羅刹伝 雪華

こうた

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第二十四章-聖羅学院転入-

第156話「将来」

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「涼太とも付き合ってるんです」
 千尋に『龍次と恋人なのか』と聞かれ、涼太のことを無視する訳にもいかず、事情を話すことになってしまった。
 仮に涼太が怒らないとしても、差別的な扱いをするのはまずい。平等に扱わなければ。
「マジか! 二股ってことか? 修羅場とかあったの?」
 千尋の目が輝いた。
 真哉からは、白い目で見られている気がする。彼は怜唯に対して一途であるように見受けられたので、軽蔑されるのも無理はないが。
 穂高に関しては、何が悪いのか理解していないようで、ニコニコしている。
 他の者たちも、それぞれの意見があるだろうが、誰がどう思っているかまでは分からない。
「龍次さんと涼太が大人だったおかげで、修羅場とまではいかなかったです」
 涼太との関係が龍次にバレた時は、心臓が止まるかと思った。だが、先に交際を始めていた龍次と、先に両思いになっていた涼太が譲り合ってくれて、結果として二股が認められることになったのだった。
 ものすごく自分にばかり都合のいい話なので、少しでも恩を返そうと、二人を守る力を磨くために修行を始めたことが、今回の聖羅学院転入へとつながっている。
「そうかー。でも、涼太くんって弟だろ? ブラコン・シスコンなのか?」
 千尋は、沙菜辺りから教わったのであろう知識に基づいて、さらに尋ねてくる。
「おれは、好きになったのが、たまたまこいつだっただけでシスコンじゃねえ」
 涼太はやや不機嫌そうに答える。
「え? そうなの?」
 優月もこれは初耳だ。別に姉が良かったのではないのか。となると、なおさら、わざわざ優月などを選んだ理由が謎である。
(そういえば姉弟なんかじゃなかったら良かったって言ってたかな……)
 優月のどこが良かったのかは分からないが、それこそ幼馴染だったら何年も前に交際を開始していたことだろう。
「口振りから察するに、優月さんの方は、実の弟との禁断の恋に惹かれるものがあったようですね」
 察するにも何も、沙菜は優月がその手のCDを買っているのを知っているはずだ。
 初めて天堂家に現れた際、まさしくそれを持っていたのだから。
 あの時は、なぜ梱包されている商品の名称が分かったのかと混乱したが、邪眼の透視能力を使ったのだと思われる。
「まあ……、わたしは変態なので……」
 涼太の名誉のためにも、変態は自分だけだということにしておこう。
「優月さんも涼太さんも魅力的ですから、お互い惹かれ合うのもおかしなことではありませんよ」
 惟月はものすごく好意的に捉えてフォローしてくれる。
「あ、ありがとうございます……。でも、わたしでは涼太とも釣り合ってないと思いますけど……」
 龍次に片思いしていた頃から、自分では彼と釣り合わないだろうとあきらめていたものだが、涼太も弟でなければ手の届かない存在だったはずだ。
「優月さんの、そういう謙虚なところ、私は好きですよ」
 微笑みかけてくる惟月の『好き』というワードに反応して肩がわずかに跳ねる。
 少し前まで全くモテなかったから、男性――特に美男子――には免疫がないのだ。
「お前、なんで釣り合わないのか分かってるか?」
 涼太の問いかけに、少し考えてから答える。
「見た目が地味だから?」
「見た目はそんなに悪くねーんだよ。他に問題がいくらでもあるだろ」
 龍次と涼太が美形であるだけに、容姿の格差が致命的だと思っていたが、当人からはそう思われていないらしい。
「優月も、涼太くんと姉弟って言われたら、そう見えるもんな」
 おそらく優月に異性としての関心はないと思われる千尋にも、顔が悪いようには見えていないようだ。
「部屋を片付けないとか、勉強をしないとか、コミュニケーション能力がないとか、そういう……?」
「分かってんじゃねーか」
