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第二十五章-二人の恋人・新たなる敵-
第164話「侮辱」
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「如月の奴、ずいぶんな人気だな」
真哉たちと別れてカフェを出たところで、涼太がつぶやいた。
「え? 沙菜さん?」
実力はともかく沙菜に人気などあっただろうか。
「そっちじゃねえよ」
「怜唯さん?」
「当たり前だろ」
「沙菜さんも怜唯さんも如月って呼ぶんだ……」
「話の流れで分かるだろ」
それにしても、怜唯を『奴』などと呼んだら真哉が怒りそうだ。
(そういえば涼太って、異世界に来てから態度がデカくなってるような……)
人間の龍次のことは先輩と呼んでいるのに、羅刹は年長者でも呼び捨てにしている。
しかし、考えてみれば、自分も人間相手と違って羅刹が相手のときは異性でも最初から下の名前を呼んでいる。
日常から切り離された戦いの世界が、なんとなくゲームかなにかのような感覚にさせているのかもしれない。
そんなことは、今はどうでもいい。
「龍次さんと涼太は、この後行きたい場所は――」
「優月、ちょっといいか?」
「え?」
二人の寛大な心で認めてもらっている二股デートなので、しっかりエスコートしなければと思っていたところ、涼太に言葉をさえぎられた。
「なんで、お前、おれと日向先輩を呼ぶ時、毎回おれが後なんだ?」
ギクッとして背筋に冷たいものを感じた。
「え、いつもそうだっけ……?」
あまり意識していなかったが、よくよく思い出してみるとそんな気もする。
二股自体が問題だが、仮に許された場合、扱いの差をつけてしまうのが一番まずい。
「出会った順ならおれが先だよな?」
「う、うん……」
答えながら必死に言い訳を考える。
どうにか涼太を冷遇するつもりはないということを伝えなければ。
「つ、付き合い始めた順……かな……?」
「日向先輩と付き合う前からじゃなかったか?」
「えっと……どうだったかな……」
そこまでは覚えていない。
「やっぱりお前にとっては、おれより日向先輩の方が大事なんじゃないのか?」
愛おしい存在であるが故に、涼太の刺すような視線が痛い。
所詮二番目なのにキープはしているとなると、涼太に対して失礼極まりない。
「りょ、涼太も同じぐらい大事だよ。そうじゃなかったら、さすがのわたしも二股なんてしないし……」
涼太の告白も受けて、自分も涼太が好きだと言った気持ちは本物だ。
一時の気の迷いなどではなく、涼太のことも愛している。
どう言えば分かってもらえるだろうか。
チラッと龍次の様子をうかがってみるが、どうも困惑している。
龍次が優遇されているのではないかという話題なので、龍次も助け船を出しづらいようだ。
「じゃあ、日向先輩にすることは、おれにもするな?」
「も、もちろん。プレゼントも同じ金額分するし、デートにも同じ回数行くから」
正確に計算するのは大変だが、それぐらいはしなければ納得してもらえないだろう。
何より、大変な思いをするだけの価値があるからこそ、二人と付き合っているのだ。
「そういうことなら、今日のところは――」
ひとまず許してもらえそうになった、その時。
突然、背後に強大な存在の気配が現れた。
「うわッ!」
その何者かが、優月たち三人の間を駆け抜けたかと思うと、龍次の腕が斬り裂かれていた。
重傷ではないが、血がしたたり落ちている。
見上げると、額に二本の角が生えた女が宙に浮かんでいる。
和風の装いではあるが、随所に切れ込みが入って露出が多い。軽薄そうな印象だ。
「氷河昇龍破」
刀の変化を解いた優月が技を放つと、二本角の女はベルトで固定していた刀を抜いて斬り払った。
敵の正体が分からないので全力では撃たなかったが、こうもあっさり防がれるとは。
「アンタたち三人が人間界から来た人間? わざわざ羅仙界に来るぐらいだから、それなりの手練かと思ったら大したことないじゃない」
女は冷ややかに見下ろしてくる。
「二人共、わたしの後ろに」
