魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

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第97話 ラサラ

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 ラサラは手に持ったマグカップに視線を落としながら、自分の家族が殺されたことについて語り始めた。

「兄は私より優秀だったんですよ。見たものを何でも記憶できる異端魔法の持ち主でした。彼の頭脳はまさしく宝だったと思います」

 彼女の家族は父と母と兄の4人家族。
 平穏に暮らして彼らは、ふとしたきっかけで異端魔法の存在がばれ、村人たちから責められやがて弾劾だんがいされた。

 村人たちに捕らえられた4人は、裁判にかけられて処罰を待った。寒さにこごえながら、彼女たちは自分たちの生存を切に願った。
 だが無慈悲にも国からの通達は、当時10歳だったラサラを含めて、家族全員を火刑に処することだった。

「どんな鉱石こうせきより貴重な頭脳を、あの野蛮な人間たちは焼き殺してしまったんです。私の平穏な日常をむちゃくちゃに壊したんですよ。恨んでも恨みきれませんし、殺しても殺しきれません」

 炎にあぶられる中、ラサラが覚醒かくせいしたのが催眠イプノーティス。瞳から魔力を発し、対象に幻覚を見せる異端魔法だった。

「私はこの力で、どうにか窮地きゅうちを脱しました。ですが殺された家族を埋めることもできず、私はひたすらに逃げました」

「それで……あなたは邪神教に入ったんですか」

 ナツの言葉に、ラサラは自分の胸に手を当てて言った。

「同じ異端者の仲間が私を保護してくれました。血のつながりもなければ、契約書もありません。ですが、同じ敵を持っていました。『異端の王』を作り出して、人間を皆殺しにするという点において、私たちは運命を共同していたんです」

「人を……皆殺しにするためだけに……」

「もちろん全ての人間が悪であるとは言いません。ですが、私たちにとっては何も変わりません。全ての人間が悪に変質する可能性を秘めている。そのために私たちは『王』を必要としました」

 ラサラを俺たちを見回しながら言った。

「それが『異端の王』です。私は全ての人間に対するむくいを求めてここまで歩いてきました」

 サティはラサラの言葉に顔をあげた。

「『異端の王』、ね。君たちの教祖はいったいどこでそれを知ったんだ」

「どこで知ったかというのは……?」

「あれは古い魔法だ。君たちが産まれてくるよりずっと前の禁術だ。どうしてそこにたどり着くことが出来たんだ」

 持ってきたドーナッツで頬を一杯にしながら、サティはラサラに問いかけた。ボロボロと菓子くずが床に落ちていった。

「分かりません。ですが、異端者の迫害はそれほど昔から行われてきたんです。女神の威光いこうの名のもとに、それを推し進めたのは、シスター、当の聖堂側ではないですか」

「私……じゃない、聖典にそんな記述はないよ。異端を進めたのは一部の急進派で、女神に対する背信でも何でもない。まぁ……それを今更言ったことで意味は無いね」

「はい、意味はありません。もうすでに終わったことです。私たちはあなたたちを絶対に許しません。教祖もそういう風に言っていましたから」

「……君の教祖の能力は『不死アムリタ』だったな。死ぬことが出来ない異端魔法。だから『異端の王』について知ることが出来た、そういう理解で間違いないか?」

「構いません。『不死アムリタ』の能力で教祖は長い長い時間を生きてきました。もともとは西の大陸から来たそうです。道中何度も人の心臓を喰らい、編み出した血の儀式を共有して誕生したのが邪神教です」

「そうか、じゃあ君も教祖の心臓を食べたのかな?」

「私は食べていませんよ」

 サティの言葉にラサラは首を横に振って、ホットミルクに口をつけた。

「教祖の『不死アムリタ』は身体に対する負担が強過ぎます。私なんかが手を出したところで、バラバラになって死んでいたでしょう。自分の器くらい分かります」

「子どもたちに無理やり食べさせていたくせに、自分は食べるのは嫌だということか?」

「それとこれとは別の話ですよ。大英雄さん。私は食べる必要が無かったのです」

 俺の顔を見ながら、ラサラは悪びれる風もなく話し始めた。

「私たちだって理由もなく、子どもを実験台にしていた訳ではありません。子どもで無ければならなかったのです」

「大人ではダメな実験……?」

「子どもの魔力炉には可塑性かそせいが強いのです」

 ラサラは「柔軟性があると言った方が正しいでしょうか」と言って、言葉を続けた。

「幼い人間は魔力炉が完全に出来ていません。は魔力炉が完璧に形成しきっていない状況でしか、異端魔法を発言させることができないのです。大人になってしまうと、魔力炉の形はほとんど変えることが出来ないのです。それでは血の儀式は本当の効果を発揮できません」

