魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

文字の大きさ
14 / 220

第12話 大英雄、再び魔物退治をする

しおりを挟む
 翌朝の朝食はいつも通りスープとパンだった。レイナは朝早くに起きて、かまどに火を入れてパンを焼いてくれている。少しげているが、バターと小麦の良い匂いが食欲をそそる。

 スープには鹿の肉を薄くスライスしたものと、菜園で採った野菜が入っていた。2人で畑を耕して、毎日欠かさず世話をしていたものだ。最初は苦労していたが、2年目の夏からようやく実がなるようになった。

「レイナ、今日はナスが採れたぞ!」

「そうですか」

「レイナ、今日はトマトが採れたぞ!」

「……そうですか」

 収穫するのはいつも決まって俺だった。
 レイナは水やりは進んでやってくれるのだが、いざ収穫となるとレイナは乗り気にならず、とっくにれている野菜に何時までも水をあげ続けている。

 その理由を聞くと、彼女は悩ましげに言った。

「嫌ではないのですが……せっかく育てたのに、もったいないような気がするのです」

「そんな理由か……? 食べるために育てたんじゃないのか?」

「分かってはいるのですが、出来ないのです。そろそろ食べごろということはわかります。これを逃したら実が枯れて、ダメになってしまうことも分かります。それでもどうしてだか、せっかく育てたものを自分の手で採るのはひどく残酷な気がするのです」

 鶏も豚も躊躇ちゅうちょなく仕留めることが出来るレイナだが、野菜に関しては妙な親近感を持っているようだった。

 それからは、俺は収穫した野菜をいつもレイナに気づかれないように食料庫に入れることにしている。

 空になった食器を洗い場の方に持っていくと、レイナが俺に言った。

「お口にあいましたか?」

「あぁ……とても美味しかった」

「良かったです」

 レイナは俺に背を向けたまま返事をした。
 表情は見えないが、口調は昨日俺が帰ってきた時ように怒ってはいなかった。フライパンを軽快なリズムで洗うシャカシャカという音が聞こえる。黒い髪留めで束ねた白くて長い髪が、首の動きに合わせて揺れている。

 今日は上機嫌なレイナに目をやりながら、コーヒーを飲む。

「あー、平和だ」

 平穏な朝を満喫まんきつしていると、静けさを打ち破って誰かがドンドンと家のドアを激しくノックした。

「アンク、いるー!? わたし、わたし、パトレシア! また魔物が出たのー!」

「魔物……!?」

 昨日に続く異常事態を聞いて、思わずコーヒーを吹き出す。
 ただごとじゃない。慌ててドアを開けるとパトレシアがはぁはぁと息を切らしていた。なぜか服がびっしょり濡れている。

「どうしたパトレシア……っ……!?」

 あられもない彼女の姿に言葉が詰まる。

 水に濡れて服が透けて見えている。ピンクの下着がほぼ丸見えだ。早朝から見るには刺激が強すぎる。目のやり場に困る。

「ま、魔物だ……」

「え? ここにも魔物が?」

「い……や、何でもない。魔物が出たのはどこなんだ」

「あの、水車の方でトビッコウオが大量に出現していて、大変なの! このままだと水車小屋が沈没しちゃうかも!」

「トビッコ……なんだって?」

「トビッコウオ! 口から水を吹き出す魚が魔物化したの!」

 なんだそれは。初めて聞く生物だ。

「水車小屋に魚が出た……? あそこは村の中心部だろ。流れも速いし、魚が流れてくるような場所じゃない」

「たぶんだけれど、先月の嵐に流されて来たかもしれないわ」

「増水の影響か。あー、あっちは川上に繋がってるかならな」

 サラダ村に流れる川の源流は、瘴気の濃い山の中だ。増水の騒ぎに紛れて流れてきていても、おかしくはない。
 
 麦をひく水車小屋は村の食料の要だ。水没してしまったら、厄介なことになる。

「小麦が浸水か……何はともあれ面倒だな」

「事の深刻さは理解した!? 行こう!」

 昨日と似た様な感じで、手を引っ張られて引きずられるようにして、家を出る。

「ま、待て。その前にその格好を……」
 
 言いかけたところで、ベランダからレイナが2人分のレインコートを投げてきた。寸分の狂いもないナイスパスでレインコートは俺の胸元に着地した。

「ありがとう! 気がきくな!」
 
「晩ご飯までには帰ってこられますか」

「あぁ!」

「では用意して待っています。それと……」

 そう言ってレイナは目配せした。レインコートには走り書きのメモが挟んであって、「視線に気をつけて下さい」と一言書いてあった。

「気が効くなぁ……」

 レイナの気遣いに感心しながら、パトレシアにレインコートを渡す。これで良し。

 森の中を走って、水車小屋がある川の方まで向かう。見かけによらず、パトレシアは身軽に跳ねる様に走っていた。
 
「そのトビッコウオってなんだ?」

「大根畑のおじいちゃんが文献で調べてくれたんだけど、魚のくせに空中を飛び交う変な奴らしいわ。たまに雨の日に川から出てくる珍しい生き物よ」

「雨ねぇ。なんでまた今日なんだろう」

 空を見上げると雲ひとつなく、さんさんと輝く太陽が地面を照らしていた。言っている話と違う。

「私にも分からないわ。しかも結構な大群で、もー、手がつけられないの」

 話によるとトビッコウオは村のおっちゃんたちが発見したらしく、水車小屋の近くを飛び回り、水を吐き出して貯蔵していた小麦を浸水させている。敵の出どころも分からず、どんどん集まってきているそうだ。

 おかげで水車小屋の周辺は、てんやわんやの騒ぎらしい。パトレシアもすぐに駆けつけたが、トビッコウオの抵抗になすすべなく、戻ってきたということだ。

「怪我人はいるのか?」

「ううん、今のところはいない。食料庫の中身はやられちゃったものもあるけれど、もう他のところに避難させたわ。人間を攻撃する様子はないけれど、やたらめっぽうビュンビュン飛んでいて手がつけられないの」

「昨日に引き続き……か。人を襲っていないのは幸いだけれど、なんだかしっくりこないな」

 魔物の様子がおかしい。俺が今まで知っている魔物とは明らかに様子が違う。
 生き物には行動原理がある。お腹が空いたとか、身を守るとか、子供を守るためだとか。

 魔物の行動原理は単純明快だ。
 それは人間を攻撃して、殺すこと。女だろうと子供だろうと大人だろうと、問答無用で攻撃する。何が魔物達をその行動に駆り立てているからは今でも分かっていない。

 ただ、人間のみを攻撃する。
 魔物化した生物は死ぬまで、人間を憎む。

「俺が知っている魔物とは違うのか……?」

 昨日と今日、不可解な魔物が出現している。俺の知らないところで、何かの異変が起きている。
 
 そして、もう1つ。
 昨日見えたどこかの光景。血生臭い誰かの物語。魔物を殺して暮らす人間。ノイズ混じりの映像は、人物を特定出来るヒントにはならなかった。

「心当たりも無いっていうのが、気持ち悪いな」

 心当たりがない、忘れていた昔のこと、ということでもない。知らない誰かの目線を通して、気が滅入るような人生を体験していた。
 
 ……なぜそこまで世界に対して絶望しているのか、そればかりが気になって、胸の中にもやもやとした違和感を残していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。 なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。 2月13日完結予定。 その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

処理中です...