魔王を倒して故郷に帰ったら、ハーレム生活が始まった

スタジオ.T

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第173話 ◼︎◼︎◼︎・プルシャマナ

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「索敵《サーチ》」

 魔力炉の調子は悪くない。
 全開の10分の1位の状態には戻っている。血流が滞りなく回っているというのが、幸運という他ない。
 
 焼け付くような痛みを放っていたラサラの眼も、思った以上に馴染んでいる。かなり良い目だ。いつもより視界が開けて見える。

 これなら戦える。 
 レイナを囲うようにイメージの箱を頭の中で描く。

「固定《フィックス》!」

身体拡張エキスパンション

 レイナの戦闘スタイルは以前と変わらず、シンプルな肉弾戦だった。
 ただ、その速さはもはや目で追うことが出来るレベルを超えていた。動き始めの地面を蹴る音すら聞こえなかった。 

「……っ!!」

 レイナの攻撃が腹部に直撃する。
 固定魔法でおさえる間も無く、レイナの右足が俺のわき腹にめりこむ。メキメキと言う骨がきしむ音。気がついた時には、木々を叩き折って遥か後方まで吹き飛ばされていた。

「ぐ……ぁっ!!」
 
 岩盤に叩きつけられる。
 内臓を損傷している。息がうまく出来ない。口から吐いた血が、地面にぼとりと落ちる。

 ……強い。

「力の差は分かって頂けましたか」

「まだだ! 固定フィックス!」

「……今ので3分の力です」

 今度は固定魔法でとらえたにも関わらず、レイナの動きはさらに速さを増していた。かざした電気杖スタンガンをするりと避けて、レイナは俺の胸ぐらを掴み岩盤へと叩きつけた。

 拳を俺の顔面の手前で止めて、レイナは表情を変えることなく言った。

「降参して頂けますか」

「ぐ……」

 抑えられた身体はぴくりとも動かすことが出来ない。魔力量も身体能力もけた違いに強い。

 真っ向から勝負して、勝てる相手ではない。パトレシアやナツよりも遥かに強い底知れなさをレイナは持っている。

「降参はしない」

「気絶させるしか方法は無さそうですね」

 レイナの手が俺の首をつかむ。ピキピキと頭の奥で嫌な音が鳴る。気道が圧迫されて、意識がかすむ。

 突破口が見えない。
 勝てるビジョンが思い浮かばない。力の差は明らかで、レイナの意志はっくつがえらない。

「……ち……くしょ」
 
 固定魔法だけではレイナの動きを止めることが出来ない。強制的に時間を止めるはずの俺の魔法は、彼女の前ではほとんど何の意味も持たなかった。

「アンクさまの魔法は私が1番良く知っています。魔力の揺らぎや発動条件、発動した際に魔力が集まりやすい場所も理解しています。その脆弱ぜいじゃくな部分にステップを踏めば看破は可能です」

「だ、大した観察力だ……」

「ずっとそばにいましたから。でも、それももう、終わりです」

「……か、は……!」

 ギギギギと首の骨が軋む音が聞こえる。完全にオとす気だ。救援も期待できない。レイナの言う通りなら、俺以外の人間はもう瞑世めいせの魔法で眠りに付いている。

『生きてください。私の罪を罪で終わらせないため』

 いや、1人、いる。

「い……」

 口は動く。
 呪文は発動出来る。まだ逆転の芽はある。

「……貸し1つだ」

「なんですか……?」

 目を閉じる。
 自分の中に潜む異物を認識する。身体を巡る不可解な魔力を捉える。ふじの花のような淡い紫。俺の魔力炉に潜むもう1人の力。

「とらえた」

 2つの眼球に紫色の魔力を込めて放つ。

「い……、催眠イプノーティス……!」

「その目は……!?」

 俺から放たれた魔力を見て、レイナは俺の首から手を放して、後方へとジャンプして下がった。

 その瞬間に俺の眼球はまばゆい紫に発光し、魔力の霧を発生させた。

「ちっ……!」

 もう少しだった。
 レイナの動きがあともう少し遅かったら、完全にとらえることが出来たはずだった。魔法の射程外から離れた彼女は、信じられないという顔で俺を見ていた。