「そこまで知っているということは、君たちは他にも何人か実験したな」

 サティの言葉にラサラは表情も買えず微笑んだ。

「はい、自ら実験に応じた者たちの犠牲によって、『異端の王』の道筋は示されました。『不死アムリタ』の心臓を食べ続けた教祖の仲間たちも1人残らず、魔力炉の過剰負荷によって死にました」

「……狂っている」

「それはめ言葉としてとらえておきます」

 俺の言葉を意に解することもなく、ラサラは再び前髪を下ろして顔面のアザを隠した。彼女の顔に罪悪感はない。自分が悪いことをしたという片鱗へんりんすらなかった。

 ラサラが口にする言葉は、俺からすればどれも常軌じょうきを逸していた。
 人が憎いから人を殺す『異端の王』を作った。あまりに短絡的なラサラの思想には、人間性というものが欠けていた。
 
 ……いや、そもそも彼女自身が人間であることを否定している。当然といえば、当然だ。
 目の前に座る女の底知れなさは別として、彼女の言動についていけるのは同じ人外であるサティくらいだった。

「筋は通っている。合理的だ」

 サティは頬いっぱいに入っていた食べ物を飲み込むと、手を伸ばしてラサラの腕に触れた。

「あら、どうかしました?」

「……冷たい」

「そうですよ。私は死んでいますもの」

「そうだな。君はやはり死んでいるんだ」

 サティは神妙な顔つきで彼女の肌に触れると、流れる魔力と血液に集中するように目を閉じた。

「『不死アムリタ』でもない、血が通っている温かさはあるから人形でもない。けれど、君は死んでいる……君がここにいるのは、誰かの魔法によって蘇らせたとしか考えられない」

「その通りです。私は死んで、ここにいる。それをよみがえりというのなら、そうですね」

「蘇り……!?」

 俺の言葉に、2人とも当然なことだと言わんばかりに頷いた。

「ま、待ってくれ、死者の復活なんて可能なのか……!?」

「可能だよ。現に君だって経験しているはずだ」

 サティはそう言って、俺のことを指差した。そう言われてみると、俺自身、転生という形だが蘇りを経験していることは間違いない。
 
「魂が完全に形を失う前ならば、蘇りは可能だ。禁じ手中の禁じ手だけれど、魔力さえあれば不可能ではない。そこまでの力を使うことが出来る奴は僕の想像の中では1人しらない」

「『異端の王』……」

「そうだ。ラサラを蘇らせたのは異端の王だ。私のものとは違って、発動に少々条件が必要みたいだけれどね」

「そこまで分かっていらっしゃるのなら、私から言う必要はなさそうですね。むしろ私が聞きたいくらいです」

 今度はラサラの方がサティに質問した。マグカップをシートの上に置くと、彼女は口に手を当てて、不思議そうに言った。

「どうして私は生き返ったのでしょうか?」

 予想外の質問だった。
 ラサラ自身もどうして自分がここにいるのか分かっていなかった。彼女は自分の蘇りについて何1つに落ちていないようだった。

「私は生き返りたい、と願ったことはありませんから」

「……残念ながら、その質問には答えることが出来ない。私に分かるのは『どうして』ではなく『どうやって』ということまでだ」

「……では、それでも構いません。病名だけでも分かれば、少しでも気休めになりますものね。教えて頂いてもよろしいですか?」

 丁寧な口調で言ったラサラに、サティは『死者の檻パーターラ』と聞きなれない言葉を言うと、小さく息を吐いた。

「この魔法の名前は『死者の檻パーターラ』。死者の魂をすくい上げて、現世に召喚するものだ。古い魔法の1つで、蘇りではなく降霊こうれいに近い」

おり……ですか、そこには何か意味があるのですか?」

「空間の固定だよ。君は……ラサラという魂はこの踊り場でしか存在することが出来ない。『死者の檻パーターラ』とは、名前の通り死者を拘束するのろいだ」
 

 
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