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【終わらない日々(No.02.3)】
しおりを挟むその後も何人かの078が私の前に現れた。
言葉も話せない背の小さな女の子。身体のいたるところにアザを作った男の子。怯えるようにブツブツと独り言を言っていた少女。脚を失って、まともに歩くことすら出来なかった少年。
1ヶ月保てば良い方だった。
半年保てば優秀だった。
1年以上保った子どもはいなかった。
私だけが生き残り続けて、彼らの残骸を私は食べ続けた。その度に、彼らの人生が私の内にフラッシュバックして、癒えない傷を与え続けた。
……それでも私は望みを捨てることがなかった。弟は絶対に生きていると、私は信じて生きてきた。
何年経っただろう。
私は他の子どもと違って、外に出してもらうことは無かった。私があまりにも反抗的だったからだ。
分かるのは自分の身体が静かに成長をしていることだけ。体重は増えなかっかが、背は少し伸びた。心臓の摂取は私に最低限の栄養を与えていた。
それ以上の成長は魔力炉だった。血の儀式を経て、私には得体のしれない力が漲るようになっていた。
『……あの人たちは自分の仲間を増やしたいんだと思うよ。ほら私も徐々に魔力炉が違うように変わっていったの……』
赤髪の078の言葉を思い出す。彼女の言葉を信じるならば、この魔法こそがあいつらたちにとっての切り札なのかもしれない。
だから、これは誰にも言っていない。ばれてはいけない。ラサラにも、バイシェにも勘付かれてはいけない。
「身体拡張」
私は自分の力を、そう名付けることにした。
その魔法はかつて赤髪の078が覚醒したものに少し似ていた。もしかしたら彼女の残骸を取り込んだことで、私に彼女の一部が芽生えたのではないかとも思った。
身体機能を新しく捉え直し、強い力を発揮する魔法だ。
髪の1本、毛細血管の隅々でさえ、手足のように動かすことが出来る。特定の筋組織に魔力を巡らせることが出来る。自重を羽根のように軽くすることが出来る。
5大元素から外れた強力な異端魔法が私の中に芽生え始めていた。
「この力なら……」
私が取り組んだのは情報収集。自分が置かれた状況を知ること。
聴覚の能力を高めて、会話を拾っていく。今までは聞こえなかった、分厚い鉄の扉の向こう側の会話に耳を澄ます。
「124が死んだ」
「054の補充要員が出来た」
「6日後に監査がやってくる」
「最後の儀式も近い」
「098と012が牢獄の中で死んでいた」
「補充はしなくて良いそうだ。いよいよだな」
雑音に近い会話をマイクのように拾い上げる。夜も眠らずに、有益な情報を必死に探る。黒頭巾たちの会話からすると、血の儀式はいよいよ大詰めに入っているらしい。
このおかげで、私は現状をだいぶ把握することが出来た。何年もとらわれていて、知ることが出来なかった事実に、ようやく私は触れることが出来た。
私は特に重要と思われる情報を忘れないように、爪で壁に刻んだ。
・現在の子どもの合計は23人。すでに新しい子どもの供給は打ち止めになっている。その理由は儀式が大詰めに近いかららしい。
・特に優秀なのは017と090の姉弟。特に弟の方が順調。
・他の子どもは徐々に心臓化しつつある。それを餌として2人食べさせれば、いよいよ終わりの日は近い。
・教祖による決起集会がここの地下祭壇で1週間後に行われる。他の支部からも信徒たちが集まってくる。
聞いた情報を頭の中で整理する。
不穏な知らせもあったが、それよりも私にとっては喜びの方が大きかった。
「……まだ、生きていたんだ」
017の弟の090。
彼が生きていると聞いて、涙が出そうになるほど安堵した。彼が生きて、この世でまだ生きていると知って、ようやく希望がふつふつと湧いてくる。
まさに福音と言っても良かった。世界は私たちを見捨ててはいなかった。生きるための道筋は、まだ開いていた。
身体拡張を使う今の私なら、弟を抱えて逃げ出すことだって出来る。ラサラやバイシェのような強力な魔法使いに鉢合わせなければ、地下室を脱出できる可能性は見えてくる。
「チャンスは一回。狙うとしたら決起集会の日……」
全ての信徒が集まる日。
危険性も高いが、その日なら血の儀式が行われることもない。弟も私も牢屋の中にいることは間違いない。入れ違いという最悪のパターンも考えられない。
加えて、その日は情報によるとラサラもバイシェも地下祭壇で待機しているらしい。
他の黒頭巾たちから大きな魔力は感じられないから、警戒するべき2人を相手にしなくて良いということは大きなメリットだ。
「あと、2日」
もうすぐ私たちは光を見ることができる。
牢を出たら、南の島へ向かおう。さんさんと照り返す太陽が輝く場所に行こう。海を見てみたい。果てなく広がる空を見てみたい。熱い砂浜に寝転んで、気の向くままに午睡を貪りたい。
……空想が少し現実のものに近づいてきている。
当日の行動を頭の中でシュミレートしながら、私はすっかりくたびれた布団に身体を横たえた。来るべき幸せを願いながら、束の間の眠りについた。
「おやすみなさい」
真っ暗な天井に向かって、私はつぶやいた。
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