王都から追放されて、貴族学院の落ちこぼれ美少女たちを教育することになりました。

スタジオ.T

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31時限目 女子部屋、度々

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 マキネスは女子部屋のソファの隅で、身じろぎもせずうずくまるリリアの肩を叩いた。

「……リリア、スープ冷めちゃうよ」

 ストーブの上で温めたスープ缶が、食卓の上で湯気を立てていた。ミミが大きなパンを、ナイフで切り分けて大きな皿の上においた。

「お腹が空くと悲しくなるニャあ。何か食べた方が良いニャ」

「ね、ほら、みんなで食べよう……?」

「……いらない。勝手に食べてて」

 リリアはうつむきながら、小さな声で言った。ボーンクラスとの模擬戦闘から帰ってきてからずっと彼女はこの調子だった。一ポイントも取ることができなかったことが、相当響いているようだった。

 腕を引っ張ろうが、何をしようが頑として動かないリリアに、マキネスはどうしようもないと言う様子でため息をついた。

「……もう」

「お腹空いたニャ」

「……弱虫リリアは放っておいて食べちゃおうか……」

「そうするニャ。ついでに取っておいたハムも食べちゃうニャ」

「良いね……」

 部屋の隅の食料箱から燻製くんせいのハムを取り出したミミは、肉塊にくかいをガシガシと豪快に切り始めた。大きな木箱には三人が買いだめた食料が保存されていたが、そこから次から次へと食料を取り出していく。箱の奥の奥からマキネスは、砂糖漬けのバナナを取り出した。ビンの外側には「リリア専用」と書かれている。

「……これも食べちゃおう」

「良いのかニャ。リリアが大切にとっておいた奴だニャ?」

「……良いの。リリアは食べる気ないみたいだから、私たちで全部平らげてしまおう」

「今夜は豪華だニャあ」

「リリアのチョコも食べちゃおう……」

「やったニャ!」

 好き放題に食料を並べた二人は、容赦なくむしゃむしゃと食べ始めた。大事にとっておいたチョコレートも、暖炉の火であぶって溶かしてから、パンに塗ってぱくりと口の中に入れてしまった。

「……おいしいね」

「幸せだニャあ……」

 ほんのりと甘い匂いが部屋の中に立ち込める。それは当然、ひざを抱えてうずくまるリリアの鼻腔びくうもくすぐった。ぐぅうと腹の音が部屋の中に響きわたった。

 ニヤニヤとその様子を眺めながら、ミミはぱくんと砂糖漬けのバナナを食べた。

「他人の飯はうめぇニャ」

 その言葉でリリアの何かが、ぷっつんと切れた。
 リリアは顔をあげると、むすっと顔を赤くしてにらみつけた。

「ちょっと二人とも」

「何?」

「なんだニャ」

「ちょっとは遠慮したらどうなの。私いま食べる元気ないんだよ。あー! それ、隠しておいたマシュマロじゃん!」

「……いただいてます」

「ううう」

「早くしないと全部食べちゃうニャ」

 悲しみと怒りで顔をゆがめたリリアは、何か言いたげに拳を振り上げると、「あぁ、もう!」と言って手近にあったクッションを叩いた。

「私も食べる!」

「……どうぞどうぞ」

「はぁ、もうお腹空いた!」

 ハムのかたまりに食らいついたリリアは、次から次へと食べ物を口の中に入れ始めた。今までの怒りをぶつけるかのように、ガツガツと腹を空かせた虎のごとく食らいつき始めた。

