195 / 313
第二十六章-聖羅学院文化祭-
第172話「後夜祭」
しおりを挟む
楽しかった文化祭も終わりが近づいてきた。
今は夜のグラウンドでたき火を囲みながらカップルたちがフォークダンスをしている。
「わっ……とっ……」
「なにやってるんですか先輩。自分から誘っておいて」
日頃ダンスなどやっていない若菜は、昇太とおどっている最中につまずいて転んでしまった。
「ごめんごめん。昇太君を巻き込まなくて良かったよ」
「巻き込まれそうになったら、霊法で弾き飛ばしますよ?」
好意的にしか見えない笑顔で無慈悲なことを言う昇太。
「千尋は誰かとおどらないのか?」
「いやー、オレはね……」
怜唯のそばに控えている真哉が千尋に問いかけるが、千尋は明言を避ける。
「怜唯様。惟月様からお誘いはかかっていらっしゃらないのですか?」
「はい。特には……」
怜唯は、惟月の筆頭信者と呼ばれている。真哉としては二人がおどるのが当然と思っていてもおかしくない。
千秋も一緒にいるが、この四人はダンスには参加しないようだ。
「わたし、惟月さまとおどりたいなー……」
優月たちの方を向いて穂高が切なそうな声でつぶやく。
なぜかは分からないが、惟月は龍次・涼太と共に優月のそばにいる。
「惟月様ほどの人となると、そうそう一介の生徒とおどってはくれませんよ。ここでおどれば、自然と恋人同士と見られるようになりますしね」
同じくおどる相手がいない沙菜は穂高の頭をなでてやる。
戦争に勝利した革命軍の総大将ともなると、実質羅仙界のトップだ。そんな彼が特定の女性と恋仲になれば、相手の女性も特別な存在になってしまう。
惟月自身も簡単に誰かを誘わないだろうし、惟月を誘う度胸のある人間もそうそういまい。
しかし、そう考えると、文化祭の間、惟月を連れていた優月は周りから特別な人物と思われていたのではなかろうか。
(そういえば、沙菜さんがわたしのこと革命軍の筆頭戦士とか言ってたっけ……)
あの時は、勝手に大層な肩書きを作られて困惑することになってしまったのだった。
存外、羅仙界での知名度が上がらなかったのは、優月にとって不幸中の幸いだ。
人羅戦争で、敵の総大将だった女王・真羅朱姫を倒して戦いに終止符を打ったのは優月だが、一番の立役者は雷斗だったといえる。
「継一様が生きていらっしゃれば、今頃……」
明日菜もまた、楽しそうにしている生徒たちを見て、愛しい人の死を嘆いていた。
(明日菜さん……)
彼女に会う度、優月は胸を締めつけられるような気持ちにさせられる。自分は誰かの大切な人の命を奪ってきたのだ、と。
それでも、この感情はなくしてはならない。戦いに身を置く限りは、誰かにとっての大切なものを踏みにじり続けることになるのだから。
「天堂優月君だね。初めまして、第四霊隊で相模隊長の副官となった剣崎風雅だ。君のうわさは色々と聞いている。よかったら私のことも見知り置いてくれ」
先ほど小説の講評会をやっていた風雅が、優月に声をかけてきた。
「け、剣崎副隊長……! わ、わたしも騎士団にいるのにごあいさつが遅くなってすみません……! 第五霊隊の天堂優月です。よろしくお願いします」
終戦直後の騎士団再編会議には優月も出席していたが、その少し後に入団した風雅とは直接の面識がなかった。
小説は読ませないにせよ、自分からあいさつにぐらいは向かうべきだったか。
「八条隊長が言っていた通り、礼儀正しい子のようだね。君のような優秀な子が未来の隊長になってくれれば、騎士団も安泰なのではないかな」
「い、いえ、わたしはかなりの無礼者ですし、隊長を務められるような器もありません……」
英利と風雅も、どうやら優月を過大評価しているらしい。
「フフ。それはそうと、隣にいる二人は恋人と弟といったところかな?」
風雅は、端正な顔に好奇の色を浮かべて尋ねてくる。
「は、はい。龍次さんと涼太です。――いたッ」
すねに涼太のかかとが叩きつけられた。
「誰が恋人で誰が弟だって……?」
龍次だけを恋人として涼太は弟という扱いにしてしまったのがお気に召さなかったようだ。
涼太が弟なのは事実なのだが、涼太にとって自分が優月の弟であることはコンプレックスとなっている。千尋ではないが、それこそ幼馴染だと良かったのだろう。
「えっと……。ふ、二人共恋人なんです……」
これには風雅も驚いた様子。
「人間界の日本が一妻多夫制になったと聞いたことはないが、そういうこともあるものなのかい?」