「ラサラの異端魔法……! どうしてあなたがそれを持っているのですか!?」

「はぁ、はぁ……ちょっとしたツテでな。少し貸してもらっているんだ」

「また、女神の差し金ですね……!」

 レイナがイライラしたように拳を握る。
 唇を噛み締め、怒りのこもった目で紫の霧を見ていた。 

身体拡張エキスパンション!」

 それでも迷いなくレイナは突撃してきた。
 催眠イプノーティスを警戒しているのか、木々の間をくぐり抜けながら、不規則な軌道で俺を狙ってきた。

 後方から首筋へ向けて。レイナの手刀が風を切って、俺の頸部けいぶを捉えた。

「な……!?」

 全力で放たれたレイナの手刀は、目標から完全に外れて空振る。間違いなく直撃していたはずの攻撃は的外れなところに振り下ろされていた。

「残影……! こんな力……が」

固定フィックス!」

 さっき発動した催眠魔法の効果で立ち位置をあざむく。霧で作った自分の残影で、レイナの視界をだますことができた。

 勝機が見えてくる。
 隙だらけのレイナに向かって電気杖スタンガンから電撃を放つ。最初から最大出力でレイナを狙う。

「ぐっ……!」

 明滅する電雷が辺りをまばゆく照らした。
 最大出力は魔道石の3分の1の魔力を消費する。その代わり普通の魔法と比べても、5倍近い効果を発揮する。

 当然これで倒れてはくれない。レイナはすぐに立て直し、俺をにらみつけた。

 電撃杖スタンガンをレイナに向けて、再び魔力を込める。

「どうだ……降参する気になったか」

「……こんな静電気で勝ったつもりですか。蚊に刺されたほどの痛みもありません」

 起き上がり、レイナは再び脚に力を込めて、森の中を跳躍した。眼で追う余裕はない。ただその一瞬、レイナが俺に攻撃を放つ瞬間を待ち構える。

 次は右後ろの死角からの回し蹴り。一分の無駄な動きもない完璧なタイミングで魔力を行使している。
 
催眠イプノーティス

 もし、直撃していたら一発でノックアウトだった。

「これも偽物……!」

 攻撃の空振りで、レイナにすきが出来る。
 そこに向かって固定魔法をかけたが、空中で方向を変えたレイナは、あっさりと魔法をかわした。

「くそっ!」

「2度、同じ手はくらいません」

 木の上から俺を見下ろしながらレイナが言った。

「舐めないでください。こんな攻撃を何度繰り返しても、意味なんてありません」

 レイナは呼吸を落ち着けて、顔をあげた。
 その瞳は揺らぐことなく、俺を見ていた。

 沈黙。
 嵐の前の静けさとでも言ったような不気味さがあった。

います。私にあなたを守らせてください。どうか、一思いに私を見捨ててください」

「出来ない」

「ダメだって……」

 レイナは大きく息を吐き出すと、頭を抱えて、嗚咽おえつ混じりに言った。

「ダメだって、言っているじゃないですか。どうして意地を張るのですか。これが私にとっての幸福なんです。あなたにとってもきっと……!」

「俺の幸福を君が決めるな」

「いいえ、私が決めます。もう手加減なんてしてあげませんから」
 
 レイナが怒りを吐き出すように言った。握りしめた拳が輝き、視認出来るほどの強い光の束が形成されていく。

「……今の私はレイナ・プルシャマナ。世界を改ざんするよこしまな神。この世で最も無為な力、愛を欲する堕落した罪人。神とはくもの。神とは試すもの。神とは観るもの。全てのことわりは私の頭の裏側に。理の全てをあなたが生きる世界のために」

 光の束を槍へと変えて、レイナはまっすぐ俺に向けていた。彼女の髪は鮮やかな白から、徐々に青く、かつてのサティのように変化しようとしていた。
 

 
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