魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

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第42話 大英雄、プレゼントを買う

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 総工費は金貨1万枚を越える。
 暗黒の季節の発生前から着工が始まっていたショッピングタワーは、1ヶ月前にようやく完成した。

 せいぜい2階建の建物が並ぶ都市の中で、10階建ての派手な外観のビルはいやでも目立った。美食ストリートを半分も歩くと、すでに全貌ぜんぼうが見えてきていた。

「……なんか見れば見るほどヤベェ外観だな」

 ショッピングタワーはピンクと白のしましま模様で、ゴテゴテしい色の大量の彫刻で飾られていた。

「10フロアにそれぞれ沢山の店舗が入っているの。1階から6階までは服屋さんと雑貨屋さんと魔導具屋さんとか。7階と8階にはレストランがいくつかあって、1番上は事務所が入っている。地下にはコンサートホールがあるんだよ」

「説明ありがとう。しかし……すごいな」

「でしょー。カルカット市の一大事業なんだから」

 ナツは誇らしげにそう言った。
 入り口付近は長蛇の行列。モンペを着ている人はおらず、カラフルでお洒落な服を着た現代っ子ばかりだ。

 その光景を見て、サティが震える声でつぶやいた。

「これが……君の故郷で言うところのバベルの塔ということか」

「おい、天罰で壊すとかやめろよ」

「いや……こんな建造物があると女神の威光いこうが薄れる……」

「そんなことないよ。9階はまるまる聖堂になっているし」

「お、本当かい?」

 ナツの言葉にサティが耳をピクンと反応させた。

「本当、本当。現にショッピングタワーの建設には女神教の大聖堂からも出資があったし。ほら、あそこにちゃんと描いてあるでしょ」

 ナツが指差した方向には確かに、9階と思われる場所に「女神教聖堂アリマス」と小さく書かれていた。

「ね?」

「……もっと目立つように描いてもらおう」

 渋い顔をしながらも、サティは少し上機嫌になったようだった。
 
 行列に並ぶこと30分弱。広い入り口を抜けるとまぶしい光に照らされた広い室内が広がった。

「なんと……まぁ……」

 エントランスは巨大な円形のホール。吹き抜け構造のショッピングタワーは、きらびやかなステンドグラスの飾り付けでいろどられていた。

 中心には光輝く巨大な魔導石が収められていて、タワー内を明るく照らしていた。その光にステンドグラスが反射して、赤、青、黄色などカラフルな光で輝いている。

「これは……本山の聖堂よりも豪奢ごうしゃだ。あいつらいったいどこにそんな金が……」

「もしかして、この魔導石で建物を支えているのか?」

「そうそう。石と石を組み合わせて、そこに地の魔法の力を加えているの。だからこんなに高い建物が建てられたんだって」

「魔法がけて、崩れ落ちる未来しか見えない」

「物騒なこと言うなよ」

「無い無い。この魔導石は大魔法使いが持って帰ってきた最大級の魔導石なんだから」

 ナツに手を引っ張られて、2階へと続く階段を登っていく。螺旋らせん状に繋がっている階段は、手すり部分が金色に輝いていた。

「うーんと……、あ。アクセサリー系はここかな」

 ナツに案内されて、4階にある装飾品売り場へ入っていく。フロアにいるのは女性がほとんで、高そうな宝石も売られている。富裕層が多く、有名な貴族の夫人の姿も見える。

 お金、大丈夫だろうか。

「……アンク、スリも多いから、あんまり人前で財布の中身を確認するのは良くないよ。それに……その分だとあまり高いものは無理そうだね」

「……ぎく」

「まったく、稼いだお金はどこにいったのかな。まぁ、心配しなくても、少し行けばちゃんとお手頃の店もあるから。こっちこっち」

 ナツに言われるがままに、ゆるやかなカーブを描いている廊下を進んでいく。円形になっているフロアの外周に店が並んでいる造りで、外国の品物も売られていた。

 たくさんの人で賑わうフロアは、前に進むのすらやっとと言う様相ようそうだった。早朝の満員電車を思い出す。

「すごい人だな」

「カルカットの目玉だからね。10数国の貨幣を交換なしで使うことが出来るのも便利だし」

「ふむ、もともと貨幣交換の目的もあるんだね。考えたやつは頭良いな」

 人混みにぎゅうぎゅう押されながら、サティが興味深げに言った。「むぎゅう」とか「ふぎゅう」とか言いながら、ようやく螺旋階段の方から離れたエリアまでたどり着くと、人の流れも収まっていた。

「疲れた……」

 なんだか、魔物と戦うよりも疲れた。

「ほら、この辺なら可愛いし、流行りものも多いよ!」
 
 行列にまれても元気なナツが、アクセサリーショップの前で立ち止まる。
 ナツの言った通り、この辺りの店は(他の店に比べると)値は張らなかった。品数も豊富で、色とりどりの宝石や珍しいアクセサリー類であふれていた。