 正解したが、これらを直せる自信はない。
「もっと重大な問題があるだろう」
「え……?」
 真哉が指摘する問題。それは、優月が直視せずにいたものだった。
「二股をかけていて、しかも片方は弟……。将来はどうするつもりなんだ?」
「将来とは……」
 ここまで言われれば分かるといえば分かるのだが、不安がありすぎて答えに窮する。
「結婚するにしても、子供を作るにしても問題だらけだろうが」
「う……」
 高校生の自分たちには『まだ早い』話ともいえるが、優月の性格上、『もう遅い』となるまで放置しかねない。
 どうすればいいのか、まるで分からずにいると、涼太が先に口を開いた。
「おれは、そもそも結婚できないんだよな……」
「あ……」
 二股でなくても実の弟と結婚はできない。
 となると、結婚するとしたら龍次しか選択肢にないことになる。
 しかし、それで龍次が喜んでくれるかというと。
「涼太君のことをのけ者にして俺だけ優月さんと結婚はできないし……」
 やはり悩んでいる。
 龍次と涼太は普通に仲がいいので険悪な関係にはならなかったが、これからのことを考えると二股が許されるというものでもないか。
「前、家に帰った時、母さんは俺と優月さんが付き合い続けるなら優月さんが日向家に入る前提で考えてるみたいだったけど……」
 龍次の母は厳しそうな人だった。優月に対して、龍次の恋人としてふさわしい品格を身につけるよう求めてきたぐらいなので、誠実な交際をするのは当たり前のこととしていたに違いない。まして、浮気をするなど。
 深刻なムードになっているところへ、沙菜が余計な口出しをしてくる。
「優月さんの苗字が変わったら、声で呼んでもらえなくなるじゃないですか」
「乙女ゲーか」
 この状況でも涼太はつっこみを欠かさない。
 なんの話かというと、いわゆる乙女ゲー――女性向け恋愛ゲーム――には、主人公の名前を変更するシステムが搭載されているものが多いが、変更するとセリフ内にある主人公の名前部分がボイスなしになるということだ。
 なぜ涼太が乙女ゲーを知っているのかというと、優月が恥ずかしげもなくリビングで遊んでいたからである。
「おとめげーって? ぎゃるげーの仲間?」
 千尋の女友達が食いついてきた。
「仲間っちゃ仲間だけど、男女が逆だな」
 千尋も知っているらしい。
「あはは! じゃあ、千尋には全然向いてないねー」
「そんなことないだろ。オレ、男友達も多いし。なー、みんな」
「うるせえ。お前なんか友達じゃねーよ。バーカ」
 呼びかけられた男子生徒は憎まれ口を叩く。言い方が友達に対するそれだ。
 いったん、場が明るくなったが、なんの解決にもなってはいない。
「優月さんと付き合い始めた時は、将来どんな家に住もうとか、子供は何人とか考えたりしてたんだけど……」
 優月の身勝手さが、龍次の夢をぶち壊している。
「そういえば優月、お前、子供は産むのも怖いし育てられる自信もないから作らないって言ってなかったか?」
 まだ人間界にいた頃、涼太や両親と食事をしていた時のことだ。
 当時は、相手もいなかったので、どうでもいい話だと思っていたが。
「それは、まあ……。でも、龍次さんが欲しいとなると……どうしたらいいのか……」
「あっ、無理はしなくていいよ。優月さんがいてくれるだけでも十分だし」
 龍次は優しい。
 優月は唯一の取り柄が優しさだったはずなのに、それすら他の人に後れを取るようになりつつある。
 こうなったら。
「惟月さん。惟月さんの権限で重婚と近親婚を認める法律を作ってもらうことは……」
「むちゃくちゃ言うな、お前」
 涼太には、あきれられっぱなしだ。
「羅仙界の指導者は、いずれ民主的に選挙で決めようと思っていたのですが、その前に作ってしまいましょうか」
「おい」
 そんなことを言っているうちに、ホームルームの時間が終わった。
 優月の恋愛事情が、さらにこじれることになるとは、まだ知る由もない。
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