魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

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【終わらない日々(No.02)】

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 地獄のような日々が始まった。
 頭の中が誰かにかき回されているみたいに、思考が覚束おぼつかない。暗い牢獄の中でうずくまりながら、断続的に訪れる吐き気に耐えていた。

 時間が経っていると分かるのは、定期的に食料が放り込まれるから。穀物をペースト上にしたものが、1日3回、扉の隙間のポストのようなところから放り込まれる。

 もちろん食欲は湧かない。
 誰かに身体を乗っ取られるような感覚は、残留物のように四肢ししを巡っている。ぐるぐるぐるぐると身体を回っている。その度に底知れない負の感情で訳も分からなくなる。

 ……私の身体を汚さないで。おかさないで。入ってこないで。

 そう願いながら何日が経って、ようやく落ち着き始めたところで、今度は扉を叩く音が聞こえる。

「儀式の時間だ。出ろ」

 私を連れに来たのは、あのバイシェという男と、せこけた黒頭巾が何人か。バイシェが私を拘束している足枷あしかせを開けて無理やり立ち上がせられる。

 ガチャリと金属音がして自由になった瞬間に、私は足を振り上げてバイシェの首に向かって振り下ろした。

「……!」
 
 このチャンスを逃すわけにはいかない。
 残った力を振り絞っての攻撃だった。空を切る音と、確かな手応え。バシッと強い衝撃音とともに、私の脚はバイシェの首に命中した。

身体強化バースト

 ……バイシェの身体は鉄のようだった。奇妙な魔法を使ったバイシェの身体から、黒い魔力が湧き出していた。
 
 急所に直撃したにも関わらず、バイシェは全く動じずに私の身体をつかんだ。

「良いりだ。もう少し成長していたら、俺に届いていたかもしれんな」

「離せ……! 弟をどこへやった!」

「お前の弟は無事だ。俺が保証する。最初の儀式は滞りなく終了した。飯も食べているし、扉を叩く元気もある」

「……っ」

 弟が私と同じ目にあっていると知って、更なる絶望が込み上げてくる。昼か夜かも分からない孤独な牢獄の中であの子も暮らしている。

「憎い、お前たちが憎い」

 バイシェは私の足を掴んで、そのまま後ろ手にロープで縛った。力づくで拘束すると、彼は私を地面に押し倒した。

「それで良い。自分以外は人と人と思うな。それが成功への鍵だ」

「何が……成功」

「『異端の王』へる道だ。ここに来た以上、貴様に残された道はそれしかない」

 そう吐き捨てたバイシェは私を起き上がらせて、他の黒頭巾へと引き渡した。

「お前の名前は今日から『017』だ。素体で有る限り生命は保証する。安心しろ」

「く、そ……!」

 抵抗しても敵わない。
 黒頭巾たちが私の身体を引っ張って、牢獄の外へと引きずり出した。来るときは見る余裕もなかったが、まっすぐ続く廊下はたくさんの扉が付いていた。

 無機質な銀色の扉には、数字を刻んだナンバープレートがつけられていた。

「こんなに……」

「そうです。ここはあなたたちの生活区。少し狭いですけれど、我慢してくださいね」

 通路の奥から黒い頭巾をかぶったラサラが現れた。紫色に光る瞳が暗闇の奥から見えている。その横に私と同じようにロープで縛られた赤い髪の少女を連れていた。

 ラサラは赤い髪の少女を前へと押し出した。

「この子もあなたと同じ被検体ですよ。名前は078。ちょうど017とお向かいさんになりますね。ほら、挨拶しなさい078」

 ラサラの催眠魔法を解かれた少女は、視線をあげてビクビクと怯えるような声で挨拶した。

「あ……よ、よ……ろしく」 

「017は特別な子よ。前みたいに簡単に死にはしないから、仲良くしてあげてね」

「そ……れは、よかっ……たです」

 おぼつかない言葉使いで、078と呼ばれた子どもは笑った。私より少し年上にも見える少女は、あまりにやせ細っていて壊れかけの人形のようにも見えた。

 普通ではない。
 この場所も、この女も、この子どもも。

「さぁ、いきましょう。血の儀式の時間です」

 私たちを導くように、ラサラは進み始めた。
 078はすでに抵抗する気がないようで、自分の足ですごすごラサラに付いて行った。

「早く歩け」

「う……」

 黒頭巾の1人が私を強く引っ張った。荒い結び目がこすれて、手首に鋭い痛みを与えた。

 その様子を見ていた、078がすっと私の方へと近づいてきて、こっそりと耳打ちするように言った。

「あ、あま……り抵抗しない方が良いよ。て、抵抗したって逃げら……れる訳じゃないし、痛いだけだから」

「……あなたはいつから、ここにいるの?」

「分からない。た、たぶん2年くらい……前に連れ、てこられた」

「2年も……こんなところに」

「良い子にし、てれ……ば、1年……に2回く、らい外に……出してもらえ、るよ。かんさ、っていうのに言うこ、とを聞く子……が選ばれるの。わ、私は3回、も選ばれている」

 さも、それが誇らしいことだと言わんばかりに078は言った。1年2回? たったそれだけ? 

