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第二十七章-羅刹VS冥獄鬼-
第181話「沙菜と白夜」
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「私の命を狙う輩は珍しくありませんが、冥獄鬼まで出張ってきましたか」
霊京四番街。
沙菜に戦いを挑む冥獄鬼がいた。
「俺は阿修羅。てめえの顔はよく覚えてるぜ」
阿修羅と名乗った冥獄鬼は黒髪の青年の姿をしている。
悪くはない容姿だが、沙菜が手加減するほどでもない。
「前に会ったことがありましたか? それとも獄界から羅仙界の様子を見ていただけですかね」
「会ったことはねえが、てめえを許せるなんて奴はそうそういないぜ。獄界にもな」
「なるほど。罪のない者は殺してはいけないなどという安い正義感に駆られた三下ですか。そういう手合いはたくさんいますよ。羅仙界にも」
「その正義感が安いかどうか、その身を以って知りやがれッ!」
剣を抜いた阿修羅は沙菜と斬り結ぶ。
変化を解いていなくても沙菜の朧月は敵の能力を吸収できる。刃を合わせるのは自殺行為のはずだが。
(霊子吸収が発動しない……。第三霊隊が開発した対抗術式をさらにアレンジしたのか)
冥獄鬼は獄界にいながらも、現世を監視している。
戦前の騎士団が持っていた技術などは流出していて不思議はない。
沙菜は、霊気で腕力を強化して阿修羅の刃を弾く。
「霊槍・朧月」
そして、魂装霊倶の変化を解く。
「煌刃月影弾・守天」
斧槍を大きく振りきって、金色に煌めく霊気の刃を撃ち出した。
これも理を超越する力を持った断劾だ。
「てめえなんぞの断劾が効くかよッ!」
阿修羅は沙菜の断劾を一刀両断にする。
これには沙菜も少々驚かされた。
早々に片付けてしまおうと、もし朝霧大和程度の敵だったなら一撃で倒せる威力で放ったからだ。
「なに驚いてんだ。自分が断劾を使いこなせてるとでも思ってたのか?」
「…………」
沙菜は肯定も否定もせず、冷たく相手を見据えた。
大和よりは格段に強い。
沙菜を憎む姿勢は同じでも、大和のような考えなしではないということか。
「戦いはこっからだぜ!」
再び阿修羅が斬りかかってくる。
沙菜はひとまず後方に跳ぶ。罠を仕掛けて。
「うおッ!」
沙菜が元いた位置で阿修羅は爆風に飲まれた。
「対霊空雷。霊子学研究所の技術にどこまで食い下がれますかね?」
空中に仕掛けられた見えない爆弾を受けても、阿修羅はほとんど傷を負っていなかった。
「堅固ほどじゃないが、俺も頑丈さには自信があってな。こんな小道具でやられはしねえぜ」
今度は剣から神気を飛ばしてくる。
霊子吸収が通じないため、霊戦技を撃って相殺する。
刃をかわし、霊気を撃ち、神気を斬り払い、霊法を放つ。
互いに全力ではないながら、激しい攻防が続いた。
「どうした? 戰戻を使わねえのか?」
「あなたのような三下に見せるほど安いものではありませんよ」
斬り合いをしつつ、挑発の言葉をぶつけ合う。
先に奥の手を出した方が負けると考えているからだ。
「朝霧大和のことは意外と認めてたってことか?」
「あれにはちょっとした理由がありましてね。まあ、儀式みたいなものと思っておいてください」
大和に戰戻を見せたことには、自らと対極の行動理念を持つ存在との決別という意味があった。
戰戻なしでも勝てたし、なんなら大和が全力を出す前に速攻で殺すことも可能だった。
しかし、圧倒的な力で彼を跡形もなく消し去ることで、歪んだ人生を歩むことになった自分をなぐさめたかったのだ。
もう一つの意味については、今、語ることはしない。
「出さねえってんなら、それでもいい。魂装状態のままのてめえをぶっ殺してやるよ!」
すごむ阿修羅に、沙菜は平静を崩さない。
「私の殺人を責めるあなたが『ぶっ殺す』とは、理念に矛盾があるのでは?」
これは沙菜が死刑制度の廃止を望んだ理由でもある。
立場からすれば、どのみち沙菜が死刑になる心配はない。
殺人を悪だとしつつ殺人者を殺すことを正義とするのが道理にそぐわないという考えだ。
理不尽に人を殺めると思われがちな沙菜だが、筋を通すことにはこだわりがある。
「真田達也の死については知ってる。お前が受けてたいじめのことも。あの時のことだけなら、俺もここまでは言わねえ。でもな、無関係の人間まで勝手な価値観で殺すのを見過ごせるほど俺の心は広くねえんだよ」
「元より、私は誰かの許しを乞うつもりはありません」
霊槍・朧月を振るい、霊気を放つが、内心、あせりが出始めていた。
真哉と戦った時のように、美男子が相手で手心を加えているのではないのに、敵に傷を与えることができていない。
それどころか、こちらの消耗の方が激しい。
仮に切り札を出すのが同時だったとして、果たして勝てるのか。
沙菜にも死の恐怖はある。こんなところで死にたくはない。
