魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

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第65話 大英雄、デートを再開する

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 リタがくれた魔法薬は効き目抜群で、むしろいつもより調子が良かった。縛られていた痛みもなく、戦った後の疲労もない。

「パトレシアから分けてもらってね。普通に買えば材料だけでも、銀貨20枚はする値打ちもんだけど、余ったんだってさ」

「へぇ、ずいぶんと気前の良いことだな」

「魔法薬を作る実験の途中で出来たらしいんだけど、体力回復の面では市販のものより強いんだってさ。でも『こんなんじゃ足りない! もっと強いのじゃなきゃダメだ!』とか言っていたよ。元気が出て良かったよ」

 もっと強いのじゃなきゃダメだ……?
 どうにも引っかかる言葉だ。今までの媚薬事件が脳裏をよぎるのは杞憂きゆうに過ぎないのだろうか。どうも嫌な予感がする。

「どうした?」

「いや、なんでもない。なんでもないことを祈る」

「なんか顔色が青いけどな。まーいっか! 私はそろそろ行くよ。あいつらの尋問もしないといけないし」

 そう言って、リタは荷台に積まれたガムズたちを指差した。

「口を割るのに時間はかかりそうだけど、何か分かったら連絡するよ」

「さんきゅー、いざとなったら調査も手伝うからな」

「大英雄にそう言ってもらえるとは心強いよ。…………ねぇ、そういえば2人はデート?」

 ニヤリと笑いながら、リタはレイナを見て言った。

「いえ、コンサートに行くだけです。決してデートというわけでは……」

「それをデートというんでしょ」

「そう……ですか」

 リタに言われて、レイナは少し顔を赤くした。紅潮したレイナの顔を見ながら、リタは微笑んだ。

「やれやれ……アンクも隅におけないね」

「どういう意味だよ」

「そのまんまの意味だよ。自重を覚えろってこと」

「それは……リタさんのいう通りだと思います」

 リタとレイナは頷き合って、おかしそうにクスクスと笑った。何か批判されている気がする。

 視線をあげて、傾きつつある太陽を見上げる。

「……なぁ、そういえば、ここは一体どこなんだ」

「ん? サラダ村からそんなに離れていないよ。どっちかっていうとカサマド町の近くだけれど」

「真逆じゃないか……」

 せめてカルカット方面に運んでくれれば、まだ救いはあったのに。カルカットからはほぼ逆の方向だ。

 時刻は太陽の傾き度合いからすると14時過ぎ。コンサートの開始時間は17時だから、急いで行けばなんとか間に合うかもしれない。

「レイナ、歩けるか? とんだ邪魔が入ったが、俺たちが出来そうなことはもう無い。あんな奴らのせいで台無しになるのも勿体無いし、コンサートに急ごう」

「あ、はい……!」

 レイナは大きく頷いた。リタが森の南方向を指差し、俺たちに道を指し示した。

「ここから河を越えて行った方が近い。橋はないけれど、そこまで深くはないから歩いて渡れる。あんたらの運動神経なら大丈夫だよ。レイナも浅い川なら行けるでしょ」

「はい、浅ければ大丈夫だと思います。ありがとうございます、リタさん」

「あぁ、うまくやりなよ。じゃあ、私はこれでおいとまするねー」

 ひらひらと手を振りながら、リタは元来た獣道へと去って行った。木々の間を軽々と素早く移動して、あっという間に仲間のもとに追いついていた。

 その姿を見届けて、俺たちも腰をあげてカルカットの方向を向いた。

「よし、じゃあ俺たちも行くか」

「あまり道が慣らされてい無いようですが……どうしましょう、服が汚れてしまいます」

「俺が道を作るよ。レイナは後ろからくっついてきな」

 指し示された方向は広場の隅っこから行ける道で、少し草が多い茂った道だった。杖で草を払いつつ、早足で進んでいく。
 カサマド町の森はそこまで深くない。生息する生物も比較的穏やかで警戒する必要は全く無かった。

「良い天気だな」

「はい、とっても」

 思わずそんな言葉が出るほど、清々しい晴天だった。木々の隙間には小動物たちが走っていて、忙しそうに餌を運んでいた。
 威勢良く緑に茂った木の上を見ると、真っ白な鳥がせっせと細い枝を運んでいた。

「あの鳥は何でしょうか?」

「ハシバミトリだな。巣作りをしているみたいだ。細い枝を使って、器用に丸い巣を作るんだ。見た事ないか?」

「ありません……ずっと町で暮らしていたものですから」

「あー、そうか。サラダ村は田舎だから、そこら中にあったんだよ。いつ見ても綺麗なんだ。どこかにないかな」

 キョロキョロと見回すと、近くの木の上に綺麗な丸いおわん形の巣を見つけることが出来た。

「ほら、あれだ。あそこの木の上」

「えーっと……あ、あれですか! すごい、木の枝が全部真っ白ですね!」

「あぁ、ハシバミトリはなぜか白い木の枝しか集めてこないんだ。だから、ああいう風な真っ白い雪玉みたいな巣が出来る」

 ハシバミトリはある国ではスノウバードとも呼ばれている。もちろん雪山に住んでいる訳ではなく、白い木の枝を好み、それを使って巣を作るからだ。綺麗な半球で作られるハシバミトリの巣は、新雪のようだともひょうされる。

「子作りが終わるとあの巣は、もう使われなくなるんだ。だから、この辺りの人間はあの巣を集めてお守り代わりに玄関に飾ったりするんだとさ。だから、プルシャマナの人にとって白は神聖な色だって言われている」

「白い色が神聖……」

「そうそう。レイナの髪の色だな」

 俺がそう言うと、レイナは恥ずかしそうに自分の髪を触った。

「これはあの鳥のような綺麗な白ではありません。味気の無い、つまらない色です」

「俺は好きだけれどな」

「えぇ。アンクさまは以前も同じ事を言っていました」

「あれ……言ったかな?」

「はい、確かに言っておりました。もしかしたら、その記憶も抜け落ちているのかもしれませんね」

 寂しそうに視線を揺らしたレイナは、小さな声で言葉を続けた。

「……今朝も私の記憶を見ましたよね」

「あぁ、見た。イザーブの……」

「そのことは、忘れて欲しいのです」

 はっきりとした口調でレイナは言った。

「あれは忘れるべきものです。思い出されるものではありません。過去の私の記憶に関して、アンクさまには忘れて欲しいのです」

「何も見なかったことにしろと……?」

「はい」

 レイナは大きく頷いて、肯定こうていの言葉を口にした。

「その理由を聞くのもダメか」

「はい。その理由自体も知って欲しくないことの一部です。サティさまと何か画策かくさくされていたようですが、それも出来れば止めて欲しいのです」

「知っていたのか」

「はい、隠し方が非常に雑でしたから。そんな急に性的アプローチをされるいわれもありませんし、このようにしてデートに誘われる理由もありません。私はただのメイドですから」

 少し早口で彼女は言って、俺から視線をらした。その言葉を口にした彼女は気まずそうに、服の袖を強くつかんでいた。

 その仕草を見て、俺は彼女のことを傷つけてしまっていたことに、ようやく気がついた。

 言葉とは……どうにも難しい。
 
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