羅刹伝 雪華

こうた

文字の大きさ
180 / 313
第二十四章-聖羅学院転入-

第157話「迷宮創造」

しおりを挟む
 ホームルームが終わり、聖羅学院の授業が始まる。
 科目は、いきなり霊力戦闘の訓練だった。
 クラス全体で、運動場に移動してきている。
「よーし。これから俺が適当に迷宮を作るから、適当に班を作って攻略しろー。天堂みたいに余った奴がいても俺は組まないからなー」
 中鏡が号令をかける。
 担任になるということで、先生には優月の過去を教えているので、人間界にいた頃の優月が学校でハブられていたことは知っていた。わざわざ言わなくていいような気がするが。
「迷宮って今から作るのか? いつ完成するんだよ」
 涼太も優月と同じ疑問を持ったようだ。おそらく龍次も。
「まあ、見てろ。俺の特殊能力を」
 中鏡が片腕を一振りすると、場内に十本ほどの塔が一瞬にして出来上がった。
 中鏡壮介の能力名は『迷宮創造めいきゅうそうぞう』。沙菜の『霊子吸収』のような、固有の能力だ。
「この迷宮の中には俺が設定したルールがある。各自準備ができたら、入口にあるブレスレットをはめて最上階を目指せ」
 中鏡の能力を見て、真哉は納得した様子。
「やる気がなさそうだと思っていたが、聖羅学院の教師をやっているだけのことはあるな」
「真哉くんはオレと組むか? もちろん怜唯ちゃんも入れて」
 真哉を誘う千尋の傍らには、怜唯だけでなく千秋の姿もある。
「俺と怜唯様と千尋と片桐の四人か。ちょうどいい人数だな」
 向こうで班が一つ決まったようだ。
 優月たちはというと。
「涼太は、わたしと組んでくれるよね?」
「今さらなんの心配してんだ。他に行く訳ないだろ」
 うれしいことを言ってくれる。人間界でも同じクラスだったら良かったのに。
「俺も優月さんと組みたいけど、戦えるのかどうか……」
 龍次の身体能力は高く、喰人種と渡り合ったことすらあるのだが、霊力はわずかにしか目覚めておらず、霊力戦闘には適していない。
 赤烏せきうという喰人種が遺した太刀を使ったこともあったが、結局はサポート役というところに落ち着いている。
「龍次さんは、私と一緒に優月さんたちの攻略を見学しましょう」
 惟月は、もはや学院でなにかを教わるような立場ではない。迷宮の攻略にも直接は関わらないのだろう。
「見学って中の様子見れるのか?」
「入口付近にモニターがあるでしょう? 発動した技の霊子構成なども表示されますから、今後の役に立つはずです」
「そういうことなら」
 龍次と惟月も、一応優月と同じ班ということになった。
 しかし、戦う役が二人というのは少ない。
「私も一緒にいきましょうか?」
「如月あねがいたら、簡単になりすぎるだろ。見学してろ」
 中鏡は沙菜を『如月姉』と呼んだ。
「私も白夜びゃくやにいの妹なんですが?」
「あっちの如月の姉じゃねーのか?」
「あれは従妹いとこです」
 怜唯たちの方を一瞥した中鏡の発言を、沙菜が訂正する。
「優月ちゃん。わたしも入れてくれる? 惟月さまに見ててほしいの」
 穂高が声をかけてきた。
 彼女が惟月を慕っていることは承知しているので、拒むのはかわいそうだし、断る理由もない。
「はい。わたしと涼太と穂高さんの三人が攻略で、龍次さんと惟月さんが見学――ということでいいでしょうか?」
 なんとなく真哉たちの班に比べると戦力が心許ない気もするが、その他大勢の生徒と比べれば、断劾と戰戻せんれいを会得している優月が圧倒的に強いので問題はないはず。
 恋人を一人に選べないほど優柔不断だというのに、霊力戦闘の技術だけは達人級なのが優月だ。
「ま、いいだろ。それで、これつけて入ればいいのか?」
 迷宮の入口にある台座に置かれていたブレスレットを手に取る涼太。
 優月と穂高も続く。
 三人揃ってブレスレットをはめたところで、優月は力が抑えられるような感覚になった。
(先生が設定したルールの影響……? 力を制限した状態で戦えってことかな)
 迷宮内では、迷宮と同じく中鏡が生み出した敵と戦うことになる。
 他の大半の生徒は断劾など使えないのだから、そんなに強い敵は出ないだろう。
 だとしたら、優月が力だけで解決せず戦術を考えるように促しているのか。
 三人は迷宮の中へと踏み込む。
 入ってすぐのところに立て札があり、奥には二階に続く階段があった。
「説明書きを読んでください。少ししたら魔獣が出現します」
 惟月の声が館内放送のように響く。
 指示された通り、立て札の文字に書かれた文字を読む。
『この階では、断劾・霊法の使用は禁止。霊戦技のみで魔獣を殲滅せんめつせよ』
 指輪に変化させてある霊刀れいとう雪華せっかの内部でいくつかの霊源が封印されたのが分かった。
