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第二十五章-二人の恋人・新たなる敵-
第161話「異界学」
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職員室に呼び出されていた涼太も戻ってきて、次の授業が始まっていた。
科目は、戦後になって新設されたものだ。
「今日は異世界からの客人が三人もいるからな、たっぷり『異界学』を学んでもらうぞー」
新科目『異界学』の担当教師も中鏡だった。
異界学は、文字通り異世界について学ぶもの。中鏡がこれを担当しているのは、人間界に詳しい惟月の担任をしている期間が長いからのようだ。
「先生うれしそうっすねー」
「現地人がいて、自分がやることないからでしょー?」
生徒たちからからかいの声が上がる。
「私の存在も忘れてもらっては困りますね。私は人間界以外にも詳しいですよ」
ちゃっかり自分の席を作っている沙菜が、自身の異世界旅行経験を誇る。
優月も聞いたことはあった。沙菜の邪眼は、元々羅刹の能力ではなかったと。
「まあ、まずは人間界からでいいだろ。天堂姉弟と日向、前に来い」
なんといっても人羅戦争は人間を巡っての戦い。人間界について学ぶことは、今の羅刹にとって必要なことだろう。
「わたしが知ってることは、全部、龍次さんと涼太が知ってると思いますけど……」
人前に立つのは苦手なのに、意味もなく教壇に立たされるハメになってしまった。
「人間界のこと教えるっていっても、一般的な羅刹はどこまで知ってんだ?」
「知ってる奴は如月姉と変わらんぐらい知ってるし、知らん奴は全く知らん」
涼太は、中鏡の適当な回答に嘆息する。
「私は妹だと言っているでしょう」
「お前、妹って柄じゃねえだろ」
沙菜と中鏡のやり取りは置いておいて。
「じゃあ、本当に基本的なことからだけど、まず人間界に普通に住んでるのは羅刹化してない人間と動物ばっかりだね」
龍次が持ち前のコミュニケーション能力を活かして人間界の紹介を始める。
「羅刹化してないだけじゃなくて霊力も使えない人ばかりだから、羅仙界みたいに霊気を動力にした機械は使われてない――」
生徒たちから質問が出てくる。
「人間界は娯楽が充実してるって聞いたけど、どんなのがあるの?」
「映画とか遊園地とか、結構、如月がこっちに持ち込んでるものも多いんじゃないかな」
「そういえば、キサラギランドってのができたよね。あんな感じ?」
「そうだね。他には、アイドルのライブに行くっていう人も多かったかな」
「アイドルっていうと……偶像? 惟月様とか怜唯様みたいな?」
「いや、そこまで大層なものじゃないけど、歌ったりおどったりしてファンを楽しませる人だよ。グループで活動してる人たちもいて――」
「人間界にも喰人種っているの?」
「羅仙界から渡ってきたのがいるみたいだけど、蓮乗院家や如月家から派遣された羅刹が倒してるから、人間たちは存在を知らないね」
「じゃあ、人間界は平和なところなの?」
「俺たちが暮らしてた国の日本はそれなりに平和だったけど、人間同士争ってる国も多いから、人間界全体が平和とはいえないかな」
質疑応答を繰り返しているうちに、羅仙界と人間界の違いは、羅刹化に際して生じた能力の変化と羅刹は高尚な存在という意識によるものが大半だと分かった。
「優月どころか、おれも必要ないぐらいだな」
涼太と優月の出番がないまま、人間界の紹介が終わり、次は沙菜が別の世界について教えることになった。
「私の左目に邪眼という能力が仕込んであることは知っている人も多いでしょう。これは魔界の邪神から奪い取ったものです。魔界では、魔神だの邪神だの、実在する生物が神と呼ばれていたりする訳ですね」
「神っていうからには強いの?」
「少なくとも邪神は私が難なく倒せる程度でしたよ。魔神ってのは、瞬兄が代償霊法で倒したぐらいですから強いは強いです」
瞬兄とは、沙菜の従兄で怜唯の実兄の如月瞬のことだ。彼は騎士団の隊長を務めていたこともある。
