羅刹伝 雪華

こうた

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第二十六章-聖羅学院文化祭-

第176話「初恋の人Ⅱ」

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「こんなこと言っても信じてもらえないかもしれないけど……」
 約六年ぶりに再会した初恋の人・朝倉かなめ。急に倒れそうになった彼は、意外なことを告げてくる。
「最近、なにかに取りつかれてるみたいな……そんな感じがして……」
「え……」
 取りつかれる――というと、霊的な存在が関わっていそうな気がする。羅刹かあるいは。
「変なこと言って、ごめんね。幽霊なんている訳ないのに」
 まだ弱っていそうだが、なんとか体勢を立て直したかなめ。
 優月の脳裏には、沙菜の言葉が蘇っていた。
『幽霊ねえ。優月さんは見たことありますか?』
『幽霊なんて存在が各地の墓場に何体もいると考えているなら、死という事象をはき違えてるとしか』
 やはり教えた方がいいのではないか。
「友人が……、幽霊というのは実在しないって言ってました」
 沙菜を『友人』などと呼ぶのは、優月と穂高ぐらいのものだ。
「あはは……。そうだよね……」
 力なく笑うかなめを見て、なんとか助けになってあげなければという気持ちが強まる。
「ただ、人に取りついて力を奪う……みたいなことができる生物は存在するかもしれません」
 かなめはキョトンとしている。
 無理して話を合わせているのではないと証明するためにも、原因を突き止めなければならない。
 優月は、羅刹化していない状態でも使えるようになった魄気を飛ばして、周囲に魔獣や喰人種がいないか探してみる。
 すると、確かに霊的な気配が近づきつつあった。
(もう、すぐそばまで来てる……!)
 優月が見上げると、獣のようだがモヤモヤして形が定まらない姿のなにかが、宙に浮かんでいる。
(これが……幽霊……?)
 羅刹として戦い続けてきた今なら分かる。これがかなめの生気を吸い取っていると見て間違いない。
「霊刀・雪華」
 優月は、正体がバレることもいとわず刀の変化を解いて飛び上がり、悪霊のような存在を斬り捨てた。
 着地した優月は、霊刀・雪華を指輪に戻す。
 かなめの方を見ると、苦しそうな様子ではなくなっていた。
「今、なにか斬ったの? ひょっとして天堂さんって超能力者?」
 以前、人間界で起こった騒動で人間にも霊的な力は超能力という形で、ある程度知られている。
 羅刹の存在は周知されていないので、超能力が思い浮かぶのは自然なことだ。
 少し迷ったが、相手は仮にも初恋の人。あえて身の上を明かすことにした。
 羅刹の刀を託されたこと。羅刹化して戦えるようになったこと。羅刹の世界で暮らすようになったこと。
 これらを話して、退学の原因は彼にはなく、自分は今、幸せだと伝えた。
「すごい経験をしたんだね……。でも、天堂さんがつらい環境にいなくて良かった」
 かなめは柔らかく微笑んでくれる。
 龍次と涼太という恋人があるにも関わらず、六年ぶりの相手にときめいてしまう。
「さっきのは、やっぱり羅刹なの?」
「それが……よく分からないんです。普通の羅刹なら朝倉さんにも見えそうな気がするんですが……」
 結界が張られているようではなかった。
 にも関わらず普通の人間には見えない、霊的な存在。幽霊という表現が当てはまりそうな感じはする。
「説明しよう! 一定以上の霊力を持つ羅刹は肉体を失っても霊体だけで現世に留まることができるため、これが人間から幽霊と呼ばれることがあるのだ!」
 いつの間にか沙菜が帰ってきていた。なにかのアニメで流れるナレーションのようだ。
 幽霊はいないが、霊体だけで活動する羅刹はいる。そう言われてみれば、そんな風に聞かされた覚えがある。
