魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

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第27話 大英雄、訪問を受ける

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 レイナの声が聞こえる。
 身体が揺さぶられ、頬を彼女の髪先がくすぐった。

「アンク……さま!!」
 
 目を開ける。
 レイナが必死の形相ぎょうそうで俺に呼びかけている。天井が見え、自分が倒れていたことにようやく気がついた。

 身体がどことなくしびれている。今回の映像は以前の物より長く、そして少しだけ鮮明になっていた。

「だ、大丈夫ですか……!」

「あぁ……問題ない」

 目をこすると、痺れのようなものはすぐに無くなった。意識も明瞭めいりょうで、実際にはそこまで時間が経っていないことが分かった。窓の外はまだ夕方だ。

「また、気を失っていたんだな」

「はい。今度は苦しそうにうなされていて……いったいどうされたのですか」

「いや……」

 『アンク』
 今度ははっきりと分かった。映像の中の登場人物の1人。森の中でシチューを作っていたものの男は間違いなく俺だった。顔形や『異端の王』を討伐すると言っていることも整合せいごうが取れている。

 けれど、なぜだろう。今の映像は俺自身の記憶にはないものだ。そもそも俺の記憶ではないのか、それとも……、

「アンク……さま?」

 横に立つレイナが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。

「……なんでもないよ、大丈夫」

 レイナの手のひらに視線を落とす。餃子を包むために、レイナは手袋を外していた。そして手を重ねた瞬間に、あの映像が流れ込んできた。

 前回はシチュー。
 前々回は血に触れた瞬間だった。

 いずれも、この家の中で起きたことだ。

「なぁレイナ。何か……隠していないか?」

 そう問いかけると、レイナは息を呑んで俺から視線をらした。口を開いたと思うと、やはり何も言うことなく黙り込んでしまった。

 怪しい。心当たりがありそうだ。

「何か……知っているんだな?」

「……私……は……」

 レイナは手を組んで、ふるふると震えていた。俺から距離をとるようにすっと、後ろに下がってそのまま逃げようとした。

「待ってくれ、レイナ。秘密は無しだ……!」

 俺が呼びかけると、レイナは何かにおびえるようにビクンと肩を震わせた。身体を縮こまらせた彼女は雨に濡れた子猫のように、哀れにすら思えた。

 間違いない、彼女は何かを知っている。そして何かを恐れている。

「何か知っているなら教えてくれ。できる範囲で構わないから」

 彼女は俺から視線をそらしたまま、ようやく言葉を発した。

「……おそらく、それは私の魔法に関係するものかと、思われます」

「魔法?」

 レイナは頷いた。

「私の魔法は人の記憶に関するものです。……接触によって記憶を混濁こんだくさせる力が私の魔法にあります」

「5大魔法に属さない力か……もしかして、それを知っていて手袋をはめたのか」

「……はい、力のコントロールがうまくいかなくて、アンクさまにご迷惑をおかけするのではないかと思って、それで……」

 目を伏せながら、レイナは言った。乱れた前髪に隠れて、彼女がどんんな表情をしているかは分からなかった。

 ただ、彼女の声は震えていた。途切れ途切れの様子で話す彼女は、明らかに動揺していた。

「じゃあ、あの映像については? あの森の中で会った人間のことだ。真っ赤な。あれは一体誰なんだ? 本当に起こったことなのか?」

「わかりません。あくまで幻覚ですから」

 レイナは少しだけ視線をあげて、首を横に振った

「……私に分かるのは、自分の能力が記憶を混乱させるものだということだけです。その際にアンク様が何を見ているかまでは分かりません。その人について、アンク様の記憶に無いということであれば……やはり幻覚は幻覚なのでしょう」

