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プロローグ‐凍てついた心‐
第145話「追憶:見殺し」
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六年前。羅刹たちが住む世界――羅仙界。蓮乗院邸の一室。
『これから……二人、力を合わせて……生き……て……』
デスク上のモニターから女性の声が流れている。
それに向かっているのは蒼白の羅刹装束を着た幼い少年。
(ようやく使ったか。それなりに有益なデータが取れたな)
モニターに映っているのは人間界の様子だ。
(わざわざ異世界とも通信可能な偵察用霊機を作った甲斐はあった)
この少年は、人間界で行われた、ある戦闘を観察していた。
モニターに映っている女性が使った終極戰戻という能力の実戦データを取得するために。
終極戰戻は命と引き換えに戦闘能力を大きく増幅するものだ。使い手は必ず死に至るため、なかなか実際に発動しているところを見ることはできない。
少年は、冷たい面差しにかすかな喜色を浮かべて頬杖をつく。
少年が操作する据え置き型霊子端末には、偵察用霊機が映しているものの情報が次々に保存されていく。
発動した能力の霊子構成・空間の変動・人物が持つ魂魄の性質など。
画面には大人の女性一人と、幼い少年少女が一人ずつ、計三人が映っている。
終極戰戻を使った女性は既に息絶えている。
そして、死の直前、その女性は少女へと刀を手渡していた。
(ん……? この女……もしや……)
刀を渡されて困惑している少女の魂魄情報が少年の目を引いた。
(そうか。こんなところにいたか)
画面に映る少女に興味を抱いた少年は、偵察用霊機を飛ばして情報を集める。
人間には羅刹の霊力を阻むような結界は張れない。少女が通ってきた道も分かるし、どの家に住んでいるのかも分かる。少女のプロフィールは、簡単に判明した。
情報収集を終えた少年は、携帯型霊子端末を取り出し、電話をかける。
相手は即座に応答した。
「ご用でしょうか。惟月様」
「さすがに速いな、秋嵐」
惟月と呼ばれた少年は、配下の男子の対応の速さをほめる。
「先ほど、蓮乗院風花が死んだ」
「それはそれは。葬儀に参列せよ、というお話ではありませんね?」
「分かっているようだな」
秋嵐は惟月の配下であると同時に幼馴染でもある。惟月の性分はよく知っていた。
「霊刀・雪華が、ある人間の手に渡っている。その人間の監視を頼みたい」
「刀の回収ではなく、人間の監視……ですか」
「刀自体はどうでもいい。問題は人間の方だ。名前は天堂優月。俺と同い年ぐらいの少女だが、面白い性質を持っている。頼めるか?」
「惟月様のご命令とあらば」
秋嵐はうやうやしい調子で返答する。
霊刀・雪華を受け継いだ少女――天堂優月の居場所を伝えた惟月は、電話を切って再びデスクに向かう。
その時、やや乱暴に扉が開かれ、一人の使用人が飛び込んできた。
「どうかされましたか?」
惟月は、怒りを見せるでもなく心配するでもなく、淡々と尋ねる。
「も、申し上げます! 人間界にて喰人種討伐中であった風花様が亡くなられたとの報を受けました!」
あせった口調で話す使用人に対し、惟月は表情を変えない。
「確認済みです。魂装霊倶の回収は必要ありません。葬儀の準備でも進めておいてください」
魂装霊倶は羅刹の分身とでもいうべき武器だ。簡単に譲るようなものではない。その点だけとっても冷たい物言いだが。
「それだけですか……?」
「何がでしょう?」
「母君が亡くなられたというのに、他の言葉はないのですか……!?」
そう。少年の名は蓮乗院惟月。死んだのは惟月の母だ。
「残念なことでしたね。ご冥福をお祈りします。――これでいいでしょうか?」
完全に他人事のような表現。肉親の情は感じられない。
「……っ。失礼いたしました……」
使用人は気落ちした様子で、惟月の私室を後にした。
惟月は視線をモニターに戻す。
(この分だと父上も死んでいるな。映像が途中で切れたから詳しい状況は分からないが……)
喰人種以外でも羅刹の脅威となるものはいくつか存在する。
そのいずれであるかは、特に気にしていない。
それよりも、惟月の関心は優月という少女の方へ向かっている。
(天堂優月……か。果たしてどこまで楽しませてくれるかな?)