「い、いえ、わたしだけだと思います……」
「ふむ……。面白い子だね。惟月様が目をかけるのも分かる気がする」
少し雑談をして風雅は去っていった。
羅仙界に来てからというもの、色々な人に興味を持たれている。人間界にいた頃、誰からも見向きもされなかったのがウソのようだ。
「優月さんは誰かとおどられますか?」
惟月の質問を受けて、一瞬、硬直した。
沙菜の言葉を聞く限り、ここでおどるのは恋人同士ということだ。しかし、優月の恋人は二人いる。
「あ……えっと……どうしようかな……」
龍次と涼太の間で視線をさまよわせる。
「涼太君のこと考えたら、俺だけ優月さんとおどる訳にはいかないよね……。自分で決めたことだから仕方ないけど、こういうとき、二人きりになれないのはちょっと残念かな……」
二股が発覚した際、涼太にも優月のそばにいてあげてほしいと言ったのは龍次だった。
優月と涼太の気持ちを汲んで、そう言ってくれたのだろうが、本人にとってうれしいことではあるまい。
(龍次さん……。そうだよね……、わたしは龍次さんが他の女の人といたら嫌なのに、自分は二股なんて……)
身勝手にもほどがある。
やはり二人共と付き合っていると困ることも多い。
なにかしらケジメをつけなければ。
「悩むまでもなく、そもそもお前、ダンスなんかできないだろ」
「あ、そっか……」
涼太の指摘で今はなにも決断する必要がないと気付いた。
しかし、これからのために、一つ決意を固める。
今は夜のグラウンドでたき火を囲みながらカップルたちがフォークダンスをしている。
「わっ……とっ……」
「なにやってるんですか先輩。自分から誘っておいて」
日頃ダンスなどやっていない若菜は、昇太とおどっている最中につまずいて転んでしまった。
「ごめんごめん。昇太君を巻き込まなくて良かったよ」
「巻き込まれそうになったら、霊法で弾き飛ばしますよ?」
好意的にしか見えない笑顔で無慈悲なことを言う昇太。
「千尋は誰かとおどらないのか?」
「いやー、オレはね……」
怜唯のそばに控えている真哉が千尋に問いかけるが、千尋は明言を避ける。
「怜唯様。惟月様からお誘いはかかっていらっしゃらないのですか?」
「はい。特には……」
怜唯は、惟月の筆頭信者と呼ばれている。真哉としては二人がおどるのが当然と思っていてもおかしくない。
千秋も一緒にいるが、この四人はダンスには参加しないようだ。
「わたし、惟月さまとおどりたいなー……」
優月たちの方を向いて穂高が切なそうな声でつぶやく。
なぜかは分からないが、惟月は龍次・涼太と共に優月のそばにいる。
「惟月様ほどの人となると、そうそう一介の生徒とおどってはくれませんよ。ここでおどれば、自然と恋人同士と見られるようになりますしね」
同じくおどる相手がいない沙菜は穂高の頭をなでてやる。
戦争に勝利した革命軍の総大将ともなると、実質羅仙界のトップだ。そんな彼が特定の女性と恋仲になれば、相手の女性も特別な存在になってしまう。
惟月自身も簡単に誰かを誘わないだろうし、惟月を誘う度胸のある人間もそうそういまい。
しかし、そう考えると、文化祭の間、惟月を連れていた優月は周りから特別な人物と思われていたのではなかろうか。
(そういえば、沙菜さんがわたしのこと革命軍の筆頭戦士とか言ってたっけ……)
あの時は、勝手に大層な肩書きを作られて困惑することになってしまったのだった。
存外、羅仙界での知名度が上がらなかったのは、優月にとって不幸中の幸いだ。
人羅戦争で、敵の総大将だった女王・真羅朱姫を倒して戦いに終止符を打ったのは優月だが、一番の立役者は雷斗だったといえる。
「継一様が生きていらっしゃれば、今頃……」
明日菜もまた、楽しそうにしている生徒たちを見て、愛しい人の死を嘆いていた。
(明日菜さん……)
彼女に会う度、優月は胸を締めつけられるような気持ちにさせられる。自分は誰かの大切な人の命を奪ってきたのだ、と。
それでも、この感情はなくしてはならない。戦いに身を置く限りは、誰かにとっての大切なものを踏みにじり続けることになるのだから。
「天堂優月君だね。初めまして、第四霊隊で相模隊長の副官となった剣崎風雅だ。君のうわさは色々と聞いている。よかったら私のことも見知り置いてくれ」
先ほど小説の講評会をやっていた風雅が、優月に声をかけてきた。
「け、剣崎副隊長……! わ、わたしも騎士団にいるのにごあいさつが遅くなってすみません……! 第五霊隊の天堂優月です。よろしくお願いします」
終戦直後の騎士団再編会議には優月も出席していたが、その少し後に入団した風雅とは直接の面識がなかった。
小説は読ませないにせよ、自分からあいさつにぐらいは向かうべきだったか。
「八条隊長が言っていた通り、礼儀正しい子のようだね。君のような優秀な子が未来の隊長になってくれれば、騎士団も安泰なのではないかな」
「い、いえ、わたしはかなりの無礼者ですし、隊長を務められるような器もありません……」
英利と風雅も、どうやら優月を過大評価しているらしい。
「フフ。それはそうと、隣にいる二人は恋人と弟といったところかな?」
風雅は、端正な顔に好奇の色を浮かべて尋ねてくる。
「は、はい。龍次さんと涼太です。――いたッ」
すねに涼太のかかとが叩きつけられた。
「誰が恋人で誰が弟だって……?」
龍次だけを恋人として涼太は弟という扱いにしてしまったのがお気に召さなかったようだ。
涼太が弟なのは事実なのだが、涼太にとって自分が優月の弟であることはコンプレックスとなっている。千尋ではないが、それこそ幼馴染だと良かったのだろう。
「えっと……。ふ、二人共恋人なんです……」
これには風雅も驚いた様子。
「人間界の日本が一妻多夫制になったと聞いたことはないが、そういうこともあるものなのかい?」
「い、いえ、わたしだけだと思います……」
「ふむ……。面白い子だね。惟月様が目をかけるのも分かる気がする」
少し雑談をして風雅は去っていった。
羅仙界に来てからというもの、色々な人に興味を持たれている。人間界にいた頃、誰からも見向きもされなかったのがウソのようだ。
「優月さんは誰かとおどられますか?」
惟月の質問を受けて、一瞬、硬直した。
沙菜の言葉を聞く限り、ここでおどるのは恋人同士ということだ。しかし、優月の恋人は二人いる。
「あ……えっと……どうしようかな……」
龍次と涼太の間で視線をさまよわせる。
「涼太君のこと考えたら、俺だけ優月さんとおどる訳にはいかないよね……。自分で決めたことだから仕方ないけど、こういうとき、二人きりになれないのはちょっと残念かな……」
二股が発覚した際、涼太にも優月のそばにいてあげてほしいと言ったのは龍次だった。
優月と涼太の気持ちを汲んで、そう言ってくれたのだろうが、本人にとってうれしいことではあるまい。
(龍次さん……。そうだよね……、わたしは龍次さんが他の女の人といたら嫌なのに、自分は二股なんて……)
身勝手にもほどがある。
やはり二人共と付き合っていると困ることも多い。
なにかしらケジメをつけなければ。
「悩むまでもなく、そもそもお前、ダンスなんかできないだろ」
「あ、そっか……」
涼太の指摘で今はなにも決断する必要がないと気付いた。
しかし、これからのために、一つ決意を固める。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる
まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」
父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。
清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。
なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。
学校では誰もが憧れる高嶺の花。
家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。
しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。
「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」
秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。
彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。
「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」
これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる