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(1)アンバランスでも幸せ
しおりを挟む真冬、1月中旬のショッピングモール。
急ぎ足の女子高生がいる。
たどりついた先には少し年上の男。
カップルの待ち合わせだろう。
どこにでもある光景だ。
その体型の違いを除けば。
男はガッチリとたくましいマッチョ体型。
大きなジャケットが窮屈に見えるほど肩幅が広く、胸板は分厚く、ジーンズの太もももパンパンだ。
一方、制服姿の女子高生はめったにいないくらいきゃしゃな体型。
ブレザーがぶかぶかで、膝上10数センチのミニスカから伸びる真っ白な脚はビックリするほど細い。
まるで棒、いや、腿よりも膝回りのほうが太いという、拒食症すら思わせるラインだ。
実際、脚を動かすたびに筋が浮き出るほどなので、拒食症なのかもしれない。
彼女が入口から待ち合わせ場所に向かう途中、すれ違った人たちは振り返って二度見したり、驚きを口に出したりした。
「今の子の脚、見た?」
「うん、見た!」
「細いっていうか、ガリガリで、あそこまではなりたくないよね」
「うちの学校にもいたじゃん、ああいう脚の子」
「思い出した。でもたしか、入院しちゃったんだよね」
「今の子もそうなるのかな。そのわりには元気に歩いてたけど」
ただし、そんな会話も彼女の耳にはほとんど入らなかった。
待ち合わせの時刻を過ぎてしまい、焦りながら歩いていたからだ。
「ごめんなさい、先輩。15分も遅刻しちゃった」
「あやまらなくていいよ、遅れるってライン、ちゃんとくれてたし。生徒会の仕事のせいなんでしょ」
「うん、それはまあそうなんですけど。おかげで着替える時間もなくて、制服のまま来ちゃった」
「それも逆によかったっていうか、去年の春に告白してくれたときのこととか思い出せたよ」
「あ、あのときも制服だったもんね。OKしてもらえて、こんな私と、しかも遠距離で、ずっとつきあってくれてて、ありがとうございます」
「どうしたの、急に改まっちゃって。でも、体型は変わったよね。ホント、細くなった」
「そういう先輩も、増量計画、順調みたいですね。いかにもアメフトやってる人って感じで」
「大学のアメフト部に入部したときが76キロで、夏に会ったときが80キロ、今が83キロくらいかな。ふうちゃんは今、32キロくらいだっけ?」
「うん。あ、でも、今朝は31.8キロだったんですよ。初めての31キロ台。スペック130超え、成功です」
「すごいね、ダイエット始めたときはたしか42キロだったから、10キロも痩せたんだ」
会えなかった5ヶ月の物足りなさを埋めるように、立ち話に没頭するふたり。
しかし、周囲からの視線や言葉に気づかないわけではない。
それらの人々にとっては、あまりにも細い脚、あまりにも対照的な体型のカップルということで、視線も言葉も興味本位、なかにはかすかな悪意がこもるものまであった。
ふうちゃんこと、楓伽の耳にも「アンバランス・・・」という声が聞こえてきて、久々に再会できた晴れやかな気分を曇らせたりする。
「あのぅ、先輩、念のため聞くんですけど、私がダイエットしてること、イヤじゃないですよね?」
「うん、心配ではあるけど、イヤではないよ。なんで、そんなこと聞くの?」
「最近、不評なんですよ。痩せすぎで怖いとか、前のほうがよかったとか、親にも友達にも言われて」
「で、ふうちゃん自身の気持ちは?」
「私は痩せすぎだなんて思ってないし、今の自分のほうが好きだし。ただ、たまには褒めてもらうというか、努力をもっと評価されたりしたいなって」
「だったら僕が、いや、こういう流れだから言うんじゃなくて、痩せてるふうちゃんは可愛いし、努力もすごいと思うよ」
「ホントに?」
「うん、僕も監督からはあと4、5キロは増やせって言われてて、自分でもそうしたいけど、なかなか簡単ではなくてさ。なりたい体型があって、そこに近づいていけるってすごいことじゃない」
「たしかに、体型を変えるって簡単ではないかも。私の場合、下半身が痩せにくくて、最近ようやくちょっとマシになってきたんだけど、顔とかはもっとシュッとさせたいし」
「いや、10キロも痩せたんだから自信持っていいと思うよ。あと、それに・・・」
「それに?」
「ふうちゃんのおかげで自分の好みに気づけたというか、夏にほら、初めてアレしたときに、やっぱり、細い子っていいなと」
「ふふ、先輩がそこまで照れるって珍しいな(笑)それってむしろ、私のほうが照れなきゃいけない台詞なのに」
「あ、ごめん。だからさ、今回も楽しみでさ」
「んーもう! あからさますぎです、先輩」
「いや、ホントにごめん」
「まぁ、いいんですけど。それにしても、先輩はちょっと変わってる人なのかもしれないな」
「変わってる?」
「うん、友達にそう言われて。ほら、1週間くらい前に送った自撮り、絶賛してくれたじゃないですか」
「あぁ、あの写真、どれもすっごく可愛かった」
「それを友達に言ったらね」
―――
楓伽と友達の会話
「その先輩、ちょっと変わってるよね」
「そうかな」
「この写真の脚、骨のかたちがわかるじゃん。手首や指も骨張ってるし。いくら細い子が好きといっても限度があるって」
「いや、私、そんなに細くないし」
「そう思ってまだ痩せようとしてる楓伽も変だし、そういう今の楓伽がいいなんて、ちょっとした変人なのかも。まぁ、なんていうか、変人同士のカップルだね」
「そこまで言わなくても(笑)」
「ごめんごめん。でもまぁ、いいんじゃない。おたがいが好きならそれで。私はふたりのこと、応援してるよ」
―――
「なるほど(苦笑)。知らないところでそんなこと言われてるのか。自分ではもちろん変人同士じゃなくて、普通の恋人同士だと思ってるんだけど」
「変人じゃなくて恋人・・・。あ、字で書くとすごく似てるよね。そこに気づくなんて、先輩、おもしろい(笑)」
「だから、どっちでもいいんじゃないかな。恋人でも変人でも、そこに愛があるのなら、って。その愛を確認するために、このあとの時間があるんだしさ」
「んもう、結局、あからさまなんだから! でも、友達のこと悪く思わないでね。私、今夜はその友達の家に泊まることになってて、もしものときは親に嘘ついてくれることになってるので」
「いい友達だね」
「うん、あの子もちょっと変人なのかな」
真冬、若い男女でにぎわうショッピングモール。
他のどのカップルにも負けないくらい、ふたりは幸せだ。
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