魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

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第88話 暗殺者との戦い

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 扉は完全に閉じられた。出入り口は一箇所。逃げられそうな場所はない。

「2人とも気をつけろよ……」

 後方に構えていたナツとパトレシアに言う。
 察するにあの髭面ひげづらの男が持っているのは、透明になることができる能力。索敵サーチにも引っかからない魔力の痕跡を消す、高度な異端魔法だ。

 攻撃に備えて身構えていると、キラリと矢の切っ先が輝いた。
 後方に目をやっていたパトレシアが叫ぶ。

「ナツちゃん、後ろ……!」

「……! 地の魔法、覆いかぶさるものプリティブ・サルト!」

 後方から跳んできた矢を、すんでのところでナツの魔法が弾く。楕円に出現した土の壁に、矢が突き刺さって止まった。

 間一髪。
 ナツはほっとしたように息を吐いて、攻撃に転じたがもうそこに敵の姿はなかった。

「おい、サティ。怒らせたんだから、責任取れよ」

 当のサティは襲撃者の存在を気にせず、聖堂の中を物色していた。俺の頼みに面倒臭そうに応じると、部屋の隅の柱時計を指差した。

「わかったよ。……おい、時計の後ろだろ。そこにいるのは分かっている」

 サティが一歩進むと、言った通りの場所から、矢がとんできた。ぎらりと光った矢を彼女は、鼻息で吹き飛ばした。

「次は長椅子の横」

 椅子の方から飛んできた矢を掴んで、叩き折る。

「次は左から2番目のステンドグラス」

 次の矢も素手で弾く。

「………っ!」

 驚いたような男の声が聞こえた。
 居場所を完全に見破られたからか、今度は敵はなりふり構わず攻撃を始めた。四方八方を移動した敵が、サティに向かって次から次へと射撃を行った。

「もう諦めなよ」

 放たれた無数の矢を弾いて、サティは大きくため息をついた。

「わざわざ、こんな玩具おもちゃで攻撃するなんて、自分が強くないと認めているようなものだ。透明能力なら私には効かないよ。空気の流れを読めば、君の居場所なんて手に取るように分かる」

 サティは右手から、光のほこを取り出すとゆっくりと長椅子の方まで歩き始めた。キラリと輝く鉾は、鋭い先端を長椅子の後ろに向けていた。

 俺には分からないが、そこに敵がいるということらしい。

「10数える。それまでに出てこなければ、君の心臓を貫く」

「…………」

「じゅー、きゅー、はち、なな……」

「…………分かった。降参だ」

 サティの推測通り長椅子の裏から、さきほどの男が現れる。ボウガンを床に落として、矢を持った男は絶望した顔をゆがませた。

「くそっ、俺もここまでか……」

 男はそう言って、矢の先端を自分の首へと突き立てた。迷いなく、自分の首を貫こうと思い切り手に力を込めていた。

固定フィックス!」

 すんでのところで男の動きを止める。
 男から矢を奪い、首をおさえて床に叩きつける。

「ぐ、あっっ!!」

「落ち着け! お前何しているんだ! 死ぬ気か!?」

 力づくで床に押さえつけようとしたが、男は思いの他強い力で抵抗していた。大きな声で彼は必死に叫んでいた。

「やめろ! 俺は見てただけだ! 何も知らねぇ!!」

「……何を言っているんだ? 落ち着けって!」

「くそっ、殺せ! 早く殺してくれ!」

 話が通じない。
 必死の形相ぎょうそうで叫んでいる男は、何かにおびえているようだった。
 
 死ぬことすらいとわない。
 死ぬことよりも怖いことがある、彼の態度は示している。

「殺せ、早く殺せ!!」

「……くそっ」

 ラチがあかない。
 男の首元を電気杖スタンガンで攻撃する。バリッと閃光が走ると、男はぐったりと冷たい床の上で気絶した。

「いったい、なんなんだ」

 白目を向いて倒れた男を見下ろしながら、パトレシアはおびえたような声を発した。

「殺してくれって言っていたわね……、それから見ていただけだって……」

「分からない。腕を縛って、起きてから尋問じんもんしよう。孤児院探索はそれからだ。何か……尋常ではない感じがする」

 ナツとパトレシアは神妙な顔で頷いた。ただ1人、サティだけが興味深げに男の姿を観察していた。

「どうした?」

「いや、生き残りがいたのは想定外だった。彼の言う通りなら、彼はここで起きたことを全て見ていたんだろう」

 サティは満足そうに頷いて、長椅子に腰掛けた。

「陰気な場所だけど、彼が目を覚ますのを待つことにしよう。ここまで瘴気は入ってこないようだし」

 ナツが持っていたランチボックスを、物欲しげに見ながらサティは言った。

「良いけど、全部食べるなよ。探索にどれくらいかかるか分からないんだ」

「……はぁい」

 不満そうな表情をしたサティにサンドウィッチを投げる。持ってきた食料はそう多くない。なるべく節約する必要がある。

 薄暗い聖堂の中で、俺たちは男が目を覚ますまで簡素な食事を取った。いつもは楽しそうにはしゃぐナツとパトレシアも今回は、どこか浮かない顔つきだった。

 なぜだか、この場所にいると陰気な気分にさせられる。

 綺麗に掃除をされて、不潔な訳ではない。少なからず光も入ってくる。けれど、ここは普通の人間がいて良い場所ではない。魔力では感じることが出来ない、不穏な空気を感じるような空間だった。

「なんか嫌な感じがする……」

 ナツがポツリとつぶやいたその表現が、1番的を射ているのかもしれない。

 この場所にいると、全てが奇妙に見える。
 頭上なステンドグラスがぼんやりと輝いている。草木のざわめく音や、鳥の歌う声は、分厚い灰色の壁に閉ざされて聞こえない。

「ゼロ、イチ、ナナ」

 数字の羅列。
 彼女の名前。レイナはかつてここでどんな生活を送っていたのだろうか。

 短い昼食を取り終わった後で、俺たちを襲ってきた男は辛そうにうめきながら目を開けた。

 
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