優月は、龍次と涼太をかばって前に立つ。
こんな時にこそ活躍しなければ、本当に自分には二人と付き合う資格がない。
「ハッ! 大の男が揃って女の後ろに隠れてるとか、情けないわね!」
――龍次が一番気にしていることを。
「涼太も龍次さんも、わたしよりずっと立派な人です。今の言葉は取り消してください」
今、指摘されたばかりなので、ここは涼太の名前を先に呼んでおく。
「なに? 怒ったの? 事実を言ったまでじゃない」
女は悪びれることもなく笑っている。
「怒ってはいませんけど、黙ってほしいとは思ってます」
普通は怒るべき場面なのだろうが、優月には不快感はあれど、怒りという感情は湧いていなかった。
好きな人を侮辱されたのだから、怒るのが当然なのだが、なぜ自分は怒っていないのか。
「冥獄鬼じゃないですか。こっちにも現れましたか」
疑問が解消されるより早く、沙菜がこちらに駆けつけた。
「メイゴクキ? 鬼かなんかか?」
「ご明察」
沙菜は涼太の予想を肯定し、説明を加える。
人間界で獄卒とも呼ばれる地獄の鬼であり、世界の理を守護する役目を負っている。
理とは、世界がその姿であろうとする意思のようなもの。
世界は喰人種を穢れた存在として地獄に落とそうとするのに対し、羅刹の断劾は喰人種の罪を消して天界に送ることから、冥獄鬼と羅刹は敵対することが多い。
そして、冥獄鬼は人格らしきものを備えてはいるが、本当に心を持っているのではなく、人工知能のようなものだという。
「表面上、苦しんだり悲しんだりしているように見えることはありますが、気にすることはありません」
「確かな情報なんだろうな?」
涼太は疑っているようだが、優月の戦闘能力を引き出すためであっても、沙菜がウソをつくとは考えにくい。
「文献を当たれば出てきますよ。大体、私はウソをつかないと言っているでしょう?」
ウソをつかないというウソもあり得るが、すぐバレるウソをつくほど沙菜は愚かではないはず。
「まあ、そんな訳で、相手は人間どころか生物ですらありません。容赦なくサクッと斬り捨ててしまいましょう、優月さん」
「はい。斬って大丈夫なら斬りたいと思ってました」
真哉たちと別れてカフェを出たところで、涼太がつぶやいた。
「え? 沙菜さん?」
実力はともかく沙菜に人気などあっただろうか。
「そっちじゃねえよ」
「怜唯さん?」
「当たり前だろ」
「沙菜さんも怜唯さんも如月って呼ぶんだ……」
「話の流れで分かるだろ」
それにしても、怜唯を『奴』などと呼んだら真哉が怒りそうだ。
(そういえば涼太って、異世界に来てから態度がデカくなってるような……)
人間の龍次のことは先輩と呼んでいるのに、羅刹は年長者でも呼び捨てにしている。
しかし、考えてみれば、自分も人間相手と違って羅刹が相手のときは異性でも最初から下の名前を呼んでいる。
日常から切り離された戦いの世界が、なんとなくゲームかなにかのような感覚にさせているのかもしれない。
そんなことは、今はどうでもいい。
「龍次さんと涼太は、この後行きたい場所は――」
「優月、ちょっといいか?」
「え?」
二人の寛大な心で認めてもらっている二股デートなので、しっかりエスコートしなければと思っていたところ、涼太に言葉をさえぎられた。
「なんで、お前、おれと日向先輩を呼ぶ時、毎回おれが後なんだ?」
ギクッとして背筋に冷たいものを感じた。
「え、いつもそうだっけ……?」
あまり意識していなかったが、よくよく思い出してみるとそんな気もする。
二股自体が問題だが、仮に許された場合、扱いの差をつけてしまうのが一番まずい。
「出会った順ならおれが先だよな?」
「う、うん……」
答えながら必死に言い訳を考える。
どうにか涼太を冷遇するつもりはないということを伝えなければ。
「つ、付き合い始めた順……かな……?」
「日向先輩と付き合う前からじゃなかったか?」
「えっと……どうだったかな……」
そこまでは覚えていない。
「やっぱりお前にとっては、おれより日向先輩の方が大事なんじゃないのか?」
愛おしい存在であるが故に、涼太の刺すような視線が痛い。
