魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

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第57話 大英雄、今夜は何も見ない

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 ショッピングタワーを出て、帰路につく。辺りはすっかり夕方になっていたが、相変わらず人通りは多かった。気のせいか、行き交う人の表情は楽しそうに見える。

「祭りがあるのよ。カルカット誕生から10年祭で、今日はその前夜祭」

 パトレシアが言った通り、街の中心部へ向かうと大きな横断幕が貼られていて、そこには祭りの開催が告げられていた。
 横断幕の下では楽隊が賑やかな演奏を繰り広げていて、人々が楽しそうに踊っていた。演奏されているのはプルシャマナに暮らす人なら誰でも知っている有名な音楽で、ただ一心にステップを踏む彼らを見ているのは、それだけで楽しかった。

 パトレシアもそれを見ながら、うらやましそうに言った。

「良いわね。楽しそう」

「踊るか?」

「ううん、今日は踊らない」

 あっさりと断られてしまった。
 フフと笑ってパトレシアは俺の顔を見た。

「踊るなら、また今度が良いな。だって今日は私とのデートじゃないし。レイナちゃんのために買い物にきた訳でしょ。だから、今度誘って」

「分かった。じゃあ近いうちに」

「うん、ぜひ。待ってるわ」
 
 パトレシアは大きく頷いて、楽しそうに笑った。
 広場を後にして、国道に沿って歩いていく。行きとは違いサティによる妨害ぼうがいもなく、のんびりと帰ることが出来た。

 日が沈み初めて、うっすらと夜空に月が浮かぶとき、俺たちはパトレシアの家まで到着した。

「パトレシア、ありがとう。今日のお礼だ」

「え、私に?」

 俺が渡した小包を見て、パトレシアは目を丸くした。赤い包装紙でラッピングされたプレゼントを渡されて、驚いた表情をした。

「いつの間に買ったの?」

「パトレシアが情報収集してくれていた時だよ。近くの店で良さそうなものがあったから買ったんだ。せっかく」

「嬉しい! 開けても良い?」

「もちろん」

 俺が頷くと、丁寧な手つきでパトレシアはリボンを解いた。手のひらサイズの箱を開けて、中に入っていたブレスレットを見ると、彼女は目を丸くした。

「ブレスレット……」

「……気に入らなかったか」

「ううん、そうじゃなくて。ちょっとびっくりした」

 パトレシアは銀のブレスレットを箱の中から取り出した。
 宝石も何もついていないシンプルなデザインのブレスレットは、オークションで競り落としたものより高価ではないが、パトレシアは嬉しそうに笑ってくれた。

「……綺麗」

 左の手首にブレスレットをつけて、彼女は俺に見せびらかすように掲げた。

「アンクにもらった奴の方がよっぽど良いわね。ありがとう、大切にするわ!」

「そうか、喜んでもらえて良かった」

「リタには内緒にしなきゃね」

 アハハと冗談っぽく言って、パトレシアは大切そうにブレスレットに触れた。月明かりに照らされて静かに輝くブレスレットは、とても彼女に似合っていった。

 俺たちに手を振って、「レイナちゃんによろしく」と言って彼女は帰って行った。

 家までの道の途中で、サティがポツリとつぶやいた。

「イザーブ産まれか。ごうの深いことだ」

「滅多なこと言うなよ。パトレシアは真人間だ」

「分かっている。けれど……知り過ぎているとも言った方が良いのかな。なんにせよ私が管理する世界でそんなことが起こっていたなんて許されることではない。破壊されたのも、ある意味では必然だったのかもしれないな」
 
「それは、おかしいだろ。あれは偶然だ」

「おかしくはない……むしろ」

 サティは唐突に立ち止まり、何かを思いついたようにハッと息を吐いた。

「どうした?」

「いや……もし必然だったとしたら。『異端の王』はあえてイザーブを狙ったのだとしたら……」

「『異端の王』はイザーブだけを破壊したんじゃないぞ。他の都市も襲撃した」

「イザーブは特別だった。あれは徹底的な破壊だ」

 サティの言うことはもっともだった。

 唐突に発生したイザーブ侵攻。あの都市を襲撃した魔物たちは尋常な数ではなかった。市民たちを殺し尽くすには十分すぎる数で、イザーブを蹂躙じゅうりんした。
 
 まるで都市そのものを憎むように。

「……どうして『異端の王』の話をまた持ち出すんだ」

「今、起きている異変と関係あるかもしれないからだ。彼女の話を総合すると、引っかかるのは……人身売買」

「人身売買?」

 サティは頷いて、家とは真反対の方向を向いた。

「今、推測できるのはここまでだ。私はちょっと出かけてくるよ」

「出かけるって、どこに行くんだ?」

「イザーブの跡地に行ってくる。当時の人身売買の情報を確認したい。まだ資料が残されているかもしれないからね。とりあえず君はレイナとのデートを頑張ってくれ。おそらくだけれど、またそれで記憶のピースが見つかるはずだ」

