62 / 220
第55話 大英雄、手に汗握る
しおりを挟むオークションのホール前でパトレシアを待っていたが、彼女は開始5分前になっても戻ってこなかった。
「遅いな」
「遅いね、もう先に入っちゃおうか」
「俺たち2人で先に入っても何も出来ない……」
正直、サティも俺も商売事にはうとい。オークションなんてなおさらだ。
ホール前はオークションに参加するセレブたちが持ってきたと思われる台車が並んでいた。屈強な男たちが警護しているところを見ると、相当の高級品が入っていることは間違いない。
「中は金貨だね。それも大量の」
「良く分かったな」
「匂いで分かる。あれだけあれば新しい聖堂が100個建てられるな」
「もう十分だろ。そんなにあっても何の役にも立たない」
「……ごめんごめん! 間に合ったー!」
裏口付近から現れたパトレシアが俺たちの方へと走ってきた。
「お、ようやく来た。どこ行ってたんだよ」
「ちょっと、下準備。さぁいこいこ!」
パトレシアに押されながら駆け込むようにして、ホールに入っていく。席はすでに空いているところはなく後ろにあった立ち見席でステージを見守ることにした。
見る限り前の席は金持ちが予約していて、着飾った人たちがゆったりと座っている。さっき俺たちに喧嘩を売ったシュワラも最前列で扇を振りながら、ちらりとバカにしたようにパトレシアの方を見た。
「む。おいバカにされてるぞ」
サティがパトレシアの肩をつついた。
「バカにしたくなる気持ちは分かるわよ」
立ち見席は完全に野次馬にしか見えない人たちでいっぱいだった。オークションに参加する気はなさそうで、金持ちが繰り広げる売買ゲームを見に来たという感じだった。
「なんか随分と貧富の差が激しいな」
「そう? 昔からよ。イザーブなんかもっと酷かったし、私たちが競売場で売られないだけ有難いくらいだよ」
「そんなに酷かったのか?」
サティが信じられないという顔でパトレシアを見上げる。
「裏であったのよ。人身売買とかいろいろ。子供とかも売られていたみたいだよ。人づてだけど、多分……本当だと思う」
「子ども……」
サティはそう呟くと、顔を伏せた。自分が管理している世界で起きたこととあって、思うところはあるのだろう。悩ましげな顔で、何かを考えていた。
「気になるか?」
「少しね……、子どもか……それは」
サティが何かを言おうとしたところで、ふいに会場のライトが消灯した。
パッと消えた後にステージをスポットライトが照らした。現れたのは真っ赤な蝶ネクタイをしたスーツの男で、大きな声を張り上げて会場中に挨拶した。
「レディースアンドジェントルメーン!! こんばんは、カルカット最大のオークションへようこそ!」
仰々しいアナウンスで、司会が最前列の人々に愛想を振りまいていく。驚くことに彼の声は、スピーカーも無いのに天井の方から響いてきた。
「あれ、どういう仕組みなんだろう?」
「異属性の魔法の一種じゃないかしら。発声器官を強化して、大きな声を出す魔法。手元に透明なパイプがあるじゃない。あそこから声を送っているんだよ」
「普通の魔法とは随分ちがうんだな」
「それも才能。あの人、その力を買われて司会に抜擢されたっていうし……ほら、始まるよ」
司会の男がオークションに出品される商品を紹介する。巨大な獅子の石像が披露されると、会場から|
喝采《かっさい》が飛んだ。
「ゲルゴリの動物シリーズか……」
パトレシアがつぶやく。
全然知らないが、様子を見るに1品目からかなり飛ばしてきたみたいだ。会場の熱気が一気に湧き上がる。
だが、そんな熱狂とは正反対にパトレシアは慎重だった。
「あの娘の攻略範囲ではないし、ここはスルーかな」
「スルーって……パトレシアも何か欲しいものがあるのか?」
「まぁね。ところでアンクの持ち金っていくつだっけ」
「金貨50。これが精一杯」
俺の手持ちに少し顔を曇らせたパトリシアは、「まぁどうにかなるでしょ」と能天気な言葉で切り返して、オークションの様子を注視していた。
……どうにかなるのか。
ここのオークションのやり方はいたってアナログで、観客たちの指サインで行われる。司会が金額を読み上げると、観客たちはそれぞれの金額にいくらプラスするか指し示した。
「金貨20からスタートです! はい、23! ……25! ………27ときて、そちらの方は35ですね! 他には……」