「……ちょっと食べるの早いよ、リリア」

「うるさいなぁ。食べるなっつたり、食べろって言ったり」

「でも食べる元気が出て良かったニャあ」

「元気が出たわけじゃないもん。ちょー落ち込んでるし」

 炙ったマシュマロをぱくんと食べて、リリアは言った。

「頑張って練習してきたのに、あそこまで何もできないなんて思わなかった。山の頂上まで登ったはずなのに、実は一歩も進んでませんでしたって言われたみたい」

「……それちょっと分かる」

「本当に惨敗だったニャあ」

「私たち……このままで大丈夫なのかな」

 フォークを皿の上に置いて、リリアは俯いた。皿の上にこべりついたチョコレートの跡に視線を落として、彼女は言った。

「次の対抗戦でポイントを取れなかったら、アカデミアを退学になっちゃうんだよね。そしたら私はきっと……落ちこぼれのままで終わっちゃう」

「……私も同じ。どうなるんだろ……」

「ミミは闇医者になるしかないニャ」

「ねぇ、二人は怖くないの?」

 リリアの問いかけにミミとマキネスは、食事の手を止めるとあっさりと頷いた。

「……怖いよ」

「怖いニャ」

「じゃあ、どうしてそんなに元気でいられるの? 私は怖くて仕方がないんだ。戦うことも負けることも怖い。このままで大丈夫なのかなってすごく不安になる」

「そんなの決まってるニャ」

 ぴくぴくとヒゲを動かして、ミミはにっこりと笑いかけた。

「空元気だニャ」

「え?」

「……無理してるってこと。本当は怖くて仕方がないよ。でもここでいじけても何も変わらないから、仕方なくやけ食いしてるの……」

「……何それ」

 リリアはぽかんと口を開けて言った。

「なんだ二人も落ち込んでたの?」

「……今更気がついた?」

「にぶいニャあ」

「……本当は、私たちもいじけたくて仕方がなかったけど、リリアがずっと落ち込んでるから、無理やり元気出してたわけ。この部屋で全員落ち込んでたら、それこそ地獄みたいでしょ……」

「あー……」

 顔を覆って俯いたリリアは二人に頭を下げた。

「ごめんごめん。私が悪かったよう。私が子どもだった」

「許すニャ」

「……後、一週間あるから、まだ終わったわけじゃない。きっと先生たちも頭を悩ませてるはずだよ。みんなで頑張ろう……」

「……そうだね!」

 マキネスの言葉に元気よく頷いたリリアは「よっしゃ」と言って、ストーブでマシュマロを炙り始めた。とろりと溶けたマシュマロを、チョコレートでひたひたに浸して糖分をアップグレードさせていると、誰かが部屋をノックした。

「ん、誰だろ、こんな時間に?」

「……はーい……どうぞー……」

 マキネスが呼びかけると、ドアが開いてダンテとフジバナの顔がのぞいた。

「お、すまんな。こんな夜中に」

「随分と良い匂いですね」

「傷心パーティーニャ」

「なんだそれ」

「でも、元気そうで良かったです」

 食卓に好き放題食料を並べる三人を見て、フジバナは安心したように笑った。

「先生たちも食べる?」

「あー、いただきたいところだが、ちょっと用事があるんだ。シオンを見なかったか?」

「シオン? ううん、来てないよ」

「放課後は一度も見てないニャあ……」

「そうか、それはちょっとまずいな」

 ダンテは思わず頭を抱えた。

「どこにもいないの?」

「部屋にもいませんし、校舎のどこにもいなかったんだ」

「変だね。だいたい夜中は私たちの部屋か、自分の部屋にいるのに」

「……先生は心あたりないんですか……?」

 ダンテは珍しく焦った表情を浮かべていた。

「あいつもしかして、イムドレッドのところへ……」

 嫌な予感が脳裏をよぎった。
 そうなると運良く見つけてしまった場合の方がまずい。あそこにいるロス・エスコバルと鉢合わせてしまった時に、シオンが無事でいられるとは思えない。格好のえさみたいなものだ。

「ちょっと行ってくる」

「隊長、私も行きます」

「いや、フジバナは留守を頼む。……ひょっとしたら、ちょっと帰ってこられないかもしれない。その時は授業をよろしく頼む」

 深く考えている時間はない。
 一言二言フジバナに伝言して、ダンテは旧市街へと足を向けた。
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