魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

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第89話 俺は見ていただけだ

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「く……そ……」

 目を覚ました男は自分の四肢ししが縛られているのに気がついて、絶望的な表情になった。目の前に座る俺たちのことを見る、白髪混じりの髭の顔は、血の気が引いたように真っ青だった。

「こ……ろしてくれぇ」

 気を失う前と言っていることは変わらない。むしろ、さっきよりも懇願こんがんする様子で、彼は言葉を続けた。

「おれは、見ていただけだ。何もしてない。何もしていなかったんだ。おまえらだって、そのことは知っているだろう」

 男はそう繰り返すだけだった。

「俺は何もしていなんだ。俺は見ていただけだ……!」

「落ち着いて聞け。俺はお前のことを殺すつもりはない。何も危害を加えようだなんて思っていない。ただ話が聞きたいだけだ」

 男の目をまっすぐに見ながら、話しかける。混乱して瞳を揺らす男を、正面から見える。

「話……?」

「そうだ。昔ここで何が起こったかを聞きたいんだ。俺たちはただの冒険者だ。あんたが何をしたのか知らない。俺たちは、あんたがここで何を見たのかを知りたいんだ」

「冒険者……だと」

 男は信じられないというように、目の前に立つ俺たちのことを見た。1人1人の顔をジッと見据えた後で、男はいぶかしげに俺に問いかけた。

「本当にあんたたちは、関係ないのか? 俺に復讐しにきたんじゃないのか?」

「違う。あんたの命なんて欲しくない。邪神教のことについて聞きにきたんだ」

「…………そうか、早とちったな。俺としたことが随分とヤキが回ったみたいだ」

 男はがっくりとうなだれて、くぐもった声でうなった。そのまま低く小さな声で彼は言った。

「悪いが、あんたらに話すことはない、帰ってくれ」

「そうはいかない。こっちだって必死なんだ。ゼロ、イチ、ナナ。お前ならこの番号に聞き覚えがあるだろ」

「知らねぇ。思い出したくもねぇ」

 さっきのまで態度は一転して、彼は口をつぐんでしまった。動転した心を落ち着けるように、彼は静かに呼吸をしていた。

「早く、この縄を、ほどいてくれ……」

 彼は一体何に怯えているんだろう。
 横にいたサティを見ると、いつの間にか彼女は1歩進んで、男の前に立っていた。しゃがみこんで震える彼と目を合わせたサティは、にやりと笑って問いかけた。

「どうして何も喋らないんだい? ニック?」

「なぜ俺の名前を……!?」

「隠し事は不要ってことだよ。君がここで門番をやっていたのを私は知っている。それから君はここで行われていたことを、見てしまった」

 男はサティの言葉を聞いて、絶句した。男は顔を真っ青にして声を震わせていた。

「なんで……あんた……知っていたのか」

「焼かれたイザーブで証拠を探すのは骨が折れたよ。でも金と人の流れを見れば、一目瞭然りょうぜんだ。ここは買った子どもとさらってきた子どもの搬入所だろ。随分と入手ルートをばらけさせてみたいだけれど、全ての子どもたちはこの場所に向かっている。どうやって言いくるめたのかは知らないけれど、君たちがやっていたことは異常だ」

「ちょ、ちょっと待って。子どもをさらっていたって、どういうこと……?」

 戸惑ったパトレシアの言葉に、サティは振り返って言った。

「このルガン孤児院は、ただの子供達のお泊まり会場じゃないってこと。ここでは子どもをさらって買っていた。奴隷や家畜を扱うみたいに、大量の子どもをここで飼っていたんだ」

