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仕事を見つけること

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帰ると、神社の階段の下で時雨が待ち受けていた。

「おかえり。」

時雨は早く上がるよう促す。

「迷子札使わなかったようで良かったよ。」
「お陰様でな。」

太郎はそう言って、時雨の肩を叩いた。

「よかったな、花子。」
「は、はい!」

花子は嬉しそうだ。

「明日から早速出勤してくれ、とのことです。」
「そりゃ何よりだよ。」

時雨も満足気に頷いた。

「あ、太郎。」
「なんだ?」
「明日、町内会のドブ攫いがあるんだけど、手伝ってくれない?」
「いいぞ、なんだか分からんけど。」

…なんだろう、この感じ。


ーー


私は寝支度が終わると、布団に潜り込んだ。


花子はズボンの裾上げしてたし、お勤めも決まった。
太郎は、時雨に頼られて明日も手伝いに行くらしい。

…私、誰の役にも立ててない。


私は祖国で、敬われて生きてきた。
それこそ神のように。

しかし、今の私はなんだろう。

何もできない、ただの小娘じゃないか。

今まで学んできた事はなんだったか。
学問も、芸術も、歴史も、政治も、礼儀も、この世界では全てが違う。

私にできる事って、なんだろう。
なんの技術もない私が、みんなのためにできる事。

と言うか、私って今までどうやって生きて来たんだっけ…?


ーー


翌朝目を覚ますと、みんなは既に着替えて、パタパタと準備をしていた。

「ふ、服装はこれで良いのですか⁉︎」
「大丈夫、若木マスターが制服準備してくれるって。」
「時雨、俺はもう行けるぞ!」
「先行ってても良いけどまだ誰もいないよ。」

私は一瞬躊躇したが、改めて一つ息を吸うと挨拶する。

「お、おはよう。」

一斉にみんながこちらに視線を向ける。

「「おはようございます、蓮音様。」」
「…様。」
「「蓮音さん。」」

2人は綺麗に揃えて、そう挨拶する。
私は、この2人にここまでして貰えるような存在だった?

「し、時雨、私にできる事はないかしら。」
「そうだなぁ…。」

時雨が考え込むと、上から眠たそうな秦さんが降りてきた。

「おはよう~」

呑気な挨拶だ。

「あ、時雨、今日黒須さんところにコレ届けてきて。」
「え、僕はドブ攫いが…」
「太郎も連れて行くんだろ、俺が行くよ。」

そういうと、私は秦さんと目が合った。
な、何?

「…じゃあ、蓮音は僕と一緒に黒須さんのところに行こう。」
「い、行く!」


2人が働いている中で、自分だけ何も出来ないよりはマシだ。

私は急いで襟のついた、ちょっとかしこまった服に着替える。
時雨も、先程の作業着から作務衣になっていた。

そして、私達は家から出た。
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