所詮二番目なのにキープはしているとなると、涼太に対して失礼極まりない。
「りょ、涼太も同じぐらい大事だよ。そうじゃなかったら、さすがのわたしも二股なんてしないし……」
涼太の告白も受けて、自分も涼太が好きだと言った気持ちは本物だ。
一時の気の迷いなどではなく、涼太のことも愛している。
どう言えば分かってもらえるだろうか。
チラッと龍次の様子をうかがってみるが、どうも困惑している。
龍次が優遇されているのではないかという話題なので、龍次も助け船を出しづらいようだ。
「じゃあ、日向先輩にすることは、おれにもするな?」
「も、もちろん。プレゼントも同じ金額分するし、デートにも同じ回数行くから」
正確に計算するのは大変だが、それぐらいはしなければ納得してもらえないだろう。
何より、大変な思いをするだけの価値があるからこそ、二人と付き合っているのだ。
「そういうことなら、今日のところは――」
ひとまず許してもらえそうになった、その時。
突然、背後に強大な存在の気配が現れた。
「うわッ!」
その何者かが、優月たち三人の間を駆け抜けたかと思うと、龍次の腕が斬り裂かれていた。
重傷ではないが、血がしたたり落ちている。
見上げると、額に二本の角が生えた女が宙に浮かんでいる。
和風の装いではあるが、随所に切れ込みが入って露出が多い。軽薄そうな印象だ。
「氷河昇龍破」
刀の変化を解いた優月が技を放つと、二本角の女はベルトで固定していた刀を抜いて斬り払った。
敵の正体が分からないので全力では撃たなかったが、こうもあっさり防がれるとは。
「アンタたち三人が人間界から来た人間? わざわざ羅仙界に来るぐらいだから、それなりの手練かと思ったら大したことないじゃない」
女は冷ややかに見下ろしてくる。
「二人共、わたしの後ろに」
優月は、龍次と涼太をかばって前に立つ。
こんな時にこそ活躍しなければ、本当に自分には二人と付き合う資格がない。
「ハッ! 大の男が揃って女の後ろに隠れてるとか、情けないわね!」
――龍次が一番気にしていることを。
「涼太も龍次さんも、わたしよりずっと立派な人です。今の言葉は取り消してください」
今、指摘されたばかりなので、ここは涼太の名前を先に呼んでおく。
「なに? 怒ったの? 事実を言ったまでじゃない」
女は悪びれることもなく笑っている。
「怒ってはいませんけど、黙ってほしいとは思ってます」
普通は怒るべき場面なのだろうが、優月には不快感はあれど、怒りという感情は湧いていなかった。
好きな人を侮辱されたのだから、怒るのが当然なのだが、なぜ自分は怒っていないのか。
「冥獄鬼じゃないですか。こっちにも現れましたか」
疑問が解消されるより早く、沙菜がこちらに駆けつけた。
「メイゴクキ? 鬼かなんかか?」
「ご明察」
沙菜は涼太の予想を肯定し、説明を加える。
人間界で獄卒とも呼ばれる地獄の鬼であり、世界の理を守護する役目を負っている。
理とは、世界がその姿であろうとする意思のようなもの。
世界は喰人種を穢れた存在として地獄に落とそうとするのに対し、羅刹の断劾は喰人種の罪を消して天界に送ることから、冥獄鬼と羅刹は敵対することが多い。
そして、冥獄鬼は人格らしきものを備えてはいるが、本当に心を持っているのではなく、人工知能のようなものだという。
「表面上、苦しんだり悲しんだりしているように見えることはありますが、気にすることはありません」
「確かな情報なんだろうな?」
涼太は疑っているようだが、優月の戦闘能力を引き出すためであっても、沙菜がウソをつくとは考えにくい。
「文献を当たれば出てきますよ。大体、私はウソをつかないと言っているでしょう?」
ウソをつかないというウソもあり得るが、すぐバレるウソをつくほど沙菜は愚かではないはず。
「まあ、そんな訳で、相手は人間どころか生物ですらありません。容赦なくサクッと斬り捨ててしまいましょう、優月さん」
「はい。斬って大丈夫なら斬りたいと思ってました」
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