代償霊法は、身体の一部や能力を犠牲にして放つ強力な術。これを使って身体が虚弱化したが故に瞬は退任することになった。
「そもそも魔神が羅仙界に攻めてきた理由ですが、数百年前に羅仙界と魔界の間で戦争があったから、復讐のためってとこですね」
沙菜が語ったのは羅魔戦争と呼ばれるものだ。
当時の王族の命令で、霊神騎士団が動員されて、羅仙界から魔界へと侵攻することになった。
しかし、霊極が一人もいなかった当時の騎士団では戦争に勝利することはできず、互いに多大な被害を受けた挙句、撤退した。
一般市民が強制徴兵されることもあったので、人羅戦争よりよほど悲惨なものだった。
過去に王族の思惑によって無謀な戦争が行われたことは、惟月が身分制度をなくそうとした理由の一つでもある。
「ああ、それと邪神についてですが、なんか復活した後、人間に倒されたらしいです」
「羅刹化してない人間が、神なんて倒せるもんなの?」
「魔界の人間は、人間界の人間とはまた違いましてね、魔力を行使することができるのですよ。魔法という言葉は聞いたことがあるでしょう? それを使って戦ったようですね」
魔界に関する話は、優月たちも初耳だ。
神や魔法が実在した――というよりは、そうした名前を実在のものにつけている世界があるということらしい。
「一度、魔界にも行ってみるといいですよ。あちらでは、私は邪神を倒した勇者という扱いになってますから」
沙菜が勇者というのは、ものすごく違和感があるが、準霊極ともなると異世界の一つや二つは簡単に救うことも滅ぼすこともできるということだ。
「異世界というのは、まだまだありますが、それらはまたの機会にしましょう」
「またの機会って、お前、また来るつもりなのか?」
沙菜の締めくくりの言葉に中鏡がつっこむ。
「この学院は騎士団員なんかを特別講師として招いたりしているらしいじゃないですか、私もそれでいいんじゃありませんか?」
「まあ、授業が楽になるから別にいいか」
中鏡の適当さのおかげで、沙菜が聖羅学院の特別講師になってしまった。
沙菜のような友達もいる。龍次と涼太、二人の恋人もいる。
優月にとっては、なんだかんだいって人間界にいた頃より楽しい学園生活になるような気がしていた。
科目は、戦後になって新設されたものだ。
「今日は異世界からの客人が三人もいるからな、たっぷり『異界学』を学んでもらうぞー」
新科目『異界学』の担当教師も中鏡だった。
異界学は、文字通り異世界について学ぶもの。中鏡がこれを担当しているのは、人間界に詳しい惟月の担任をしている期間が長いからのようだ。
「先生うれしそうっすねー」
「現地人がいて、自分がやることないからでしょー?」
生徒たちからからかいの声が上がる。
「私の存在も忘れてもらっては困りますね。私は人間界以外にも詳しいですよ」
ちゃっかり自分の席を作っている沙菜が、自身の異世界旅行経験を誇る。
優月も聞いたことはあった。沙菜の邪眼は、元々羅刹の能力ではなかったと。
「まあ、まずは人間界からでいいだろ。天堂姉弟と日向、前に来い」
なんといっても人羅戦争は人間を巡っての戦い。人間界について学ぶことは、今の羅刹にとって必要なことだろう。
「わたしが知ってることは、全部、龍次さんと涼太が知ってると思いますけど……」
人前に立つのは苦手なのに、意味もなく教壇に立たされるハメになってしまった。
「人間界のこと教えるっていっても、一般的な羅刹はどこまで知ってんだ?」
「知ってる奴は如月姉と変わらんぐらい知ってるし、知らん奴は全く知らん」
涼太は、中鏡の適当な回答に嘆息する。
「私は妹だと言っているでしょう」
「お前、妹って柄じゃねえだろ」
沙菜と中鏡のやり取りは置いておいて。
「じゃあ、本当に基本的なことからだけど、まず人間界に普通に住んでるのは羅刹化してない人間と動物ばっかりだね」
龍次が持ち前のコミュニケーション能力を活かして人間界の紹介を始める。
「羅刹化してないだけじゃなくて霊力も使えない人ばかりだから、羅仙界みたいに霊気を動力にした機械は使われてない――」
生徒たちから質問が出てくる。
「人間界は娯楽が充実してるって聞いたけど、どんなのがあるの?」
