魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

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【地下室(No.01.1)】

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「バイシェです。我が身は『異端の王』と共にあり。被検体をお持ちしました」

 聖堂の中に入りバイシェが誰もいない空間に向かって言うと、静かな音を立てて床板が開いた。あらわわになった鉄の扉をラサラが3度ノックをすると、扉がスライドして真っ暗な地下階段が出現した。

 狭く暗い階段は気が遠くなるほど深く続いていた。ひんやりとした空気と、おぼろげな意識の中で、私は地下に薄ぼんやりと光る明かりを見つけた。

「教祖様。被検体をお連れしました」

 最奥の地下は円形のホールになっていた。
 かがり火で照らされている石の舞台の周りは、水が張られていた。静かな水面に赤々と燃える炎が照らされていて、石がつららのように垂れ下がった鍾乳洞しょうにゅうどうのような天井を浮かび上がらせていた。

 舞台の上には小さな人影があって、私たちの姿を見ると、この世のものとは思えない低くしわがれた声を出した。

「強い……魔力を感じるな」
 
 黒頭巾を取った男の顔はむき出しになった。ひゅうひゅうと息を立てながら、私たちのことを覗き込んだ。その男の顔を見て、私は思わず震え上がった。

「ひっ……!」

 教祖、と呼ばれた男には顔が無かった。私が知っているような目や、鼻や、口はどこにも見当たらなかった。

 顔が焼けただれている。
 目に当たる部分はぽっかりと空いた2つの空洞で、鼻の穴はだらんと垂れ下がった皮膚にふさがれている。顔を裂くように空いた口が呼吸をするたびに、ヒュウヒュウと不気味な音を立てていた。

 怯えた私の様子をみると、クククと気味悪く笑った。

「こんな顔の人間を見るのは初めてか? 昔、火あぶりにされてね。身体の方はもっとひどい事になっている。どうだ、見たいか?」

 教祖は私に顔を近づけて言った。
 恐怖でこわばる心を奮い立たせて、私は大きく首を横に振った。

「いや、です。私たちを、弟を。帰してください」

「……気丈きじょうな娘だ。帰してやりたいのはやまやまだが、私たちにも事情というものがあってね。君たちに協力をしてもらいたいんだよ」

「きょ、うりょく……?」

「そう、人を殺してもらいたいんだよ」

 真っ赤に裂けた口を横に広げて、教祖は言った。
 私は彼が何を言っているのか理解できない。私は人を殺したことはないし、非力な子どもに何が出来るというのだろう。

「ラサラ。この子たちの催眠を解いてあげなさい」

覚醒アルーザル

 ラサラが私のおでこに指をつけて魔法を唱えると、頭を覆っていたモヤが一気に晴れた。

 続いて、弟も。
 閉じていたまぶたをゆっくりと開けた彼は、あたりを見回すと震えた声を発して私を見た。

「どこ、ここ? おねえ……ちゃん?」

「さぁ、坊や。歩ける? あの人の前まで」

「何をするの! やめて!」

 私が叫ぶと、バイシェがふところからぎらりと光るナイフを取り出した。

「おとなしくしろ。これよりは神聖なる血の儀式。どちらかが死ぬところを見たくなければ、黙って言うことを聞け」

「バイシェ、殺すだなんて物騒なことはやめなさいよ。この子たち、おびえきっているじゃない」

「どちらにせよ消耗しょうもうする魂だ。最後に1人、残れば良い」

「ふふふ。それを決めるのは私たちじゃないでしょう?」

 ラサラの視線の先には、黙って立たずむ教祖がいた。黒いローブの下から一振りの小さなナイフを取り出して言った。

「そうだ、それを決めるのは私たちではない。『異端の王』自身だ」

 そう言って、彼はナイフを自身の心臓に突き立てた。

 ぐしゃり。
 肉が潰れる音と共に、勢いよく鮮血が飛び散った。

「え……?」

 突然の出来事に、思考が追いつかない。
 
 自分で自分のことを刺した?
 教祖の血がたくさん流れている。びしゃびしゃと噴水のように舞う血の中で、教祖は悠然ゆうぜんと立っていた。

「彼の魔法よ。不死アムリタ。教祖は殺されることもないし、死ぬ事も出来ないの」

 ラサラは驚きもせずに私たちに言った。

「あなたたちはこれから血の儀式を始めるのよ。魔法の色が付いていない無垢むくなあなたたちを、私たち……異端の血で汚していくの。真っ白なキャンパスに色をつけるみたいにね」

 教祖がゆっくりと近づいてくる。胸から取り出した血のかたまりを2つに引きちぎると、私たちに差し出した。

 ラサラは私たちの背中を押して、教祖に近づけた。

「たくさんの色を混ぜると、どんなキャンパスだってやがて真っ黒になるでしょう。私たちが目指しているのはそれ。異端の極地。私たちは、それを『異端の王』と呼んでいる」

 恐怖で身動きが取れない。ポタポタと垂れる血が、私たちをどす黒い赤で染めていた。

「無理やり魔力を取り込むのは少し痛いけど、我慢してね。大丈夫、そのうち病みつきになるから」

 ラサラは私の口をつかんで、強引に開けさせた。真っ赤な血が、その隙間に張り込んでくる。むせかえるような苦味と、どろどろに溶けたバターのような血が舌を滑っていく。

 口の中に教祖の血塊が入ると、ラサラは私の口を閉じさせた。

「さぁ、噛んで」

「ぁ……」

 いやだ。
 いやだ。

「噛んで」

 あつい。
 あつい。

 あつい。
 あつい。

「流れ込んでくるのが、分かるでしょう? 頭がぽーっとして何も考えられなくなるでしょう?」

 いたい。
 いたい。

 いたい。
 いたい。

「ほら、声が聞こえない?」

「ぅ……ぁ……」

 
 ————炎で顔があぶられている。私の隣でメラメラと燃え盛る火炎で焼かれているのは、かつて私の妻だったものだ。


 あつい。
 あつい。

 私の中に何が入り込んできている。知らない何が。見たことも、見たくもない思考がうごめいている。


 ————何も悪いことをしていないのに。私たちは殺されている。ただ生きていただけなのに、石を投げられて、縛られて、焼かれている。私たちはあなたに何もしていないのに。


 ただ生きていただけなのに。

 あつい。
 あつい。

 涙がポロポロとあふれている。それが、どこから来るものなのかを私は知らない。

 
 ————顔の肉がボロボロと剥がれ落ちていく。愛した女の声はもう聞こえない。私の幸福はもう戻ってこない。私の人生は戻ってこない。

 私はもはや人間ではないのだと、知った。

 にくい。
 にくい。


 ————憎い。


 自分の言葉が失われていく。どろどろとした血が胃の奥に、流れ込んでくる。自分の身体が自分の身体ではなくなっていく。

 すり鉢でかき回されたみたいに、私という人間は私ではなくなっていく。ただの混ぜ物になっていく。もはや人間ではなくなっていく。


「あつい」


 ……私が私でなくなっていく。

 
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