「沙菜さん」
「喰人種でなくて幸いでしたね。徐々に生気を奪うタイプなら、その魔獣さえ消えれば、すぐ体調は回復しますよ」
 羅刹装束をまとった沙菜を見て、かなめは目をパチパチさせた。
「あなたが、天堂さんの友達で羅刹の人ですか?」
「その通り。一番の親友ですよ。まさか優月さんに友達ができるとは思っていなかったでしょう?」
「いえ、そんなことは……」
 かなめは少々困惑している。沙菜のノリについていくには、いくらか慣れが必要だ。
 沙菜が『一番の親友』だろうか、と、少し疑問に思ったが、確かに身近にいる同性の中では、彼女との付き合いが最も長い。
「如月沙菜です。あなたは――」
「朝倉かなめっていいます。天堂さんの元同級生で……」
 沙菜からの握手に応じて、名乗るかなめ。
 そんな彼を品定めでもするかのように眺める沙菜。
「ふむ。優月さんの同級生というだけあって美少年ですね」
「びっ……!? えっ……!?」
 突然、容姿を褒め称えられて、かなめは面食らったようだ。
 『優月の同級生』と『美少年』がなぜ結びつくのか。優月の周りに美男子が多いのは事実だが。
「あはは……。面白い人ですね」
「そうです。私は面白いでしょう?」
 クリエイター志望などというだけあって、沙菜は面白さに自信を見せる。
 そうこうしているうちに、学校のチャイムが鳴った。この時間だと昼休みが終わったところだろう。
「あっ、教室に戻らないと。もし今度、人間界に来ることがあったら一緒に遊んでね」
「はっ、はいっ。よろしくお願いします……!」
 深く礼をしてかなめを見送る。
 そのあと、ほぼ入れ違いで龍次たちが戻ってきた。
「あれ? 優月さん、なにかいいことあった?」
「日向先輩、よく分かりましたね。おれは、さすがに分かりますけど」
 笑顔にはなっていなかったのだが、それでも優月の感情を読み取れたらしい。
「は、はい。朝倉さんって人に会いまして」
「ああ。朝倉君か」
「知ってるんですか?」
「朝倉先輩なら、おれも知ってるぞ」
「涼太も?」
「日向先輩の陰に隠れがちだけど、かなりの美少年だって人気だったからな。お前が会ってうれしいってのは、そういうことだろ?」
 図星を指されて冷や汗をかく。優月が面食いだということは、よくご存じのようで。
 よく考えれば、あれだけの美少年なら、みんな知っていて当たり前だ。
「いや、まあ……、それもあるけど……、ずっと気持ち悪がられてたんじゃないかって思ってたから、そうじゃないって分かってうれしかったっていうか……」
 半分認めつつも、言い訳も試みる。
「ああ、あの時のか」
 涼太は覚えていることだろう。優月を不登校から立ち直らせるのに尽力しただけに。
「なにかあったの?」
 事情を知らない龍次に、涼太が当時のことをかいつまんで説明した。
「そっか。そういうことなら、うれしいよね」
 龍次は怒ることも軽蔑することもなく、一緒に喜んでくれた。
「察するに、あれが優月さんの初恋の人ですね」
 せっかく場が丸く収まろうとしていたのに、沙菜が燃料を投下する。
「初恋……か。まあ、俺だって優月さんの前に高島と付き合ってたんだから、別に問題ないよね」
 龍次は、許してくれそうだ。
「それで? 初恋の人と再会して何してたんだ?」
 涼太は、疑いの眼差しを向けてくる。
「べ、別になにもないよ……? わたしなんかのこと好きになる人が三人もいる訳ないし……」
 優月が、やましいことがあるとしか思えないような口調で弁明する傍ら――。
「なるほど。『三人もいない』ですか」
 沙菜は、よく分からないことをつぶやきながらニヤニヤしている。
 沙菜の発言の意図が判明するのは、まだ先のことだった。


第二十六章-聖羅学院文化祭- 完
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