「映画とか遊園地とか、結構、如月がこっちに持ち込んでるものも多いんじゃないかな」
「そういえば、キサラギランドってのができたよね。あんな感じ?」
「そうだね。他には、アイドルのライブに行くっていう人も多かったかな」
「アイドルっていうと……偶像? 惟月様とか怜唯様みたいな?」
「いや、そこまで大層なものじゃないけど、歌ったりおどったりしてファンを楽しませる人だよ。グループで活動してる人たちもいて――」
「人間界にも喰人種っているの?」
「羅仙界から渡ってきたのがいるみたいだけど、蓮乗院家や如月家から派遣された羅刹が倒してるから、人間たちは存在を知らないね」
「じゃあ、人間界は平和なところなの?」
「俺たちが暮らしてた国の日本はそれなりに平和だったけど、人間同士争ってる国も多いから、人間界全体が平和とはいえないかな」
質疑応答を繰り返しているうちに、羅仙界と人間界の違いは、羅刹化に際して生じた能力の変化と羅刹は高尚な存在という意識によるものが大半だと分かった。
「優月どころか、おれも必要ないぐらいだな」
涼太と優月の出番がないまま、人間界の紹介が終わり、次は沙菜が別の世界について教えることになった。
「私の左目に邪眼という能力が仕込んであることは知っている人も多いでしょう。これは魔界の邪神から奪い取ったものです。魔界では、魔神だの邪神だの、実在する生物が神と呼ばれていたりする訳ですね」
「神っていうからには強いの?」
「少なくとも邪神は私が難なく倒せる程度でしたよ。魔神ってのは、瞬兄が代償霊法で倒したぐらいですから強いは強いです」
瞬兄とは、沙菜の従兄で怜唯の実兄の如月瞬のことだ。彼は騎士団の隊長を務めていたこともある。
代償霊法は、身体の一部や能力を犠牲にして放つ強力な術。これを使って身体が虚弱化したが故に瞬は退任することになった。
「そもそも魔神が羅仙界に攻めてきた理由ですが、数百年前に羅仙界と魔界の間で戦争があったから、復讐のためってとこですね」
沙菜が語ったのは羅魔戦争と呼ばれるものだ。
当時の王族の命令で、霊神騎士団が動員されて、羅仙界から魔界へと侵攻することになった。
しかし、霊極が一人もいなかった当時の騎士団では戦争に勝利することはできず、互いに多大な被害を受けた挙句、撤退した。
一般市民が強制徴兵されることもあったので、人羅戦争よりよほど悲惨なものだった。
過去に王族の思惑によって無謀な戦争が行われたことは、惟月が身分制度をなくそうとした理由の一つでもある。
「ああ、それと邪神についてですが、なんか復活した後、人間に倒されたらしいです」
「羅刹化してない人間が、神なんて倒せるもんなの?」
「魔界の人間は、人間界の人間とはまた違いましてね、魔力を行使することができるのですよ。魔法という言葉は聞いたことがあるでしょう? それを使って戦ったようですね」
魔界に関する話は、優月たちも初耳だ。
神や魔法が実在した――というよりは、そうした名前を実在のものにつけている世界があるということらしい。
「一度、魔界にも行ってみるといいですよ。あちらでは、私は邪神を倒した勇者という扱いになってますから」
沙菜が勇者というのは、ものすごく違和感があるが、準霊極ともなると異世界の一つや二つは簡単に救うことも滅ぼすこともできるということだ。
「異世界というのは、まだまだありますが、それらはまたの機会にしましょう」
「またの機会って、お前、また来るつもりなのか?」
沙菜の締めくくりの言葉に中鏡がつっこむ。
「この学院は騎士団員なんかを特別講師として招いたりしているらしいじゃないですか、私もそれでいいんじゃありませんか?」
「まあ、授業が楽になるから別にいいか」
中鏡の適当さのおかげで、沙菜が聖羅学院の特別講師になってしまった。
沙菜のような友達もいる。龍次と涼太、二人の恋人もいる。
優月にとっては、なんだかんだいって人間界にいた頃より楽しい学園生活になるような気がしていた。
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