羅刹伝 雪華

こうた

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第二十五章-二人の恋人・新たなる敵-

第163話「恋敵」

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「へえ、涼太君って高校の範囲まで勉強してたんだ」
「姉がこれだから、自分がしっかりせざるをえなかったんですよ」
 カフェで談笑する優月たち三人。
 龍次と涼太の両方が優月の恋人になっているということで、二人が険悪な仲になったらどうしようかと心配していたが、どちらも心が広くて助かった。
「ほっといたらゲームばっかりしてるし。だからおれが乙女ゲーを知ってるんですよ」
「乙女ゲーって女性向けの恋愛ゲームだっけ? 優月さんがオタクっていうのも初めて知ったんだけど」
 つい『推しに貢ぐのがオタクの幸せ』などと言ってしまったが、龍次がオタクにどんなイメージを持っているかを知らない。
「す、すみません、隠してて……」
 龍次なら、趣味を理由に人を差別することはないと信じているが、内心での印象は悪くなる可能性もある。
 元より隠し通せるとは思っていなかったが、ここで龍次がどう答えるかは、非常に気がかりだった。
「別に隠しても隠さなくてもどっちでもいいと思うよ。夢中になれるものがあるっていいことだと思うし」
 龍次は、さげすみの感情など一切ない目で微笑ほほえみかけてくれた。しかも、いいことだと言ってくれるとは。
「あ、ありがとうございます……」
 つくづく自分の周りは人格者ばかりだと思う。
 戦った敵でさえそうだった。
 初めてまともに戦った喰人種の赤烏は、優月を対等の存在として認めてくれていたし、人羅戦争の最後に戦った朱姫あきひめは、女王としての務めを果たすべく努力していた。
 自分はよく優しいと言ってもらえるが、他の者と違ってそれしかほめられる要素がないのではないか。
 人間関係に恵まれていることはうれしい反面、自分が周りの者に後れを取っていることは恥ずかしくもある。
「日向先輩は、なにか趣味とかあるんですか?」
「う~ん。これといって熱心に打ち込んでるのってないなぁ。武道は護身のためにやってるだけだし、映画とかはなんとなく見てるだけだし」
 龍次は、趣味らしい趣味がないことで、自分がつまらない人間だと思っているように見受けられる。
 しかし、遊んでばかりいないおかげで、人間界にいた頃、学校でトップクラスの成績だったのだから、優月より立派だろう。
「そういう涼太君は?」
「おれも音楽鑑賞ぐらいしかないですね。しいて言えば、こいつの面倒を見るのが日課ですかね」
 ありがたい日課をお持ちだ。
 ちなみに優月の影響で、涼太が聴く音楽にはアニメのテーマソングなども加わっている。
「あと、こいつに付き合ってゲームは結構上手くなったかもしれません」
 と、そこで扉が開く音と共に、新たな客が入店してきた。
 見れば、真哉と千尋だ。
「なんだ天堂たちも来ていたのか」
「よー、優月。元気か?」
 優月たちの席の前まで来て声をかけてくる。
 二人共が優月を呼んだことからも、この三人の中では優月が中心人物だと思われているらしい。恋愛関係を見れば中心には違いないが。
「お二人はどうしたんですか? 怜唯さんは一緒じゃないんですか?」
 呼ばれたのは自分だったので、まず自分が言葉を返すことに。
「怜唯様は、兄君あにぎみの介護でご自宅にいらっしゃる」
「そういうことだから、オレたちだけでデートって訳さ」
 変なタイミングで冗談を聞かされて、せき込む優月たち。
 食事中は遠慮してほしい。
 真哉の口にした兄君というのは、前第五霊隊隊長の如月瞬のことだ。従妹に当たる沙菜も瞬兄と呼んで慕っているようだった。
「デートではないが、せっかく同級生になったのだから一緒に茶でも飲もうと思ってな」
「お前ら妙に仲いいな」
 涼太の抱いた感想の通り、彼らは会って間もなく打ち解けている。