次々と指をあげていく参加者たちを、司会者が確認していく。金額はどんどんと値上がりしていくが、セレブの参加者たちはためらわずに入札していっている。
「これ、どういう仕組みなんだ?」
「簡単だよ。金貨1をプラスしたいなら、指を1本立てれば良いし、金貨2をプラスするなら、指を2本立てるって感じ。2倍や3倍の値をつけたいときは、手の甲を見せてサインするの」
「なるほどな」
そう会話している間にも、謎の石像はどんどん値上がりしていく。
ここから見ていると、オークションはスピーディで迫力がある。大きく金額が変わるたびに、会場を熱気が包む。
結局、あの石像は金貨500枚で落札された。
「……すげぇ。あの石像が金貨500枚?」
「ゲルゴリシリーズは、玄人の収集家に根強い人気があるからね。特に今落札した人は、有名な収集家だから妥当といえば妥当だよ」
「……金貨500枚……俺、本当に服買えるのか……」
「大丈夫、大丈夫。このオークションは収集家向けだからね。その品に興味ある人しか飛びつかない」
手持ち以外を考えてもさすがに金貨500枚も出す余裕はない。きちんとした褒賞が手元に入ってくれば、話は別なのだが。
「大丈夫、任せて。まだ出品までは時間があるから、どうにかしてみせるよ。作戦もあるから」
「作戦?」
俺の言葉に何も言わずに頷いて、パトレシアは再びステージの方に目をやった。次に出てきたのは、真紅のルビーだった。拳大もある巨大なルビーは金貨100からのスタートだった。
「金貨100か……すごいな」
感嘆のため息をついて、ちらりと横を見るとパトレシアが手の甲を使ってサインをしていた。
「はい、そちらのお嬢さん、2倍の200ですね!」
司会がパトリシアの方を指さすと、会場にもどよめきが走った。立ち見席からの乱入者は、前列のセレブたちの度肝を抜いたた。
「パトレシア!? 何しているんだ!?」
「せっかくだから参加してみようと思って」
「せっかくだから……って」
そのあとも、210、220、とどんどんとルビーは値上がりしていく。パトレシアはそのあとも参戦していたが、前席のセレブたちがそれを許さない。値段はどんどんと吊りあがり、230になったところでシュワラが落札した。
肩をすくめるパトレシアを、シュワラが余裕の笑みで見上げていた。
「負けたな……あのルビーが欲しかったのか?」
「うん、次も参加するから」
「パトレシア、手持ちいくつだ?」
「秘密」
どこまでの金銭的な余裕があるのか知らないが、彼女のデッドヒートは続けられた。懐中時計やアクセサリー、さらにはインテリア商品まで、服飾系のオークションにパトリシアは2倍、3倍の値段の金額を提示した。
「金貨200!」
「金貨220!」
「はい……もう出ませんねー……そちらツインテールのお嬢さん! 落札でーーーす!!」
「また……負けたな」
いずれの結果もパトレシアのぼろ負けだった。
パトレシアが入札したほんどの品に、対抗するようにシュワラは金を出し、そして落札していった。
旗色は良くない。
このままだとまず間違いなく、シュワラは目当てのワンピースにも入札してくる。
「シュワラは服飾系の収集家ってことか……厳しいな」
「……そうね」
パトレシアの頬を汗が伝っている。
オークションは熱狂を伴って進行していき、異様な盛り上がりだった。シュワラとパトレシアの戦いに、他の参加者たちも混じって、落札値段はスーパーインフレの様相を呈していた。
0
あなたにおすすめの小説
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。
彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。
剣も魔法も得意ではない主人公は、
最強のメイドたちに守られながら生きている。
だが彼自身は、
「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。
自分にできることは何か。
この世界で、どう生きていくべきか。
最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。
2月13日完結予定。
その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる