなかった。その様子をダンテが校庭の隅で見ていると、フジバナが心配そうな表情で駆け寄ってきた。

「あの子たち、大丈夫でしょうか」

「ん?」

「私も同じ訓練を受けましたから。あれは学生というより兵士の訓練です。エレナの体力はほぼ無尽蔵で、途切れることを知りません。何人もの訓練兵たちが脱走したのを覚えています。果たして最後までもつでしょうか」

「分からんな。でも今回ばかりは逃げられない。退学がかかっているんだ。ここで根をあげるのだとしたら、その時は所詮そこまでだったってことさ」

 ダンテは「バーンズ卿に感謝だな」と言ってニヤリと笑った。

「危機感がある時ほど、人は大きく成長する。ここが踏ん張りどころだ」
 遠くの方から破裂するバルーンの音が聞こえた。「うわああん、無理だよぉ」とリリアの泣き叫ぶ声と、マキネスがどしゃりと地面に崩れ落ちる音が聞こえた。

「……さて、どうなるでしょうか」

「あとはうまく祈るようしかないな」

 西日が沈み、あたりが真っ暗になるまで、生徒達の訓練は続いた。命運決する対抗戦は、着実に近づいてきていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...