(二人共、怜唯さんのこと好きみたいだったけど……)
 恋敵でありながら、特にケンカも経ずに意気投合できるものだろうか。
 もっとも、優月は男子同士の友情の在り方など全く分かっていないので、こんなものなのかもしれない。
 それに、同じ人を好きになったなら、価値観は一致しているともいえる。
「真哉くんがさ、中学時代の怜唯ちゃんの話聞きたいって言うから」
 千尋は優月たちのすぐそばの席に座る。
 みんなで話そうということのようだ。
「いい機会だ。お前たちも怜唯様の素晴らしさを知っておけ」
 真哉は千尋の正面に座った。
「千尋が怜唯様と出会ったのが、中学一年の時、だったか?」
「小学校はよそだったみたいだし、その頃の怜唯ちゃんはまだ霊極じゃなかったから知らなくてさ。こんな美少女がこの世界にいるのかってびっくりしたよ」
「聖羅学院に入られた理由は惟月様がいらっしゃったからか?」
「うん、そうらしいね。中学に上がるしばらく前から交流があって、どうせならってことで同じ学校にしたみたい」
 怜唯が霊極となったのは、ここ一年のことだ。真哉が聞いてきたうわさは、かなり最近のもの。千尋なら、それより前のことを知っている。
「怜唯様ほどの方であれば、霊極になる以前からご立派な功績を残してこられたのだろう」
「怜唯ちゃんのエピソードって言ったらあれだな。暴漢を改心させた奴」
「それは興味深いな」
「中一の時のことだけど、大人の男から襲いかかられたのに、対話だけで思いとどまらせてしまったんだよね。自分の身の安全より相手の人生を考えて懸命に説得したら、その男も自分のしようとしてたことが恥ずかしくなって、二度と問題を起こさないって約束して去っていったって」
 その後、相手の男は福祉の仕事に就いたというのだから、怜唯の言葉の威力は計り知れない。
 普通の女性の場合、男性に襲われるようなことがあれば、まず自分が危険から逃れることを考え、逃げきったなら相手の事情など考慮せず糾弾きゅうだんするだろう。
 悪人であっても、尊い命の持ち主であり、すべての人々に慈悲を向けるべきだという思想が、悪人を減らして善行を促すことに結びついたのだ。
「寛大な怜唯様らしい話だな。怜唯様のような方に諭されれば、悪事を働く気がなくなるというのも納得だ」
 真哉は大きくうなずいている。
 優月は、初めて怜唯を見た時、自分との容姿の格差に敗北感を覚えたが、見かけだけではなく、人格もまるで違っていたのだった。
 これで、ひがむのは筋違いだ。
「それから、穂高の飼い猫に友達が何匹かいて、人に懐かない奴もいたんだけど、怜唯ちゃんには全員最初から懐いてたってのもあるな」
「怜唯様の美しさは人間以外にも通じるということだな。単なる外見ではなく、心が美しいからこそか」
 優月も怜唯に対して興味が湧いてきたので、一つ質問をしてみる。
「怜唯さんぐらいの美少女だったら、やっぱり告白とか頻繁にされるんですか?」
「お、優月、いいとこに目をつけたな。霊極になる前は、それはもう毎週されてたんだよ。ただ、霊極になってからは恐れ多いってことで、告白とかはしないのが学院内での暗黙の了解になったな」
 涼太などは、面倒だといって、告白に対する断り文句のテンプレートを用意していたが、怜唯は一人一人に真摯に向き合っていたことだろう。
「惟月さんとか、雷斗さまもそういう感じなんでしょうか?」
 彼らの容姿は怜唯に全く引けを取らない。普通の人間なら、うっとうしいほど告白を受けるはずだ。
 しかし、そういう場面を見たことはなかった。
「まあ、だろうねー。雷斗さまの方は詳しく知らないけど、惟月サマは霊極になる前は、告白されてたし」
 千尋が惟月を呼ぶ際の声の調子に違和感を覚えた。
(なんか……、あんまり尊敬してなさそう……?)
 怜唯にも友達感覚で接しているから、惟月にも畏敬の念までは持っていないということかとも思うが、なにかありそうな気がした。
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