羅刹伝 雪華

こうた

文字の大きさ
184 / 313
第二十五章-二人の恋人・新たなる敵-

第161話「異界学」

しおりを挟む
 職員室に呼び出されていた涼太も戻ってきて、次の授業が始まっていた。
 科目は、戦後になって新設されたものだ。
「今日は異世界からの客人が三人もいるからな、たっぷり『異界学いかいがく』を学んでもらうぞー」
 新科目『異界学』の担当教師も中鏡だった。
 異界学は、文字通り異世界について学ぶもの。中鏡がこれを担当しているのは、人間界に詳しい惟月の担任をしている期間が長いからのようだ。
「先生うれしそうっすねー」
「現地人がいて、自分がやることないからでしょー?」
 生徒たちからからかいの声が上がる。
「私の存在も忘れてもらっては困りますね。私は人間界以外にも詳しいですよ」
 ちゃっかり自分の席を作っている沙菜が、自身の異世界旅行経験を誇る。
 優月も聞いたことはあった。沙菜の邪眼じゃがんは、元々羅刹の能力ではなかったと。
「まあ、まずは人間界からでいいだろ。天堂姉弟きょうだいと日向、前に来い」
 なんといっても人羅戦争は人間を巡っての戦い。人間界について学ぶことは、今の羅刹にとって必要なことだろう。
「わたしが知ってることは、全部、龍次さんと涼太が知ってると思いますけど……」
 人前に立つのは苦手なのに、意味もなく教壇に立たされるハメになってしまった。
「人間界のこと教えるっていっても、一般的な羅刹はどこまで知ってんだ?」
「知ってる奴は如月あねと変わらんぐらい知ってるし、知らん奴は全く知らん」
 涼太は、中鏡の適当な回答に嘆息する。
「私は妹だと言っているでしょう」
「お前、妹って柄じゃねえだろ」
 沙菜と中鏡のやり取りは置いておいて。
「じゃあ、本当に基本的なことからだけど、まず人間界に普通に住んでるのは羅刹化してない人間と動物ばっかりだね」
 龍次が持ち前のコミュニケーション能力を活かして人間界の紹介を始める。
「羅刹化してないだけじゃなくて霊力も使えない人ばかりだから、羅仙界みたいに霊気を動力にした機械は使われてない――」
 生徒たちから質問が出てくる。
「人間界は娯楽が充実してるって聞いたけど、どんなのがあるの?」
「映画とか遊園地とか、結構、如月がこっちに持ち込んでるものも多いんじゃないかな」
「そういえば、キサラギランドってのができたよね。あんな感じ?」
「そうだね。他には、アイドルのライブに行くっていう人も多かったかな」
「アイドルっていうと……偶像? 惟月様とか怜唯様みたいな?」
「いや、そこまで大層なものじゃないけど、歌ったりおどったりしてファンを楽しませる人だよ。グループで活動してる人たちもいて――」
「人間界にも喰人種っているの?」
「羅仙界から渡ってきたのがいるみたいだけど、蓮乗院家や如月家から派遣された羅刹が倒してるから、人間たちは存在を知らないね」
「じゃあ、人間界は平和なところなの?」
「俺たちが暮らしてた国の日本はそれなりに平和だったけど、人間同士争ってる国も多いから、人間界全体が平和とはいえないかな」
 質疑応答を繰り返しているうちに、羅仙界と人間界の違いは、羅刹化に際して生じた能力の変化と羅刹は高尚な存在という意識によるものが大半だと分かった。
「優月どころか、おれも必要ないぐらいだな」
 涼太と優月の出番がないまま、人間界の紹介が終わり、次は沙菜が別の世界について教えることになった。
「私の左目に邪眼という能力が仕込んであることは知っている人も多いでしょう。これは魔界まかい邪神じゃしんから奪い取ったものです。魔界では、魔神まじんだの邪神だの、実在する生物が神と呼ばれていたりする訳ですね」
「神っていうからには強いの?」
「少なくとも邪神は私が難なく倒せる程度でしたよ。魔神ってのは、しゅんにい代償だいしょう霊法れいほうで倒したぐらいですから強いは強いです」
 瞬兄とは、沙菜の従兄いとこで怜唯の実兄の如月瞬のことだ。彼は騎士団の隊長を務めていたこともある。
 代償霊法は、身体の一部や能力を犠牲にして放つ強力な術。これを使って身体が虚弱化したが故に瞬は退任することになった。
「そもそも魔神が羅仙界に攻めてきた理由ですが、数百年前に羅仙界と魔界の間で戦争があったから、復讐のためってとこですね」
 沙菜が語ったのは羅魔らま戦争せんそうと呼ばれるものだ。
 当時の王族の命令で、霊神騎士団が動員されて、羅仙界から魔界へと侵攻することになった。
 しかし、霊極が一人もいなかった当時の騎士団では戦争に勝利することはできず、互いに多大な被害を受けた挙句、撤退した。
 一般市民が強制徴兵されることもあったので、人羅戦争よりよほど悲惨なものだった。
 過去に王族の思惑によって無謀な戦争が行われたことは、惟月が身分制度をなくそうとした理由の一つでもある。
「ああ、それと邪神についてですが、なんか復活した後、人間に倒されたらしいです」
「羅刹化してない人間が、神なんて倒せるもんなの?」
「魔界の人間は、人間界の人間とはまた違いましてね、魔力を行使することができるのですよ。魔法という言葉は聞いたことがあるでしょう? それを使って戦ったようですね」
 魔界に関する話は、優月たちも初耳だ。
 神や魔法が実在した――というよりは、そうした名前を実在のものにつけている世界があるということらしい。
「一度、魔界にも行ってみるといいですよ。あちらでは、私は邪神を倒した勇者という扱いになってますから」
 沙菜が勇者というのは、ものすごく違和感があるが、準霊極ともなると異世界の一つや二つは簡単に救うことも滅ぼすこともできるということだ。
「異世界というのは、まだまだありますが、それらはまたの機会にしましょう」
「またの機会って、お前、また来るつもりなのか?」
 沙菜の締めくくりの言葉に中鏡がつっこむ。
「この学院は騎士団員なんかを特別講師として招いたりしているらしいじゃないですか、私もそれでいいんじゃありませんか?」
「まあ、授業が楽になるから別にいいか」
 中鏡の適当さのおかげで、沙菜が聖羅学院の特別講師になってしまった。
 沙菜のような友達もいる。龍次と涼太、二人の恋人もいる。
 優月にとっては、なんだかんだいって人間界にいた頃より楽しい学園生活になるような気がしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のない、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

還暦妻と若い彼 継承される情熱

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...