3 / 7
第一章
あの日の夜
しおりを挟む
私は奴隷である。名前はもう無い。
どこで生れたかとんと見当がつきません。何でも薄暗いじめじめした所でシクシク泣いていた事だけは記憶しています。
私はここで始めて人間というものを見ました。
しかもあとで聞くとそれは商人という人間中で一番狡猾な人種であったそうです。
この商人というのは時々我々を捕つかまえて煮にて食うという話です。
しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思いませんでした。
ただ彼の掌に載せられてスーと何かを背に書かれた時何だかモヤモヤした感じがあったばかりです。少し落ちついて商人の顔を見たのがいわゆる人間というものの見始であったのだと思います。
この時妙なものだと思った感じが今でも残っています。
私が愚かだったのです。世間知らずの馬鹿だと嘲られました。ですが事実そうだったのだと思います。
それからの毎日というもの非道いものでした。
同じ人間に人間として扱われない日々。まともに出来ない食事。跡が残らない程度に振るわれる暴力。
そしてここに来て半年、私は逃げ出しました。
警備の薄くなる夜中を狙い、抜け出しました。
なんでも王都に"百鬼夜行"というものが出没するようになってから深夜の犯罪率が著しく低下し、警備の人数が激減したそうです。
ただ逃げ出してからの事、行く当てのない私は悩みました。
街から出ようとすれば門番に見つかってしまうでしょう。そうすれば近いうちに商館の人に見つかってしまいます。
でも街に居たところでジリ貧なのは確かです。
困った私は路地の方で腰を降ろし休みながら考える事にしました。
それからの事です。気付いたら目の前に人がいました。
驚愕、そして恐怖。
恐らく商会の人が連れ戻しに来たのでしょう。
そう思った瞬間、恐怖心が心を支配せんとばかりに今までの何倍も込み上げてきました。
「やあ、お嬢さん。こんな夜更けにそんな所丸まっていたら風邪ひいちゃうよ」
「ひっ……い、いや……近づか……ない……で……」
まずは警戒心を解く気なのでしょう。
こう頭では冷静を装っている気でもやはり恐怖には勝てないのでしょう。
恐怖故に相手を拒む言葉、恐怖故に体も全く動かない。
「大丈夫だ、君に危害を加えるどころか何処かへ突き出す気もない」
この言葉に反射的に顔を上げてしまった。
恐らく嘘でしょう。
ですが私は見てしまいました。
目の前の男の後ろに翼の生えた者がいるのを。
天使……でしょうか。初めて見ました。
あの商館には天使どころか翼の生えている者などいませんでした。
つまりあの商館の人じゃない……?
まだ気を抜いて良い訳ではありませんが少し安心してしまいました。
「君の様子を見てある程度状況を察することはできる。そこで聞きたいのだが、行く当てはあるのか?」
どういう事?なぜそんな事を質問してくる?
意図が分からず困惑してしまう。
いやそんな事はいい。
バレている……?私が商館から逃げてきたのを……?
このままでは私はジリ貧だ。
それなら目の前の男の人に賭けてみるべきだろうか。
そもそもこのまま何かされて拒否し逃げたところで天使を相手に逃げられる気はしない。
そう思い私は相手の質問に答えるべく首を振った。
「ふむ、ならば丁度良い。我が百鬼夜行に加わる気はないか?俺と家族になろう。」
百鬼夜行?あの伝説の?それに家族?どういう事?