 続いて、狼や鳥、普通より大きいカマキリや蜂といった虫などの魔獣が現れる。
 優月は霊刀・雪華の変化を解くと共に羅刹化し、涼太は霊剣れいけん紅大蛇べにおろちの変化を解き、穂高は霊刀・日華にっかを鞘から抜いた。
「今さらなんですけど、穂高さんって戦えるんですか?」
「ん~。どうかな~」
 質問している優月も頼りないが、穂高も頼りない。
「何階まであるか分からねーんだ。さっさと片付けるぞ」
 涼太は蛇腹剣じゃばらけんを振り回し、一気に三匹の虫を斬り捨てた。
 以前、穂高の刀の能力は火だと聞いたが、どの程度射程があるのかまでは聞いていないので、空中の敵を引き受けるべきだと判断し、優月も動く。
「霊戦技『氷柱撃ひょうちゅうげき』」
 氷の槍を数本放って、鳥型の魔獣を貫いた。
 穂高はというと。
「えい」
 走り回る狼型の魔獣を斬ろうと、刀を振り下ろすがあっさりとかわされている。
 援護するためにそちらにも氷の刃を撃って魔獣を斬り裂く。
「霊戦技『灼炎牙しゃくえんが』」
 涼太の剣が炎を帯びて、空中を曲がりくねり、次々と魔獣を焼き切っていく。
 今のところ、人間の涼太が一番活躍している。やはりしっかり者だ。
「なにやってる、お前ら! 特に優月はもっとやれるはずだろ。本気出せ」
 つい先ほどまで教室にいたせいか平和ボケしているのかもしれない。
(断劾と霊法が禁止って書いてあったけど、秘奥ひおう戦技も封印されてるか……)
 後半の『霊戦技のみ』というのが正確な指示だ。
 技の威力に頼ることはできない。敵の動きを読んで、確実に攻撃を当てていかなければ。
 優月の眼力は羅刹化によって強化されている。本気を出せば、ただの魔獣に後れを取ることはない。
 優月が放つ氷の槍と涼太が振るう炎の蛇腹剣で、ほとんどの魔獣は片付いた。
 穂高も何匹かは斬っていたようだ。
「これで終わりか? 案外あっけなかった――」
「……! 涼太、後ろ……!」
 壁をつたって移動していたスライム状の魔獣が、涼太に飛びかかってきている。
 存在自体気付いていなかった。
「ばくえんじーん」
 間延びした声と共に、穂高が振った刀から炎が放たれ、スライム状の魔獣を焼き尽くした。
「涼太くん、へいき~?」
「あ、ああ。お前、意外と強いな」
「わたし弱いよー?」
 穂高は小首をかしげた。小動物のような仕草と放った炎の威力が妙なギャップになっている。
「穂高さん、あの魔獣に気付いてたんですか?」
「んー。なんかいるなーって思ってた」
 穂高は、障害故に羅刹としてのすべての能力が低いとされていたが、観察力は悪くないようにも思える。
 人羅戦争の際、革命軍側にいたことからも、誰に従うべきかを見極める力はあるといえるし、無能ではないのではなかろうか。
「ありがとうございます、穂高さん。涼太にケガがなくて良かったです」
 穂高にお礼を言ったところで、再び惟月の声が聞こえてくる。
「説明が遅れましたが、この迷宮内でルールに従っている限りは実際に傷を負うことはありません。多少痛みを感じることはありますが、命を落とす危険はないので、安心して戦ってください」
 中鏡の声も聞こえてきた。
「穂高が強いかどうかの話だがな。俺は自分の作った迷宮にいる奴の強さを上げることも下げることも自由にできる。天堂あねの力はかなり下げてるが、穂高のは上げてあるからな」
 その説明を受けて涼太が疑問を呈する。
「だったら自分の能力を限界まで上げて敵を誘い込めば、どんな奴にも勝てるんじゃないか?」
 傷を負わないということだったが、拘束することぐらいはできるだろう。
 断劾を封じることさえできるのだから、ルール設定次第で無敵になれるのではないか。
「あー、よく聞かれるんだけどな。お前ら、ブレスレットつけただろ? それつけてる奴にしかルールは適用されないんだよ。わざわざ敵がブレスレットつけてくれない限り、敵の能力も下げられないし、魔獣の強さも上げられないんだ」
 さすがにそこまで都合のいい能力はないか、と納得した。
 実戦では使えない、あくまで訓練用の能力なのだ。
 迷宮の性質を理解した一行は、二階へと進んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

転生先は男女比50:1の世界!?

4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。 「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」 デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・ どうなる!?学園生活!!

処理中です...