165 / 220
【共犯者たちの企み(No.16.1)】
しおりを挟む「さて、じゃあどうやってアンクの『死者の檻』崩しを阻止するかだけれど……」
パトレシアとナツと私で3人、輪になって私たちは計画を立てた。
「どうする、天罰行っちゃう?」
「そんなラーメン屋行くみたいなノリで……」
「パトレシアさん、それは危険が高いです。天罰に要する魔力は尋常ではありません。かのサティ・プルシャマナでさえ数回しか行っていない魔法です。今の私たちが使った場合、反動で瞑世の魔法が解ける可能性すらあります」
「……じゃあ直接行くとか」
「そちらの方が危険です」
神の代替物を現世に降臨させる。
サテ・プルシャマナがシスターサティとして、現世に降り立ったことは、彼女が招いた結果を考えても最大の悪手だった。
「代替物を現世に降臨させた瞬間に、神の座にいる私たちは睡眠状態に入ります。無防備な状態で晒されることになり、大変危険です」
「そっか、今度は自分たちが狙われる危険性があるってことね」
「そういうことです」
「あー、もー神さまって面倒臭いなー!」
ナツはイライラしたように自分の頭をガシガシとかいた。
「もっと、バシーンとか。ドカーンと行かないものかなぁ」
「ですから、女神もわざわざ英雄を降臨させたのでしょう。自分ではいけないから、他人を使った。今考えると非常にエコな手段です」
女神の行動にはかなりの制限がある。
世界を成立させる存在として神の座を守ることが、第一級の使命と考えた方が良いだろう。
「そうなると、アンクが『死者の檻』を崩すのを手をこまねいて見るしかないってことかー。まずいなー」
「……こうなったら誘いに乗りますか」
「誘いに乗る?」
パトレシアが不思議そうな目で私を見つめた。
「でも、『死者の檻』を崩されたら、私たちは人柱でいられなくなっちゃうんでしょ」
「はい、その代わりに神ではなくなる。神ではなくなりながら……神のごとき力を震える存在として一時ですが現世に立つことが出来ます」
「さっきのユーニアみたいに?」
「そういうことです」
『死者の檻』を解除されても、すぐに身体が崩れる訳ではない。その間にアンクを止められさえすれば、瞑世の魔法は崩れない。
「ですが、この作戦はお2人を危険に晒します。間に合わなければ、2人とももう1度死んでしまうことになります」
「へぇ……でも他に手はないんでしょ」
「私が思いつく限りでは……」
「じゃあ、それで決まり!」
パトレシアは手を打って、ぐっと親指を立てた。
「分かりやすくて良いじゃない。『死者の檻』が崩れる前にアンクをぶちのめす」
「気合が入るなぁ」
「……2人とも私のわがままに付き合わせてしまって、すいません」
私の言葉にナツは首を横に振って否定した。
「だから、『私たち』ね。ここまで来たらレイナちゃんとナツとわたしで一蓮托生、唇歯輔車、呉越同舟。新しい世界を作るまで運命共同体ね」
「呉越同舟は少し違いますが……」
「いや恋敵っていう意味では、まだわたしたちの決着は付いていないもの」
パトレシアは軽やかにウィンクして言った。
「そうでしょ、レイナちゃん」
「私は別にアンクさまに恋だなんて、そんな……もったいない」
「え、違うの?」
「私は……ただ、あの人が楽しそうに笑って生きているのが嬉しいです」
瞑世の魔法の全てはあの人のためにある。私のせいで彼が死ぬなんて、受け入れられる事はできない。こうやって女神との契約を不履行にしてしまえば、彼の命は自由なのだから。
彼の優しい笑顔が誰にも奪われることは、もうないのだ。
「なんか、それってあれね……」
パトリシアはどこか呆れたような顔で私を見て言った。
「ストーカーみたいね」
「すっ……!?」
「そうだね。変態だね」
「ナツさんまで……そんな……」
自分が変態だなんて思ってもみなかった。
もしかして自分はすごく間違ったことをしているのではないだろうか。急に不安が押し寄せてきた。
「なにぶん、そういうことには疎いもので……」
「あはは、冗談、冗談。そんな毒キノコを丸呑みしたような顔しないで」
「悪い……冗談です」
「あ、怒った? ごめんごめん。まぁ、恋っていうのはすべからくして心の異常みたいなものだから、おかしくて当然だよ、大丈夫」
「励ましになっていません……」
ナツはぽんぽんと落ち込む私の肩を叩いて言った。
「そうね、私たちも異常。目的のためなら手段を選ばない」
「とりあえずアンクが『死者の檻』を解いたら、返り討ちにすれば良いかな。鍵を破られても力でねじ伏せれば同じ事なんでしょ」
「はい、完膚無きまでに叩き潰してください。アンクさまの身体の方は私でなんとかしますから、とりあえず『死者の檻』の完全解除だけは避けてください。神の座さえ守られれば、後からどうにでもなります」
「よし、アンクたちとの全面戦争ね。そうなると、これしかない!」
パトリシアはコートの中から、大きなガラス瓶を取り出した。中には葡萄色の鮮やかな液体が入っている。
ふんわりと香る臭いにナツが目を輝かせた。
「わー、ワインだ! どこで手に入れたの?」
「水神の力を借りたの。酒も水みたいなもんでしょ」
「雑だね! でもとても良い! 待って、グラスなら私が作るから」
ナツが片手をひねるようにして回すと、綺麗なグラスが出現した。土神の力を使用した精緻な魔法で、美しいグラスを作り出した。
そこにパトリシアが軽快にワインを注いでいく。鮮やかな紫が、グラスの縁で踊るように跳ねる。
「はい、レイナちゃんの分」
「わ、わたしですか。今は封印がありますので」
「良いから、良いから。アルコールなんてすぐに分解しちゃえば良いじゃん」
「決起集会だから、パーっと」
ナツとパトリシアが期待を込めた目で、こちらを見てくる。嫌な風向きにも関わらず……いや、だからこそ、明るく振舞う事が出来る彼女たちが眩しかった。
「い、いただきます!」
「そうこなくっちゃ!」
「じゃあ、今夜は呑みましょう!」
こうして夜も昼もない世界で私たちは、酒盛りを始めた。
時間の感覚がないので、どれだけ長く続いたかは分からない。何より彼女たちは底なしで、酒は無限大に出てくる。何を話していたのかはあまり覚えていないが、「アンクをこてんぱに返り討ちにする」ということで意見がまとまったのは記憶に残っている。
いつの間にか、私は平穏な眠りについていた。目を覚ましたときに、にやけた顔で眠る2人を見て、なんだか楽しい気持ちになった。
……そして、私がこういう感情のある存在でいられるのも残りわずかなのだと考えると、今度は寂しい気持ちになった。
0
あなたにおすすめの小説
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。
彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。
剣も魔法も得意ではない主人公は、
最強のメイドたちに守られながら生きている。
だが彼自身は、
「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。
自分にできることは何か。
この世界で、どう生きていくべきか。
最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。
2月13日完結予定。
その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる