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第二十六章-聖羅学院文化祭-
第175話「初恋の人Ⅰ」
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日向家を後にした優月たちは、せっかく人間界に来たので、ついでに学校の友人に会っていこうということになった。
「そういや、あの高島って女、結局どうなったんだろうな。そこら辺のチャラ男とよろしくやってんのか?」
「ああ。あれなら私が殺しましたよ」
「ふーん。――って、さらっとなに言ってんだ!?」
沙菜が人を殺すのは今に始まったことではないが、ごく普通のことのように聞かされて、涼太も驚きの声を上げた。
「この前の超能力騒動の時、低レベルのチンピラに襲われたでしょ。そいつらをけしかけたのが高島ですよ。死んで、せいせいするでしょう?」
「ま、おれはあんな奴どうでもいいけどな」
涼太ほど冷めていないにせよ、優月もあまり悲しいとは感じなかった。
優月の性格上、積極的に傷つけようとは思わなかったが、高島遥は自分たちの敵だ。
しかし、龍次は、仮にも恋人として過ごしたことがある。
多少なりともショックは受けるかと思いきや。
「俺も、あいつとは、周りの空気に流されて付き合うことにしただけだったから、もう未練はないかな」
つまり今の龍次の心は優月だけのものだということだ。
それが無性にうれしい反面、こちらは二股をかけているせいで、同じ喜びを返せないのが心苦しい。
「もうすぐ学校ですね。私はゲームショップでも見てきます」
沙菜は、どこかへ飛び立っていった。
「本当に優月さんはいいの?」
「はい。わたしなんかが龍次さんと一緒にいるって知られたら、無駄に恨まれるだけだと思うので」
龍次は高等部の、涼太は中等部の友人にそれぞれ会いにいくとのことだが、優月は龍次に同行することは遠慮した。
親はともかく、ただのクラスメイトにまで詳しい事情を話す義理もない。
優月もクラスメイトと打ち解けつつあったが、それほど心配してくれている人もいないだろう。
「じゃあ、ちょっとだけ行ってくるから」
「はい」
校門辺りで待っていることにして、龍次たちを見送った。
携帯霊子端末に入れたゲームを遊んで、しばらく暇を潰していると不意に横から声をかけられる。
「天堂さん……?」
「え――」
呼びかけてきた人物の顔を見て、胸を突かれたような衝撃を受けた。
しかし、痛みというよりは熱さを感じているようだ。
目の前にいる男子生徒のことを優月はよく覚えている。
名前は、朝倉かなめ。優月の初恋の人だ。
初恋といっても、あまりいい思い出がある訳ではない。
彼に関わる最後の記憶は、優月が不登校になるきっかけだった。
小学四年生の頃、かなめのことが気になるようになった優月は、いつも彼を目で追っていた。そんな中で、彼の友人が発した言葉。
『あいつ、またジロジロ見てるぞ』
『気持ちわりぃな……。お前もなんか言ってやれよ』
気持ち悪いと侮辱されたことが嫌だったのではない。彼らを不快にさせてしまった自分が嫌になったのだ。
友人に促されたかなめが実際になにか言ったかは分からない。その場からは逃げ出してしまっていたから。
だが、好きな人を傷つけたかもしれないという可能性は、優月を追い詰めるのに十分だった。
かなめは、どちらかというと、おとなしい男の子。優月ほどでないにせよ、気弱な性格だった。そんな彼だからこそ、自分の行動で傷つけるなどあってはならないことだと思っていた。
少なくとも好感は与えていないはずの彼が、なぜ優月に話しかけてきたのだろうか。
「天堂さん、だよね……? 退学したって聞いてたけど……」
「は、はい。色々事情があって……」
退学したのは事実だが、それを知っているということは。
「も、もしかして、わたしのこと覚えていてくださったんですか……?」
「うん……。僕の友達がひどいこと言って、それから学校に来なくなったから、ずっと心配だったんだ……」
今度は胸に温かいものが広がる感覚になった。
覚えていてくれた。しかも、こんな自分を気にかけてくれていた。
「ごめんね……。謝りたいとは思ってたんだけど、なかなかタイミングがなくて……」
「い、いえ……! 謝らないといけないのは、わたしの方です。変な目で見られて不快だったと思いますし……」
互いに謝り合う、かなめと優月。
向こうが、嫌うどころか心配してくれているなら、不登校になどなる必要はなかったのだ。
「退学したのも僕のせいだったりしない……? 大丈夫?」
「あっ、それは全然別の理由です。大丈夫です」
自分が退学したところで、誰も気にしていないとばかり思っていたが、まさかの人物が心配してくれていた。
「わたしが退学したのは……」
そこで、具体的な理由を話すとなると、羅刹云々が出てきてしまうことに気付く。
誤解を与えたままにしておいては、それこそ彼を傷つけかねないので、正直に教えるべきだろうか。
「うっ……」
「だ、大丈夫ですか、朝倉さん」
貧血でも起こしたのか倒れそうになったかなめの身体を受け止める。
こんな風に触れることがあるとは、同級生だった時には考えもしなかった。
至近距離でかなめの端正な童顔が見上げてくる。
「あ……うん……。こんなこと言っても信じてもらえないかもしれないけど……」
「そういや、あの高島って女、結局どうなったんだろうな。そこら辺のチャラ男とよろしくやってんのか?」
「ああ。あれなら私が殺しましたよ」
「ふーん。――って、さらっとなに言ってんだ!?」
沙菜が人を殺すのは今に始まったことではないが、ごく普通のことのように聞かされて、涼太も驚きの声を上げた。
「この前の超能力騒動の時、低レベルのチンピラに襲われたでしょ。そいつらをけしかけたのが高島ですよ。死んで、せいせいするでしょう?」
「ま、おれはあんな奴どうでもいいけどな」
涼太ほど冷めていないにせよ、優月もあまり悲しいとは感じなかった。
優月の性格上、積極的に傷つけようとは思わなかったが、高島遥は自分たちの敵だ。
しかし、龍次は、仮にも恋人として過ごしたことがある。
多少なりともショックは受けるかと思いきや。
「俺も、あいつとは、周りの空気に流されて付き合うことにしただけだったから、もう未練はないかな」
つまり今の龍次の心は優月だけのものだということだ。
それが無性にうれしい反面、こちらは二股をかけているせいで、同じ喜びを返せないのが心苦しい。
「もうすぐ学校ですね。私はゲームショップでも見てきます」
沙菜は、どこかへ飛び立っていった。
「本当に優月さんはいいの?」
「はい。わたしなんかが龍次さんと一緒にいるって知られたら、無駄に恨まれるだけだと思うので」
龍次は高等部の、涼太は中等部の友人にそれぞれ会いにいくとのことだが、優月は龍次に同行することは遠慮した。
親はともかく、ただのクラスメイトにまで詳しい事情を話す義理もない。
優月もクラスメイトと打ち解けつつあったが、それほど心配してくれている人もいないだろう。
「じゃあ、ちょっとだけ行ってくるから」
「はい」
校門辺りで待っていることにして、龍次たちを見送った。
携帯霊子端末に入れたゲームを遊んで、しばらく暇を潰していると不意に横から声をかけられる。
「天堂さん……?」
「え――」
呼びかけてきた人物の顔を見て、胸を突かれたような衝撃を受けた。
しかし、痛みというよりは熱さを感じているようだ。
目の前にいる男子生徒のことを優月はよく覚えている。
名前は、朝倉かなめ。優月の初恋の人だ。
初恋といっても、あまりいい思い出がある訳ではない。
彼に関わる最後の記憶は、優月が不登校になるきっかけだった。
小学四年生の頃、かなめのことが気になるようになった優月は、いつも彼を目で追っていた。そんな中で、彼の友人が発した言葉。
『あいつ、またジロジロ見てるぞ』
『気持ちわりぃな……。お前もなんか言ってやれよ』
気持ち悪いと侮辱されたことが嫌だったのではない。彼らを不快にさせてしまった自分が嫌になったのだ。
友人に促されたかなめが実際になにか言ったかは分からない。その場からは逃げ出してしまっていたから。
だが、好きな人を傷つけたかもしれないという可能性は、優月を追い詰めるのに十分だった。
かなめは、どちらかというと、おとなしい男の子。優月ほどでないにせよ、気弱な性格だった。そんな彼だからこそ、自分の行動で傷つけるなどあってはならないことだと思っていた。
少なくとも好感は与えていないはずの彼が、なぜ優月に話しかけてきたのだろうか。
「天堂さん、だよね……? 退学したって聞いてたけど……」
「は、はい。色々事情があって……」
退学したのは事実だが、それを知っているということは。
「も、もしかして、わたしのこと覚えていてくださったんですか……?」
「うん……。僕の友達がひどいこと言って、それから学校に来なくなったから、ずっと心配だったんだ……」
今度は胸に温かいものが広がる感覚になった。
覚えていてくれた。しかも、こんな自分を気にかけてくれていた。
「ごめんね……。謝りたいとは思ってたんだけど、なかなかタイミングがなくて……」
「い、いえ……! 謝らないといけないのは、わたしの方です。変な目で見られて不快だったと思いますし……」
互いに謝り合う、かなめと優月。
向こうが、嫌うどころか心配してくれているなら、不登校になどなる必要はなかったのだ。
「退学したのも僕のせいだったりしない……? 大丈夫?」
「あっ、それは全然別の理由です。大丈夫です」
自分が退学したところで、誰も気にしていないとばかり思っていたが、まさかの人物が心配してくれていた。
「わたしが退学したのは……」
そこで、具体的な理由を話すとなると、羅刹云々が出てきてしまうことに気付く。
誤解を与えたままにしておいては、それこそ彼を傷つけかねないので、正直に教えるべきだろうか。
「うっ……」
「だ、大丈夫ですか、朝倉さん」
貧血でも起こしたのか倒れそうになったかなめの身体を受け止める。
こんな風に触れることがあるとは、同級生だった時には考えもしなかった。
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