魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

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第56話 大英雄、振り回される

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 普段は比較的穏やかな雰囲気だと聞いていたオークション会場は、怒号が響き渡っていた。

「110!」

「120!」

「140!」

「170!」

 最前列の富豪たちが値段を釣り上げていく理由。
 それはおそらく最後列のパトレシアの存在だった。

「200!」

 パトレシアが声を張り上げる。
 それに上乗せするように、他の人たちが値段を釣り上げていく。

「あんな変な服、誰が欲しいんだか……」

「美術品は資産と同じだよ。高ければ高いほどみんな幸せ」

「そんなもんなのか……」

 俺には良くわからん。

 セレブたちは、パトレシア対抗して入札を繰り返してくる。
 この異様な盛り上がりには、あんな立ち見席の小娘に負けたくはないというプライドが作用していることが見て取れた。

「パトレシアに対する敵意が尋常じゃないな」

「よしよし、ここまでは想定通り」

 パトレシアはそう言いいながらも、何度も入札を繰り返しては失敗していた。
 やたらと対抗心を燃やしているシュワラは、すでに20品以上の高級品を高値で落札していた。

「金貨120で、シュワラ嬢が落札です! 連続で7品の落札! これは史上最大の熱気ではないでしょうか!」

 興奮で司会も会場を盛り立てる。パトレシアが2倍、3倍の値段で競り落とそうとしてくるので、自然と値段が釣りあがっていく。それに対抗してセレブたちも高値を提示していく。

 会場の熱気にやられて、俺の手のひらにも思わず汗がにじんだ。そして、ようやく彼女が落札できたのは、43品目の金貨10枚のブレスレットだった。

 落札したパトレシアがスポットライトで照らされる。

「おぉ! 良かったな!」

「うん、このくらいが底かな」

「底?」

「もう、彼女は出せない」

 満足そうに笑ったパトレシアは、すっかりと沈黙してしまったシュワラを確認していた。他のセレブたちも一様に沈黙している。

「……どうして」

「予算が底をついたのよ」

「予算……なんで、パトレシアがそんなことを知っているんだ」

「情報収集だよ。過去のオークションの情報を盗み見てきたの。誰がどれくらいの予算で、どんな品を狙ってくるか。シュワラが服を収集していることは知っていたから、あとは彼女のペース配分を崩せば良い」

「だから、あんなに値段を釣り上げていたのか」

「そういうこと」

 パトレシアはそう言うと、会場外に目を向けた。

「このオークションの特殊なところはね、即決済っていうところにあるの。来るときに見たでしょ、金を乗せた台車。落札者は商品をすぐに買い取らなきゃいけないの。だから、あらかじめ出せる予算は決まっている。台車に乗せた分が無くなれば、もう入札出来ない」

「それが底ってことか」

「そう。このオークションがグレーな奴で助かったわ。たぶん盗品とかも混じっているんでしょうね。主催者はすぐに換金して欲しいみたいだし」

 パトレシアが言うことには、ほとんどのオークションは小切手を使っていて、あとから換金する場合がほとんどらしい。

「こういうグレーなオークションにしか出せない品もあるから需要はあるのよ。おかげでこうやって前半戦でほとんどのライバルをふるい落とすことが出来た。私も別にあんな服が欲しかったわけじゃないのよ」

 つまりはサクラ……ということか。
 今までの彼女の行動はいかにシュワラたちの金を消費させるかという目的だった。2倍3倍の値段で入札して、値段を釣り上げる。すると後半、予算が底をついた貴族たちはもう入札出来なくなる。

 今までの展開は全てパトレシアの手の内だった。

「……しかし、本当に落札出来たらどうするんだ。100も200も払えるのか」

「無いわよ。全財産合わせても無い」

「めちゃくちゃ危ない橋だったな……」

「リタに聞かれたら怒られそうね。でも、橋は渡ってこそよね。ただ待っているだけじゃ、何も手に入らない」

 ……続いて出てきたのは、狙っていたワンピースだった。
 金貨10枚で始まったオークションは、金貨20枚を提示したパトレシアに誰も対抗することなく、あっさりと落札することが出来た。

「2品続けて、立ち見席のお嬢さんが落札です! おめでとうございます!」

 司会がアナウンスすると、パチパチと拍手が飛び交った。セレブ以外の観客が2度も連続して落札する番狂わせに、周りの立ち見客は「良くやった」と言って、パトレシアをめ称えていた。