理解が追いつかない。何から何まで意味不明だ。
目の前の男は手を差し出してきた。
不意に出されたその手を私は取ってしまった。
私は手を取ったことに驚いていた。相手は今日初めて会った人。
私は奴隷。だから着いていけば酷い目にあうかもしれない。
それなのに手を取ってしまった。
だが不思議と後悔はしていない。
あんなに恐怖していたのにだ。
それはこの男の人には謎の安心感があるのからだろうか。
謎の安心感を得たからだろうか。
彼女の意識は遠のいていったーー。
どこで生れたかとんと見当がつきません。何でも薄暗いじめじめした所でシクシク泣いていた事だけは記憶しています。
私はここで始めて人間というものを見ました。
しかもあとで聞くとそれは商人という人間中で一番狡猾な人種であったそうです。
この商人というのは時々我々を捕つかまえて煮にて食うという話です。
しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思いませんでした。
ただ彼の掌に載せられてスーと何かを背に書かれた時何だかモヤモヤした感じがあったばかりです。少し落ちついて商人の顔を見たのがいわゆる人間というものの見始であったのだと思います。
この時妙なものだと思った感じが今でも残っています。
私が愚かだったのです。世間知らずの馬鹿だと嘲られました。ですが事実そうだったのだと思います。
それからの毎日というもの非道いものでした。
同じ人間に人間として扱われない日々。まともに出来ない食事。跡が残らない程度に振るわれる暴力。
そしてここに来て半年、私は逃げ出しました。
警備の薄くなる夜中を狙い、抜け出しました。
なんでも王都に"百鬼夜行"というものが出没するようになってから深夜の犯罪率が著しく低下し、警備の人数が激減したそうです。
ただ逃げ出してからの事、行く当てのない私は悩みました。
街から出ようとすれば門番に見つかってしまうでしょう。そうすれば近いうちに商館の人に見つかってしまいます。
でも街に居たところでジリ貧なのは確かです。
困った私は路地の方で腰を降ろし休みながら考える事にしました。
それからの事です。気付いたら目の前に人がいました。
驚愕、そして恐怖。
恐らく商会の人が連れ戻しに来たのでしょう。
そう思った瞬間、恐怖心が心を支配せんとばかりに今までの何倍も込み上げてきました。
「やあ、お嬢さん。こんな夜更けにそんな所丸まっていたら風邪ひいちゃうよ」
「ひっ……い、いや……近づか……ない……で……」
まずは警戒心を解く気なのでしょう。
こう頭では冷静を装っている気でもやはり恐怖には勝てないのでしょう。
恐怖故に相手を拒む言葉、恐怖故に体も全く動かない。
「大丈夫だ、君に危害を加えるどころか何処かへ突き出す気もない」
この言葉に反射的に顔を上げてしまった。
恐らく嘘でしょう。
ですが私は見てしまいました。
目の前の男の後ろに翼の生えた者がいるのを。
天使……でしょうか。初めて見ました。
あの商館には天使どころか翼の生えている者などいませんでした。
つまりあの商館の人じゃない……?
まだ気を抜いて良い訳ではありませんが少し安心してしまいました。
「君の様子を見てある程度状況を察することはできる。そこで聞きたいのだが、行く当てはあるのか?」
どういう事?なぜそんな事を質問してくる?
意図が分からず困惑してしまう。
いやそんな事はいい。
バレている……?私が商館から逃げてきたのを……?
このままでは私はジリ貧だ。
それなら目の前の男の人に賭けてみるべきだろうか。
そもそもこのまま何かされて拒否し逃げたところで天使を相手に逃げられる気はしない。
そう思い私は相手の質問に答えるべく首を振った。
「ふむ、ならば丁度良い。我が百鬼夜行に加わる気はないか?俺と家族になろう。」
百鬼夜行?あの伝説の?それに家族?どういう事?
理解が追いつかない。何から何まで意味不明だ。
目の前の男は手を差し出してきた。
不意に出されたその手を私は取ってしまった。
私は手を取ったことに驚いていた。相手は今日初めて会った人。
私は奴隷。だから着いていけば酷い目にあうかもしれない。
それなのに手を取ってしまった。
だが不思議と後悔はしていない。
あんなに恐怖していたのにだ。
それはこの男の人には謎の安心感があるのからだろうか。
謎の安心感を得たからだろうか。
彼女の意識は遠のいていったーー。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる