魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

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第154話 インドラ・イムレシア

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 黒い液体が引いた後、多頭龍の死骸の上に金色のオーラを纏った人影が立っていた。あたりの瘴気を掻き消して、薄いベールを羽織はおっているのは紛れもなくパトレシアだった。

「パトレシア……」

「やぁ、アンク。あなたならきっとここまで来ると思っていたわ」

 ……雰囲気が違う。
 俺が知っているどんな彼女とも違う。今のパトリシアは神秘的とも言えるほど、強い魔力を放っていた。

「今の私は3つの元素を支える複合神。人間から乖離かいりした存在だから、その感覚は当然ね」

「……やっぱり戦う気なんだな」

「うん。アンクたちがイザーブに入ってきてから2日が経とうとしている。気がつかなかった? あなたたち随分と長くこの模造品と戦っていたのよ」

 彼女が足を踏み出す。それと同時に閃光がまたたく。

 コンマ1秒の間もなくパトレシアの姿は俺の目の前にあった。

 人間では考えられない瞬間移動。数十メートルはあった距離を彼女は瞬時に移動して見せた。

 俺の前に立ったパトレシアは手を伸ばして俺の頬に触れた。記憶で見た時と同じ、柔らかく温かな手のひらが俺の頬を包んだ。

「もうボロボロじゃない。魔法だって使えない」

「魔法を使えなくても戦える」

屁理屈へりくつ。私たちの前に立ち塞がるのはもう止めて。そんな身体で何が出来るの? 自分を犠牲にして私たちを救うのとか、そういうの良いから。そんなこと望んでいない。あなたのいない世界で、私は生き永らえたいと思わない」

「俺はパトレシアを忘れたくない。それを手放すくらいなら、俺はもう死んだって構わない」

「……怒るを通して呆れるわ。ねぇ、ナツはどっちの味方になったの?」

 パトレシアは俺の隣に座るナツを見た。さっきまでヴリトラの攻撃から俺を守っていたナツは、肩をすくめて言った。

「どっちの味方でもないよ。魔物からアンクを守るけれど、それ以上のことはしない」

「そう、じゃあ私の好きにして良いのね」

 パトレシアが魔力を放つと同時に、雷鳴が轟く。凄まじいエネルギーが彼女の周囲に集約されている。

 俺に手を伸ばし、雷鳴が弾けようとする寸前で、別の攻撃がパトレシアを襲った。

「風の魔法、香運の舞ガンダヴァハ!」

「火の魔法、拝炎阿遠ガリア!」

 背後から挟み撃ちするように、リタとシュワラからの攻撃が放たれる。パトレシアが立っていた地点で2つの魔法が炸裂し爆発する。もうもうと爆煙が立ち上る中、パトレシアのすがたはもうそこにはなかった。

「いない……!? 嘘でしょ、完全に不意打ちだったのに!」

 魔法を放ったリタとシュワラが辺りを見回す。中距離からのスピードの早い魔法。あれをかわすのは人間業とは思えない。
 
「遅い遅い。発動までの時間が1秒ある時点で、不意打ちとは言えないから」

「あんなところに……」

 遥か頭上で舞うように飛ぶパトレシアに、リタは呆然とするしかなかった。ベールをくるくるとはためかせながら、パトリシアは軽々と地上に降り立った。

 降りしきる雨すらも全て弾きながら、パトリシアは余裕たっぷりに言った。

「さて、実力のほどは分かったかしら。これ以上やるっていうのなら、あなたたちでも容赦しないけれど。リタ、シュワラ、私の邪魔をしないでちょうだい」

「それは出来ない。私にだって譲れないものがある」

「……私たちが何の準備もせずに、ここに来たと思わないことですわ」

 先に動いたのはシュワラだった。
 来ているスーツから真っ白な蒸気が噴出する。彼女が前傾ぜんけい姿勢を取り、身構えると、シュワラの身体は勢い良く跳躍した。

速力変転スイッチ

 スーツに埋め込まれた魔法はシュワラの動きに合わせるように、風を巻き起こした。素早く間合いを詰めた彼女は、渾身の右ストレートを放った。

「なるほどね、良く工夫されている。あなたの戦い方らしいわ。でも、まだそれじゃ止まって見える」

 繰り出される拳の弾丸を、パトリシアは軽々と交わしていた。まるでシュワラのことを揶揄あざわらうかのように、彼女は舞うようなステップで攻撃を避けた。

「下がりなさい、シュワラ。あなたの出る幕じゃないわ」

 攻撃の隙間をって、パトリシアが閃光を放つ。
 放たれた雷撃に、シュワラはあっけなく吹っ飛ばされて、広場の隅で倒れた。

「…………くっ!」

 すぐに立ち上がり、再び間合いを詰めようとするシュワラは、自分を捉えているパトリシアの魔法を見て、動きを止めた。発光する雷の槍が、シュワラの胸を照準におさめていた。

「シュワラ、いくら努力したところで、いくらお金をつぎ込んだところで、いくらしあなたに私は倒せない」

「……めないで」

「そもそも、あなた部外者じゃない。別にアンクがどうなろうと、シュワラには関係ない話でしょ? どうして戦おうとするの?」

「私の意思であなたと戦っているのよ。私はあなたのことを許さない」

「……許さない……?」

 パトレシアは不思議そうに首を傾げて言った。

「覚えがないわ」

「忘れたのなら良いわ。私に与えた屈辱は、この拳に載せて何倍にしても返すから」

 拳を固めて、シュワラは再び立ち上がった。スーツから蒸気を噴出させて、再び跳躍する。まっすぐ向かってきた彼女をめがけて、パトリシアは躊躇ちゅうちょなく雷の槍を放った。

 直撃するかと思った瞬間、槍の軌道をずらすリタの魔法が発動した。

「風の魔法、香運の舞ガンダヴァハ!」

 横から吹いた突風がわずかに槍の先をずらす。シュワラの頬をわずかにかすめた槍は、後方の壁に激突した。

 猛スピードで突進するシュワラは、そのままパトリシアの間合いに入り込み再び右ストレートを放った。

「だから、止まって見えるって言ったじゃない……! 何度やっても無駄よ」

 軽々とかわしたパトレシアは、再び魔法を構えた。鋭い槍が彼女の右手から生成されていく。

 だが、それよりも早くシュワラの左手が真っ赤に発光していた。

「もちろん同じ手が通用すると思っていないわ。火の魔法、拝炎阿遠ガリア!」
 
 懐で構えていた左手。炎の槍がパトリシアの眉間みけんを狙っていた。シュワラの手から弾丸のように槍が発射される。

「……へぇ」

 防御は間に合わない。
 パトレシアの雷槍の発現は間に合わない。そう確信した瞬間、パトレシアを覆うように水の膜が出現した。

「な……!?」

 炎の槍が消えていく。
 鋭く輝いていた炎の切っ先は、水の膜の中であっけなく霧散した。

 水の膜がパチンと音を立てて弾ける。吹き出した水が呆然と立っていたシュワラを襲い、広場の端まで吹き飛ばした。

「シュワラ!」

 慌てて駆けつけようとしたリタを風の刃が襲った。

「ぐ……あっ!」
 
 ノーガードで突っ走っていたリタに風の刃が炸裂する。巻き上がった突風に飛ばされたリタは壁際でポタポタと血を垂らしていた。

「本当にリタは優しいんだから。ダメだよ、戦闘中に他のことを気を取られちゃ。お姉ちゃんは怒っちゃうよ」

「そうか……3つの元素神か……」

「えぇ、今の私はインドラ・イムレシア。この新しい次元において空を支える柱。この世で最も高貴なる力、果てしなく広がり、人に恵みをもたらし、あらゆるものを繋げる神の特権物。天空神インドラだけではない。水神アパーム風神ヴァーユ、3つの元素を取り込んだ私を止められるものなら止めてみなさい」

 3色の魔力をわき上がらせるパトレシアは、瓦礫の中から立ち上がったリタとシュワラを見下ろしていた。

 深い傷を負っている2人は、顔を歪めてパトレシアと対峙たいじした。

「本当にもう、イキリ散らしてくれるわね。良いよ、やってやろうじゃないの! シュワラ、準備は出来てる!?」

「当然……!」

 パトレシアは強い。今まで戦った誰よりも、実力、戦闘センスの面で圧倒的だった。
 2人に任せることしか出来ないことが歯がゆい。ボロボロになった魔力炉はいまだに安定しない。

 解法モークは打てて一発。
 それを狂いなく発動するには、どうしてもパトレシアの勢いをぐことが必要だった。


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