 パトレシアは俺にウィンクして言った。

「ね」

「あー、そうだな。おかげで欲しいものが手に入った。ありがとう」

「どういたしまして。……さー、帰りましょ。下手に因縁付けられると嫌だし」

 ちらりと前列の貴族たちに目を向けると、パトレシアはさっそうと出口へと歩いていった。

 会場出口でスタッフから落札した商品を受け取る。ブレスレットとワンピース。かなり安値で買うことが出来たのに、パトレシアはどこか浮かない顔をしていた。

 その物げな彼女の背中にサティが声をかけた。

「どうだい、金持ちをたぶらかした気分は?」

「うーん……冷静になってみるとあまり気分は良くない。ちょっと熱くなりすぎたかな」

 俺たちの前を歩いていたパトレシアは、前方の人影を見て小さくため息をついた。

「やっぱり、いたか」

 パトリシアをまっすぐ見据えたシュワラが、地上へと上がる階段前で仁王立ちしていた。

 その顔は言うまでもなく怒りにあふれている、

「やってくれたわね。この詐欺師が」

「…………気がついちゃったか」

「私の情報をこそこそ嗅ぎ回っていたらしいじゃない。参加者が狙う商品を聞き出して、無駄に値段を釣り上げる。あなたがやったことはオークション荒らし。詐欺師も同然よ……!」

「うん、間違いないわ」

 怒りの声をあげるシュワラに対して、パトレシアは面倒くさそうに切り返した。

「でも落札したのはあなたじゃない。それが欲しいものかどうかは別にして、気分は良かったでしょ?」

「ふざけないで!!」

 シュワラの怒号は室内に響き渡った。彼女の目は涙でにじんでいた。

「私をどこまでコケにすれば気が済むの!? あの時も!! そうだった!!」

「あの時?」

「ごめん、アンク、こっちの話」

 パトレシアは困ったように頭を抱えて、シュワラに穏やかな口調で話しかけた。

「シュワラ、それとこれとは別問題よ。私もそうだけれど、あなたはもっと冷静になるべき。こんなところにいるようじゃ、結局昔の二の舞よ。イザーブと同じ道を歩むことになる」

 そう言ったパトレシアには有無を言わせないような凄みがあった。一歩寄ってきたパトレシアに、シュワラは声を震わせて答えた。

「……裏切り者」

「そうののしられても構わない」

「違う! あなたこそ何も分かっていない!!」

 後ずさり、顔を伏せたシュワラの姿に、昔のパトレシアが重なった。俺に対して「強くなりたい」と語ったパトレシアのことを思い出した。

「絶対に分からせてやるわ。あなたに同じ気持ちを味合わせるまでは、私は絶対にあなたを許さない」

 そう吐き捨てると、シュワラはホールへと戻っていった。怒りで顔を真っ赤にした彼女は、足早に過ぎ去っていった。

「ねぇ、待ってよ」

 その背中に声をかけたのは意外にもサティだった。
 ちらりと振り向いたシュワラに、落札した金のブレスレットを放り投げた。それを受け取ると、シュワラは怪訝けげんそうに眉をひそめた

「何よこれ? あなた誰?」
 
「しがない聖堂のシスターだ。憑き物を落とすにはちょうど良い女神の加護がたっぷり入った装飾品だ」

「いらないわ」

「おっと……みだりに捨てると、罰が当たるよ」

「……余計なものを」
 
 心底迷惑そうな顔をして、シュワラはそれを自分の腕に付けた。それを見たサティは「信心深いのは良いことだ」と言って、満足げに頷いた。

 彼女が立ち去ったあとで、パトレシアは俺たちにしょんぼりとした様子で頭を下げた。

「……ごめん」

「謝ることじゃない。俺のためにやってくれたんだろ。むしろ悪かったのは俺だ」

「そんなことは……あなたがいてくれて良かった」

 俺を見てホッとしたように微笑んだパトレシアは、いつもの明るい表情に戻りつつあった。そして、サティの方を見て言った。

「どうしてあのブレスレットを渡したの?」

「気分だよ、気分。あの娘は上手く使えそうだから。……それにしても君は嘘をつくのがうまいな。どうだい、今度私と一緒に一もうけしてみないか」

 パトレシアは苦笑いでそれに返した。

「遠慮しておく。金儲けはもうコリゴリ。今回はレイナちゃんのワンピースのためだから特別。それが手に入って本当に良かった」

 ひまわりのように鮮やかな色のワンピースを見て、パトレシアは満足げに頷いた。「喜んでくれると良いね」と穏やかな笑顔で言った。

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