「全部……幻覚」

「はい、ですから気になさることではありません」

「気にすることは……ないか」

 全て幻覚。そう言われたほうが安心はする。
 だが、何かがおかしい。あれはおそらく一続きのストーリーになっているからだ。

 レイナの説明では納得は出来ない。
 考えを巡らせていると、レイナが申し訳なさそうな声を発した。

「あの……ごめんなさい。今後はこのようなことが無いように、アンク様には触れないようにいたしますので」

「いや、良い。むしろ気になってきた。一体、あの映像が何なのか。レイナ、もう一度試してみても良いか?」

「だ、ダメです!!」

 レイナは怯えたように大きな声で叫んで、後ずさった。手をかざして近づいてきた俺から逃げるように、キッチンの出口の方まで後退した。

 レイナの息は荒く、本当に嫌がっているようだった。

「……この魔法はダメです。負担がかかって、とても危険なんです。ですから……不用意に近づかないでください……!」

「そんなに危険なのか」

「はい……ですから、絶対に……ダメです!」

「あー……悪かった。ごめん、レイナ」

 差し出した手を引っ込める。

 無理してまで知りたいことでもない。それが危険なことならば、レイナが嫌がるのならば、強要することもできない。

 あの映像に関しては忘れた方が良さそうだ。
 それが何のなのかは知らないが、今のところ世界は平和で、とどこおりこなく回っている。

 好奇心は猫をも殺す。
 この辺が引き際だ。何より嫌がっているものを無理やり強制したくはない。

「よし! じゃあ餃子を作りを再開しようか! 皮も包んだからあとは焼くだけだ」

「は、はい……申し訳、ありません」

「もう謝らなくて良い。レイナは何も悪くない」

「で、ではお食事の準備を……」
 
 ホッとした顔のレイナが、フライパンを準備しようとしたその時だった。

 トン、トン。
 ドアをノックする音がした。

「誰だ?」

「こんな時間にお仕事でしょうか……?」

 トン、トン。
 木の扉を叩く音は、再び鳴った。切羽詰まっているような感じでも無い。魔物退治の依頼だったら、もっと叩きつけるようにノックするはずだ。

 俺にそっと目配せしたレイナが、ゆっくりとドアのほうへと向かう。軽くドアをノックする音に応えて、ドアノブを回す。

「はい、どなたでしょうか……?」

「突然、すいません。私、聖堂につかえるものです」

「……シスターさん、ですか?」

 レイナが応対している相手は、黒い修道衣を羽織っていた。聖堂につかえるシスターが着用している制服だ。

 そのシスターは子供かと思えるほどに小柄だった。目深に被っているので、顔は分からないが、ちらちらとブルーの髪の毛が見え隠れしている。

 青い……髪……?

「そちらにおられるのは大英雄さまですか?」

 シスターは顔を伏せたまま、俺の気配に気づいたようで、身体をこちらに向けた。

「あぁ、俺は『異端の王』を倒したアンクだ。なぁ、もしかしてあんた……」

「やはり、そうでしたか! 探した!……じゃなくて探しましたよ!!」

 パァッと輝くような顔を向けた彼女は、にっこりと眩しいくらいの笑みを向けた。宝石のように綺麗な髪と瞳。神々しささえ覚える、この外見は間違いなく……、

「おまえ、めが……!」

「お久しぶりです、大英雄さま!」

 女神じゃないか、と言おうとしたところで、シスターはすっと人差し指を動かして、俺に黙るように促した。

 そして再び深刻そうな顔つきに戻ると、レイナの方を向いた。

「わたくし、旅先で大英雄さまに助けられました『サティ』と申します。今日は聖堂からのメッセージを届けに伺いました」

「は、はぁ……女神さまと同じお名前ですか」

 レイナは突然現れたシスターに怪訝そうな視線を向けた。

「シスターとしてはありふれた名前です」
 
 怪しすぎるシスターはフードを脱いで、ボサボサの肩まで伸びた青い髪を整えた。
 ホッと息をつくと、サティは家の中に入ってキッチンの方を見ると、嬉しそうな顔をした。

「……突然でおこがましいのですが、わたくし、とてもお腹が空いておりまして……」

「お腹?」

「はい、腹が減って、もう倒れそうで……」

 そこまで口にすると、サティは前のめりになってバタンと倒れた。糸が切れたみたいに彼女の身体は床に転がった。

 ぐううううううう。

 派手なお腹の音が鳴った。床で広がった修道衣はまるで、巨大な影のようだった。
 サティ、もとい女神サティ・プルシャマナは突然俺の家へと現れて、そして空腹で倒れた。
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