プロローグ-凍てついた心- 完
『これから……二人、力を合わせて……生き……て……』
デスク上のモニターから女性の声が流れている。
それに向かっているのは蒼白の羅刹装束を着た幼い少年。
(ようやく使ったか。それなりに有益なデータが取れたな)
モニターに映っているのは人間界の様子だ。
(わざわざ異世界とも通信可能な偵察用霊機を作った甲斐はあった)
この少年は、人間界で行われた、ある戦闘を観察していた。
モニターに映っている女性が使った終極戰戻という能力の実戦データを取得するために。
終極戰戻は命と引き換えに戦闘能力を大きく増幅するものだ。使い手は必ず死に至るため、なかなか実際に発動しているところを見ることはできない。
少年は、冷たい面差しにかすかな喜色を浮かべて頬杖をつく。
少年が操作する据え置き型霊子端末には、偵察用霊機が映しているものの情報が次々に保存されていく。
発動した能力の霊子構成・空間の変動・人物が持つ魂魄の性質など。
画面には大人の女性一人と、幼い少年少女が一人ずつ、計三人が映っている。
終極戰戻を使った女性は既に息絶えている。
そして、死の直前、その女性は少女へと刀を手渡していた。
(ん……? この女……もしや……)
刀を渡されて困惑している少女の魂魄情報が少年の目を引いた。
(そうか。こんなところにいたか)
画面に映る少女に興味を抱いた少年は、偵察用霊機を飛ばして情報を集める。
人間には羅刹の霊力を阻むような結界は張れない。少女が通ってきた道も分かるし、どの家に住んでいるのかも分かる。少女のプロフィールは、簡単に判明した。
情報収集を終えた少年は、携帯型霊子端末を取り出し、電話をかける。
相手は即座に応答した。
「ご用でしょうか。惟月様」
「さすがに速いな、秋嵐」
惟月と呼ばれた少年は、配下の男子の対応の速さをほめる。
「先ほど、蓮乗院風花が死んだ」
「それはそれは。葬儀に参列せよ、というお話ではありませんね?」
「分かっているようだな」
秋嵐は惟月の配下であると同時に幼馴染でもある。惟月の性分はよく知っていた。
「霊刀・雪華が、ある人間の手に渡っている。その人間の監視を頼みたい」
「刀の回収ではなく、人間の監視……ですか」
「刀自体はどうでもいい。問題は人間の方だ。名前は天堂優月。俺と同い年ぐらいの少女だが、面白い性質を持っている。頼めるか?」
「惟月様のご命令とあらば」
秋嵐はうやうやしい調子で返答する。
霊刀・雪華を受け継いだ少女――天堂優月の居場所を伝えた惟月は、電話を切って再びデスクに向かう。
その時、やや乱暴に扉が開かれ、一人の使用人が飛び込んできた。
「どうかされましたか?」
惟月は、怒りを見せるでもなく心配するでもなく、淡々と尋ねる。
「も、申し上げます! 人間界にて喰人種討伐中であった風花様が亡くなられたとの報を受けました!」
あせった口調で話す使用人に対し、惟月は表情を変えない。
「確認済みです。魂装霊倶の回収は必要ありません。葬儀の準備でも進めておいてください」
魂装霊倶は羅刹の分身とでもいうべき武器だ。簡単に譲るようなものではない。その点だけとっても冷たい物言いだが。
「それだけですか……?」
「何がでしょう?」
「母君が亡くなられたというのに、他の言葉はないのですか……!?」
そう。少年の名は蓮乗院惟月。死んだのは惟月の母だ。
「残念なことでしたね。ご冥福をお祈りします。――これでいいでしょうか?」
完全に他人事のような表現。肉親の情は感じられない。
「……っ。失礼いたしました……」
使用人は気落ちした様子で、惟月の私室を後にした。
惟月は視線をモニターに戻す。
(この分だと父上も死んでいるな。映像が途中で切れたから詳しい状況は分からないが……)
喰人種以外でも羅刹の脅威となるものはいくつか存在する。
そのいずれであるかは、特に気にしていない。
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