「そんなの……正気じゃない」

「血の儀式も……受け入れてしまえば、き、気持ち良いよ。最初は……私も、辛かったけれど、慣れれば、大丈夫だった」

「慣れる? あれに?」

「うん、に、憎しみを受け入れるんだよ」

 ボサボサの赤い髪を揺らしながら078は頷いた。彼女は虚ろな瞳は、ぼんやりと光る地下祭壇の方へと向いていた。

「大丈夫だよ、こ、ここはそんなに悪い場所じゃない」

 078が何を言っているのか、私には到底、理解出来なかった。
 無理やり連れてこられて、閉じ込められて、それで「悪い場所」じゃないと本気で言うことが出来る神経が分からなかった。

「みんな狂ってる」

 長い階段を進むうちに、私は再びあのおぞましい顔をした教祖の元へとたどり着いた。赤い玉座の上に腰掛けた教祖は、私を見下ろしながら言った。

「017……か。調子はどうだ」

「最悪。早くここから出して」

「は、はははははははは」

 教祖は気色の悪い声で笑った。握りつぶしたカエルの断末魔みたいな、にごった声だった。

 そして教祖はナイフを自分の心臓に突き立て、血塊けっかいを器用に取り出すと、半分に分けて私たちの方へと差し出した。

「そうだな。最悪だ、何もかも最悪だ」

 自分の胸からおびただしい量の血を流しながら、教祖はゆっくりと歩いてきた。こぼれ落ちた血液が水たまりのようになっていた。

らえ」
 
 教祖が差し出した血塊を078は、自ら進んで口を開けて受け入れた。

「あ……」

 教祖は078の口に血塊を入れた
 ひと噛み彼女の中で心臓が弾ける。まるで卵が割れるように、どろりとした血が彼女の口元からこぼれ落ちていく。

 くちゅくちゅと咀嚼そしゃくする音を鳴らしながら、078は恍惚こうこつとした表情で笑っていた。

「……おいしい、です」

 口元が真っ赤に染まっていく。徐々に078の瞳から色が失われていく。078の瞳は開いているが、決して何も見ていない暗闇だった。

 コクリと心臓を飲み下す音ともに、彼女の魔力炉が真っ黒に染まっていくのが分かった。真っ黒なインクを垂らしたかのように、どす黒いオーラになっていく。

 血の儀式。
 この世のものとは思えない、陰惨いんさんな光景を私はただ黙って見ることしか出来なかった。

「次はお前だ」

 口を押さえつけられて、無理やり心臓を食べさせられる。どろりとした血が舌を滑って、喉の奥へと流れていく。

「い……や……!」

 気持ち悪かった。
 鉄くさい血液や、生臭い心臓よりも、流れ込んでくる魔力が気持ち悪い。こいつの感情が気持ち悪い。

「あぁ……あああぁあああああ!!」

 叫ぶ。
 心の奥の方を強く掴まれて、引きちぎられて、バラバラにされて、それを火であぶられるみたいに自分自身が分からなくなっていく。自分が自分から離れていく。

「にくい、にくい」

 何が憎いのかも分からない。渦巻うずまく言葉は言い聞かせるように、頭の中を何度も流れていく。
 
 洗脳だ。
 この儀式は、魂の奥底を汚す営みだ。私がわたしじゃなくなっていく。わたしがわたしじゃ  なくなっていく。  わたしが わたしじゃ    なくなっていく。    わたしが    わた   し  じゃ  なく   なって    いく。   わた    し   が わたし   じゃ         なく な っ   て い    く。

「いやだ、いやだ!!」

 そんなの嫌だ。
 私が私であることを見失わないように。弟と一緒に、元のところへ帰るのだと必死に言い聞かせる。

『血の儀式も受け入れてしまえば、気持ち良いよ』

 078の言葉が脳裏をよぎる。
 あれはわなだ。気持ち良いと思ってしまえば、きっと終わりなんだ。私はあんな風になりたくない。

 流れてくる魔力を押し返そうと、私は必死に叫んでいた。次第に意識が遠のいておいく。

 薄れゆく視界の中で、目の前に立った教祖が満足そうに笑っているのを、私は見た。
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