三人の竜は、囚われ乙女の胸に沈む ― Dragon Heart ―

入鹿なつ

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第3章 空虚の王

11 断罪②

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「いやっ! それだけは、だめっ」

 エフィミアは咄嗟に脚をばたつかせて腕を突っ張り、ルーファンスを押しのけようとした。ところが全身を使って真上から押しつぶすように体重をかけられて、すぐに身動きできなくなる。

 ぬめる水源を探るように熱い怒張を強くこすりつけながら、ルーファンスは囁く。

「ついさっきまで君は、わたしと最後までするつもりでいただろう。その続きだ」
「ち、違っ……やめてぇっ」

 エフィミアは否定はしたものの、確かに一時は彼の色情をそのまま受け入れようと考えた。しかし今や状況が違う。

 ルーファンスが純粋な情欲を剥き出しているだけならば、まだましだった。彼が欲を吐き出せば、それで終われる。
 けれど今のルーファンスを突き動かしているのはエフィミアに対する加害衝動だ。

 竜王の心臓を宿すエフィミアを彼は殺せない。だから代替となる攻撃として、彼女を傷つけ貶めけがすことしか考えられなくなっている。その衝動のまま吐精しても、きっと彼は満たされず、互いに傷つくばかりで得るものはない。それが、エフィミアは恐ろしかった。

 必死に拒絶を叫ぶと頬を張られた。衝撃で目を回した隙をついて、熱いくさびが体内に押し込まれる。窮屈な肉壁の隙間を無理に押し広げて、一気に最奥まで貫かれた。

「あああ――っ!」

 肉を割り裂かれる痛みで、エフィミアの喉から悲鳴がほとばしった。感じたことのなかった種類の激痛で思考が混乱をきたす――なにかが、おかしい。

 交合を馴染ませるようにわずかに腰を揺すったルーファンスが、違和感を裏づけるようにふと呟いた。

「君……処女だったの? 男にかくまわれていたと聞いていたけれど」
「そんな……そんなはずは……」

 処女のはずは、ない。この王宮に連れてこられるまで、毎日溺れるように何度もナーガと素肌を重ね合わせて体を繋げていたというのに。

 では、今この身を苛んでいる痛みはなんなのだろう。ナーガとの交合では、一度たりとも痛みを感じたことはなかった。

 現状を忘れるほど混乱に陥っていると、急に体を縦に強く揺すぶられてエフィミアはさらに恐慌した。熱を持った硬い芯が狭い体内を何度も往復して、一番深い場所に繰り返し叩きつけられる。

「ひあぁ、あう、んっ」

 痛みに慣れてきた体が馴染みのある快楽を拾い始め、勝手に声が漏れた。エフィミアが咄嗟に自分の手を噛んで声を抑え込むと、代わりに涙が目尻から落ちた。

 ルーファンスは息を荒くするだけで声をたてなかった。汗で束になった金髪は頬に貼りつき、とろけて潤んだ碧眼は熱に浮かされているかのように焦点があっていない。こすれ合う結合部で粘つき泡立つ淫らな水音がだけが、次第に激しさを増す。

 無心に抽挿を繰り返していたルーファンスが、不意に動きを止めて呻いた。

「うっ……んっ……」
「あぁっ……」

 体を穿っている楔が脈打つのを感じて、エフィミアの喉からも掠れた声が出る。数度震えてエフィミアの中に精を吐き出し切った熱の塊が、ゆっくりと芯を失っていく。ルーファンス自身も疲れ切ったように全身を弛緩させ、汗ばんだ額をエフィミアの胸元に押し当てる。

 二人の荒い呼吸音だけが響く静寂の中、エフィミアは灯光の揺らめく天井を呆然と見つめた。傷だらけだろう顔も体も汗が浮くほど熱いのに、胸の内は空虚で寒々としていた。

 緩慢に上体を起こしたルーファンスと不意に目が合った。前髪の間からのぞいた彼の瞳がひどく傷ついた色をしていて、乱暴をされたのはこちらであるはずなのに、どうしてかエフィミアの中で小さな罪悪感が産まれた。なぜ彼がそんな顔をするのか分からず、ひどく戸惑う。

 億劫そうにルーファンスが性器を引き抜いて離れていく。押さえつけるものがなくなり体が自由になると、失われていた思考力がゆるゆると戻ってきて、エフィミアはようやく床の上で裸身を丸めた。

「よかったね」

 短い呟きを聞きつけて、エフィミアは顔を上げた。ルーファンスが傍で衣服を整えながら、こちらを見下ろしていた。

「王に抱かれるなんて、君の身に余ることだ」

 なんでもないように言い放ったルーファンスの唇に、酷薄な嘲笑が浮かぶ。エフィミアは唖然として、信じられない気持ちで目を見開いた――先ほど見た表情はなんだったのか。

「もし身籠もれば次王の母親かもしれない。すごいことだと思わないかい?」

 ルーファンスの皮肉に、エフィミアの中で消えかけていた怒りの炎が再び噴き上がった。

「信じられない。こんな……こんなことっ!」

 これほどの屈辱は、エフィミアの記憶にある限り経験がなかった。今度は憤りで体が熱くなる。少しでも彼に同情心を出した自分が、あまりにもみじめだ。

 唇をかむと、エフィミアは自分のかたわらに素早く手を伸ばした。そこには、ことの途中でルーファンスが放り出していた剣が落ちていた。エフィミアの指が柄のルビーに触れる――寸前で、革靴のかかとで手の甲を踏みつけられた。

「ああっ!」

 骨がしなる痛みにたまらず呻く。エフィミアの手を踏んだまま、ルーファンスはゆっくりと剣を拾い上げた。

「馬鹿なことは考えない方がいい」

 ルーファンスは冷たい表情を浮かべたが、一瞬あとにはもう笑っていた。

「でもわたしは優しいから、前言を撤回なんてしないよ。どこに火をつけるかは、ちゃんと君に選ばせてあげる」

 彼の言葉で、エフィミアは忘れかけていた事前の会話を思い出した。ルーファンスはこの上またそれ以上の暴虐を重ねようというのだ。あまりのことに、言葉を失う。

 ルーファンスは無邪気で酷薄な、本当に楽しそうな微笑を浮かべた。

「明日までに決めておいて」

 剣を収めたルーファンスはようやくエフィミアの手を解放して向きを変えると、部屋の扉のへと歩き出した。

「待ちなさいっ。待ってったら!」

 エフィミアは咄嗟にその背中に縋りついたが、振り払われた。

「またね」

 あまりにもあっけなくルーファンスは扉の向こうへ消え、エフィミアは部屋にとり残された。無情に閉じられる扉にとりすがり、エフィミアはなおも叫んだ。

「待ってルーファンス。お願い、お願いだから待って! あたしは、どうなってもいいから……あたしは……! だから、みんなは……っ!」

 聞く者のない叫びが、空虚に響いた。叫びは徐々に悲鳴と化し、鮮明さを失っていった。もう自分でも、自身がなにを叫んでいるのか分からなかった。喉が痛み、声がかれてもエフィミアは叫んだ。

 恐くて、悲しくて、憤ろしくて、みじめで、無力で、ただただ泣いた。すべてをかなぐり捨てて、泣き伏した。あらゆる負の感情があとからあとから湧き出し、目からあふれてこぼれた。むごたらしく希望が断ち切られ、空恐ろしい虚無が胸を侵食する。

 いつしか感情が底をつき、なにも感じなくなっても、エフィミアは泣き続けた。
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