王都から追放されて、貴族学院の落ちこぼれ美少女たちを教育することになりました。

スタジオ.T

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52時限目 憧れ(1)

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 狡猾老獪こうかつろうかい
 この時を待っていたと言わんばかりのタイミングで、アルトゥーロ・セタスのトップはダンテの前に現れた。大量な私設兵を投入して、エスコバルのメンバーを討伐すると、虫の息だったパブロフにとどめを刺した。

 倉庫の内外に展開する兵士は百に届こうとしていた。

「勝った方がブラッドの血をもらえると聞いたのだが」

 齢七十を超えた老人。やせ細った身体は、枝のように細かった。墓場に立つ骸骨のような、不気味なシルエットだった。細い首が縦長の馬のような顔をささえている。

 こちらへと歩いてくる彼は、無防備で隙だらけだった。

 だが、ダンテは剣を振るうことができなかった。老人を攻撃しようと剣をあげた瞬間が、自分の最後になるだろうと確信していた。この数秒間で急所のほとんどに、狙いを定められている。

 ピンと張り詰めた糸のような緊張の中で、ただこの老人だけが動いていた。

「きみ」

 老人はパブロフの死体から、視線を上げるとダンテの顔を見た。

「イムドレッド・ブラッドはどこにいる?」

 その声だけでビリビリと、周囲の空気が震えるような気さえした。
 まだ戦いは終わってなどいなかった。パブロフを倒したところで、他の組織が諦めるわけではない。むしろエスコバルの幹部らが倒れた今、ダンテの存在は彼らにとって、邪魔以外の何物でもなかった。

 彼らの矛先は今、ダンテに注がれている。返答によっては、取り囲む弾丸が一斉に襲いかかってくる。なるだけ平静を装い、ダンテは返答した。

「俺が知っていると思うのか」

「君が知らねば誰が知る」

 口ひげに触れていた手を離し、老人は後ろの部下に合図をした。

「ブラッドの元へと案内したまえ」

 控えていた兵士たちが一斉に光弾を構えた。有無を言わせない強引さと数の暴力は、手堅く確実なものだった。

(……パブロフとの戦いで体力を消耗しょうもうしすぎたか)

 単純に召喚するだけでも、童子切は恐ろしいほどの体力を奪っていく。そのうえで能力を発動すれば、必要となる魔力がさらに上乗せされる。並みの術者であれば、失神するほどの体力を奪われる。

 アルトゥーロのリーダーはそれを分かっていて、ダンテの前に姿を現した。パブロフかどちらかが死ぬのを待ち、漁夫の利を得ようと、虎視眈々こしたんたんと襲撃の準備を狙っていた。勝機をジッと待っていたしたたかさに、ダンテは舌をまいた。

「さぁ、どうする? お若いの」

 老人は試すような視線をダンテに送り、「大人しく引き渡してくれれば手出しはしない」と笑った。

「我々の目的はブラッドだけだ。一般市民に手を出すつもりはない」

 ダンテはその言葉に無言で返し、刀のつかを握る手に力を込めた。抵抗する姿勢を見せた彼に、老人はまぶしそうに目を細めた。

「奇特な男だ。殺すにはあまりに惜しい」

「……死ぬつもりはない」

「若いな。お前もその男も。その若さは命を縮めるぞ」

 足元のパブロフの死体に憂うような視線を送って、老人は後方の部下に合図をした。

「殺せ」

 一斉に光弾が放たれる。無数の弾丸が風を切り、ダンテを襲った。迫ってきたそれらを一振りでなぎ払った後、童子切によって放たれた斬撃が、後方から老人を襲った。

 超速の不意打ちを、白く輝く防御膜が弾いた。二つの魔導は激しくぶつかり合った後、互いに霧散した。

「ちいっ!」

 対策されている。パブロフとの戦いを見られていた。

 光弾は止まらない。後ろからの攻撃も防がれている。圧倒的な多勢に、さすがのダンテも防御に専念するしかなかった。

 童子切の斬撃が勢いを失いつつある。体力の消耗が激しい。百人近い手練に逃げ道を阻まれて、ダンテにはなすすべがなかった。

(さすがにきつい……!)

 光弾の一つを撃ち漏らす。

 剣筋の隙間を抜けて、光弾がまっすぐに突き進んでくる。完全にかわすことはできない。せめて急所を外すために、ダンテは身体をずらした。衝撃に備えて身構える。

「……っ!」

 万事休す。

 そう思った瞬間に、その光弾の嵐を素手で弾くものがあった。ダンテの前に立ちはだかった巨体は、肉体のみで全ての光弾を受け止めた。

「な……に!?」

 金属と金属がぶつかり合うような音が倉庫内に響き渡る。受ければ肉をえぐられることは間違いない光弾を数十発。それを食らってもなお、その男は平然と立って笑っていた。

「おう、どうにか間に合ったな!」

「不倒の……エーリヒ」

 ダンテがその男の正体を認識する。不倒のエーリヒ。生ける伝説。いくつもの戦争で、戦線を守り抜いた王国随一の英雄。その男がダンテの前に立っていた。

 
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