「そんな……! こんな街の近くで!? だってここは私立孤児院だけど、イザーブ市から運営の許可だって得ていたんだよ」

「イザーブの近くだからこそだよ。それは君も分かっているだろ」

 今度はパトレシアが言葉を失う番だった。
 腐敗し切ったイザーブがどんな状態だったのかは、彼女が何よりも分かっているはずだ。

「金で買える連中というのは正直だからね。道徳的な規律を求める王国みたいに、面倒臭い審査も必要ない。そでの下に金貨でも仕込んでいれば、イザーブ市の役人は沈黙する」

「そうだけど……でも、子どもの売買だなんて……」

「表に出ない悪行なんて腐るほどある。果実が腐るのは陽の当たらないところからだ」

 サティの言葉に、パトレシアはそれ以上何も言い返さなかった。

「孤児院が人身売買に協力していた、のか」
 
 どう考えても、正気の沙汰さたではない。サティが断言しようが、到底信じることは出来ない事実だった。

「……俺は見ていただけだ」

 さっきと同じ言葉を男は繰り返した。サティの言葉を聞いた後で、彼は懺悔ざんげするように語り始めた。

「本当に何も知らなかったんだ。俺はただの門番だった。見かけない奴がいたら追い出すだけの下っ端だ。幹部連中がやってることは知らなかったんだ……」

 声を震わせながら、彼は言葉を続けた。

「あの夜のことを今でも後悔している。寒い夜だった。凍えるような寒い日に限って、俺は夜の見張りだった。最悪だったなぁ。本当はもうとっくに酒場に入って、あったけぇワインを飲んでいるはずだったのに。寄りにも寄って、その日の仕事は外の見張りだった」

 男が言うところに寄ると、それは急遽きゅうきょ入った仕事だったらしい。黒づくめの彼らは本来は、決まった曜日にしか現れないはずだったのに、その日に限っては突然やって来るということで、非番の彼が呼び出されたらしい。

「急いでたから、運の悪いことに手袋を忘れてきちまった。手をさらして、一晩中、重たい槍なんか持っていたら手がダメになっちまう。見張りは正門の前に1人しかいないから、ばれないだろうと思って、俺は聖堂の中で待つことにした」

 当時の光景を思い出すように、彼は深く息を吸い込んで吐いた。

「聖堂の中は誰もいなくて、あたたかった。ステンドグラスから差し込む月明かりが、ぼんやりと中を照らしていて、シンと静まり返っていた。何が書いてあるかも分からない天井の絵を見つめながら、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。それから…………」

「どうした」

「………………声を聞いた。子どものすすり泣く声だった。目を開けると、すぐ近くで真っ黒な影が動いていた。顔は見えない。見たくもなかった。ただ子どもがいた。鎖で繋がれた沢山の子どもが運ばれて……消えた」

「消えた? どこに?」

「下だ。俺は『透明』になって追いかけて……そのあと聞こえたのは悲鳴だった。ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあと、下で騒いでいた。この世の終わりみたいな叫び声だった。耳を塞いだが、それでも聞こえてきた。ぎゃあぎゃあぎゃぎゃああぎゃああ、と叫び続ける子どもの声が聞こえてくるんだよ。今でも聞こえてくるんだよ。ほら! 今でも! 聞こえてくるんだよ! ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあって狂ったアヒルみたいな声が耳から離れないんだ!」

 ニックは大きな声で言葉を繰り返した。目の焦点が合っていない。彼は恐怖に叫んでいた。

「落ち着け! おい、俺の顔をしっかり見ろ!」

「……消えねぇんだよぉ……それから……俺は…………見ちまって………」

 ニックは今にも泡吹いて倒れそうな調子で叫び続けた。彼自身が恐怖に怯える子どもになったかのように、訳の分からないことを話し続けていた。

「あぁあああああ!! あぁあああああ……!!」

 虚ろな目で叫び続ける彼の声は、聖堂の中で何度も反響した。針のむしろに放り込まれたような悲痛な叫び声だった。

「……どう思う、サティ?」

「どう思うも何も。答えは分かりきっている。答えは地下にあるんだよ。そもそも、孤児院と名乗っているくせにふざけた聖堂しかない。子どもたちの住居スペースはどこにあるかと言えば、ここしかない」

 サティは出し抜けに、床板を蹴っ飛ばした。バゴン、と大きな音が鳴ると、床板ががれて鉄の扉が現れた。

 ところどころ錆びたその扉は、真っ黒でにぶい光を放っていた。

「地下室……!」

「ここが悲鳴の根源だ。準備は出来ているかい、アンク?」

 孤児院に似つかわしくない重厚な扉。この下で何が起きていたのか、背筋が凍るような恐ろしさがあった。

 俺が頷くと、サティは光の鉾を出現させた。

「天の魔法、罰には苦痛をトリシューラレイ

 サティの手元で分裂したほこが、鉄の扉を破壊していく。鉄が粉々になり派手な音が鳴った。破壊された扉はバラバラになって深い闇の奥へと落ちていった。

 地下室の冷たい空気が、その穴から一気に湧き上がってくる。カラカラと乾いた音が頭の中で鳴る。

 こごえるような寒さを感じたと同時に、記憶のピースが俺の意識に流れ込み始めた。

 
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