 そう言ったサティは励ますように、俺の胸を叩いて、足早に元来た道を歩いて行った。いつになく真剣な目をしていたサティは、かなり切羽せっぱ詰まっているようにも見えた。

「人身売買……ねぇ」

 俺自身も何かが引っかかっている。
 その引っかかりを上手く言葉にすることも出来ずに、俺はレイナの待つ家の玄関へとたどり着いた。

「ただいま」

「おかえりなさい」

 俺が帰ると、レイナはいつも通り食事の用意をしていた。食欲をくすぐる料理の匂いを嗅ぐと、いていた心がホッと落ち着くようだった。

 1人で帰ってきた俺を見て、レイナは不思議そうに首をかしげた。

「サティさんはどうなされたんですか?」

「調べたいことがあるって言って。イザーブ跡地まで行ったよ。随分と急いでいるみたいだった」

「イザーブですか……」

 不安そうにレイナは言った。

「大丈夫だよ。ああ見えて、あいつは強いし、お小遣いも渡したから行き倒れすることもないはずだ」

「それなら良いのですが」

「あぁ、すぐに帰ってくるだろうよ。それより、ほら。これ買ってきたよ」

 袋からワンピースを出して見せる。黄色いワンピースを見たレイナは喜ぶというよりも、唖然あぜんとした顔で俺を見た。

「こ、こんなに上等なものを……!?」

「あぁ、せっかくだからさ。服が欲しいって言ってただろ。オークションでパトレシアに競り落としてもらったんだ」

「わ、私に……!? しかもオークションで……!?」

 絶句したレイナは改めてワンピースに目をやった。

「かなり高かったのではないですか? いくらしたのですか? 金貨何枚出したのですか?」

「何枚って20枚くらいだよ」

「20枚……」

 レイナは卒倒するのではないかと思えるほどに、顔が青くなっていた。

「それだけあれば、おかずが何品増やせるか……。私のためについやすよりも、アンクさまの毎日の栄養を充実させた方がよほど有意義でしたのに」

「いや、たまにはさ。レイナのためだから」

「私なんかのために……これは、身に余ります」

「そうは言わずに」
 
 洋服を差し出すと、レイナはおずおずと両手でそれを受け取った。そのまま胸の中で洋服を抱きしめて、彼女は恥ずかしそうに顔を伏せた。

「あの……」

 すぅと息を吸い込むとレイナは小さな声で言った。

「そうですね……こういう時に使う言葉を間違っていました。えぇ……せっかく買ってきてくれたのですから、こういう言い方は良くないですね……」

 自分に言い聞かせるように言ったレイナは、視線をあげて俺を見ると、再び口を開いた。

「ありがとうございます、アンクさま。これは大事にします。汚さないように、大事に大事に使います」

「うん、喜んでもらえて嬉しいよ」

「……はい」

 心底嬉しそうにレイナは笑った。
 こらえきれないというふうに、満面の笑みで買った洋服を抱きしめていた。枕元のクリスマスプレゼントをもらった子どもみたいに、無邪気で楽しそうだった。

「洋服ダンスにしまってきます」

「あぁ、明日のコンサート、楽しみだな」

「はい、とても」

 それからレイナ作ってくれた晩御飯を食べて、今日起こったことを彼女に話した。夜は穏やかに過ぎ去り、やがて寝る時間になった。

 レイナに「おやすみ」と言って、ベッドに横になった時、俺は自分が例の映像の記憶を見ていないことに気がついた。サティの言う鍵は開かれなかったということだろう。

「たまには、こんな日も良いか」

 ベッドに横になって、穏やかな気持ちで眠りにつく。夜の帳は降りて、また次の1日を迎えようとしていた。

 明日はいよいよレイナとデートだ。
 買った服を着たレイナをぼんやりと想像しながら、俺は深いまどろみの中へと意識を落とした。
 
 

 
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