 髪留めコーナーにも沢山の商品が飾ってある。見た目が派手ものや、魔除まよけ効果があるものまで色々とあり、選ぶのに時間がかかりそうだ。

 とりあえず、売り出し中と書かれた1つを手に取る。

「お、これなんか、良いんじゃないか。ドラゴンの目玉を使った髪留め。魔力上昇、かぜ、肩こり、腰痛などに効果があるって」

「………………ダメ、きもい」

「……きもいか」

 効果と魔力だけなら、かなり良い線を言っていたが。

「近所のおばあちゃんにあげるのは、良いかもしれないけれどね。レイナちゃんはまだ若いし、やっぱり可愛さ重視の方が良いと思う」

「可愛さねぇ……これなんかどうだろ。一番人気って書いてあるし」

 次は真珠しんじゅがあしらわれた白い髪留めを取る。

「悪くない、けど……もう少し、色が派手な方が良いかも。レイナさん髪の色が白いから、その色だと埋もれちゃうよ」

「むむむ」

 派手目な色、見栄みばえの良いものか。
 近くの店でしれっと宝石をかすめ取ろうとしているサティは後で叱っておくとして、レイナが喜びそうなものはなんだろう。普段あまり着飾っているわけでもないし、好みが分からない。

「これは? 星型」

「ちょっと子供っぽいかなぁ」

「花は? こういう赤い花とか良いんじゃないか」

「うーん、モチーフが季節ものだからねー。オールシーズン使えるものの方が無難かな」

 悩ましい。
 何度も相談しながら選んだのは、オレンジのリボンをモチーフにした髪留めだった。レイナの髪と合わせると良いアクセントになる気がする。

「うん! これは良いよ!」
 
 ナツも俺が手に取った髪留めを見て、満面の笑みで納得した。値段もまぁまぁ買える範囲で、素材もしっかりしている。お守りとしての効果があるはずだ。

 買った髪留めを包んでもらって、ショッピングタワーを出る。ここに来るまで、随分時間が経ってしまったが、無事に買うことができて良かった。給料もまともにあげられていなかったから、こういうところくらい奮発ふんぱつしないと。

「これに決めた! ナツ、ちょっとサティを捕まえてくるから、ここで待っていてくれないか」

 珍しい色の宝石から盗んでいた小癪こしゃくな女神を捕まえる。

「うわーん、この世のものは全て私のものなんだー」

「業務上横領だ。ほら、帰るぞ」

 しぶとく逃げ回るサティをなんとか捕まえて、ようやくナツの元へと戻る。

「すっかり遅くなっちゃったねー」

 すでに太陽は沈みかかっていた。無理もない。サラダ村を出てから6時間が経っている。
 
 時折休みながら、今度は寄り道せずに帰っていく。家の近くに来た頃にはすっかり夜になってしまっていた。

「助かったよ、ナツ。まぁ、いろいろと……と迷惑かけた」

「あ、ううん……こちらこそ。久しぶりにアンクとお出かけ出来て、楽しかったよー」

 別れ際、ナツにサティを捕まえる途中で見つけたもう1つのプレゼントを渡す。

「はい、これ」

「え……?」

「プレゼント。今日のお礼だよ。付き合ってくれてありがとう」

「……私に!?」

 小さな包み紙に目を落としながら、「開けても良いの」と笑うナツにうなずくく。

「あ、これ……私が前から欲しいって言ってたやつと同じだ! キューブのネックレッス!」

「あぁ、たまたま見つけたんだ」

 サティが宝石を盗もうとしていた店で売っていたので、ナツには黙って買っておいた。旧サラダ村の件で迷惑をかけてしまったから、ほんの少しのお礼だ。

「やった! 本当に……欲しかったんだ!」

 さっそく箱から出して、ナツはネックレスを自分の首にかけた。シルバーに輝くネックレスは、首元でキラリと光って綺麗に際立っていた。

「とても良い。かわいいよ」

「ありがとう! アンク! 言ってみるもんだね!」

 そう言ってナツは本当に嬉しそうに、俺たちに見せびらかした。サティはそんな姿を見ながら、俺の肩をつついた。

「どうする? 今日は彼女の家に泊まっていくかい?」

「…………バカいえ。今日はそういうことじゃないだろ。ナツ、またな!」

「うん! また明日!」

 元気に手を振るナツと、本日の功労者こうろうしゃであるチャリに別れを告げる。家の近くのY字路を別の道に行くと、我が家が見えてきた。

「さて、プレゼント作戦はうまくいくかな」

 家の扉に手をかけた俺に、サティがそっとささやいた。
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