次の策を練っていたところ、思いがけない人物の霊気を感じた。
「珍しく苦戦しているようだな。沙菜」
「白夜兄!」
沙菜の異父兄にして、最強の称号を持つ羅刹・如月白夜だ。
悠然とした佇まいで、彼がそばまで来ていた。
白夜は、沙菜が生まれた頃には旅に出ていて、共に過ごした時間はあまりないが、比類なき力を持つ兄に対して憧憬のような念は抱いている。
父親が違うせいか、沙菜と違って美形なのもポイントだ。
「いいところに来ましたね。ちょうど目の前に強敵がいますよ」
沙菜は、白夜に阿修羅と戦うことを勧める。
白夜の目的は常に、真の強さを追求すること。
戦いは、そのための手段として格好のものだ。
「そうだな。そなたの全力を見るのにちょうど良い機会かもしれぬ」
「あれ……?」
霊京四番街。
沙菜に戦いを挑む冥獄鬼がいた。
「俺は阿修羅。てめえの顔はよく覚えてるぜ」
阿修羅と名乗った冥獄鬼は黒髪の青年の姿をしている。
悪くはない容姿だが、沙菜が手加減するほどでもない。
「前に会ったことがありましたか? それとも獄界から羅仙界の様子を見ていただけですかね」
「会ったことはねえが、てめえを許せるなんて奴はそうそういないぜ。獄界にもな」
「なるほど。罪のない者は殺してはいけないなどという安い正義感に駆られた三下ですか。そういう手合いはたくさんいますよ。羅仙界にも」
「その正義感が安いかどうか、その身を以って知りやがれッ!」
剣を抜いた阿修羅は沙菜と斬り結ぶ。
変化を解いていなくても沙菜の朧月は敵の能力を吸収できる。刃を合わせるのは自殺行為のはずだが。
(霊子吸収が発動しない……。第三霊隊が開発した対抗術式をさらにアレンジしたのか)
冥獄鬼は獄界にいながらも、現世を監視している。
戦前の騎士団が持っていた技術などは流出していて不思議はない。
沙菜は、霊気で腕力を強化して阿修羅の刃を弾く。
「霊槍・朧月」
そして、魂装霊倶の変化を解く。
「煌刃月影弾・守天」
斧槍を大きく振りきって、金色に煌めく霊気の刃を撃ち出した。
これも理を超越する力を持った断劾だ。
「てめえなんぞの断劾が効くかよッ!」
阿修羅は沙菜の断劾を一刀両断にする。
これには沙菜も少々驚かされた。
早々に片付けてしまおうと、もし朝霧大和程度の敵だったなら一撃で倒せる威力で放ったからだ。
「なに驚いてんだ。自分が断劾を使いこなせてるとでも思ってたのか?」
「…………」
沙菜は肯定も否定もせず、冷たく相手を見据えた。
大和よりは格段に強い。
沙菜を憎む姿勢は同じでも、大和のような考えなしではないということか。
「戦いはこっからだぜ!」
再び阿修羅が斬りかかってくる。
沙菜はひとまず後方に跳ぶ。罠を仕掛けて。
「うおッ!」
沙菜が元いた位置で阿修羅は爆風に飲まれた。
「対霊空雷。霊子学研究所の技術にどこまで食い下がれますかね?」
空中に仕掛けられた見えない爆弾を受けても、阿修羅はほとんど傷を負っていなかった。
「堅固ほどじゃないが、俺も頑丈さには自信があってな。こんな小道具でやられはしねえぜ」
今度は剣から神気を飛ばしてくる。
霊子吸収が通じないため、霊戦技を撃って相殺する。
刃をかわし、霊気を撃ち、神気を斬り払い、霊法を放つ。
互いに全力ではないながら、激しい攻防が続いた。
「どうした? 戰戻を使わねえのか?」
「あなたのような三下に見せるほど安いものではありませんよ」
斬り合いをしつつ、挑発の言葉をぶつけ合う。
先に奥の手を出した方が負けると考えているからだ。
「朝霧大和のことは意外と認めてたってことか?」
「あれにはちょっとした理由がありましてね。まあ、儀式みたいなものと思っておいてください」
大和に戰戻を見せたことには、自らと対極の行動理念を持つ存在との決別という意味があった。
戰戻なしでも勝てたし、なんなら大和が全力を出す前に速攻で殺すことも可能だった。
しかし、圧倒的な力で彼を跡形もなく消し去ることで、歪んだ人生を歩むことになった自分をなぐさめたかったのだ。
もう一つの意味については、今、語ることはしない。
「出さねえってんなら、それでもいい。魂装状態のままのてめえをぶっ殺してやるよ!」
すごむ阿修羅に、沙菜は平静を崩さない。
「私の殺人を責めるあなたが『ぶっ殺す』とは、理念に矛盾があるのでは?」
これは沙菜が死刑制度の廃止を望んだ理由でもある。
立場からすれば、どのみち沙菜が死刑になる心配はない。
殺人を悪だとしつつ殺人者を殺すことを正義とするのが道理にそぐわないという考えだ。
理不尽に人を殺めると思われがちな沙菜だが、筋を通すことにはこだわりがある。
「真田達也の死については知ってる。お前が受けてたいじめのことも。あの時のことだけなら、俺もここまでは言わねえ。でもな、無関係の人間まで勝手な価値観で殺すのを見過ごせるほど俺の心は広くねえんだよ」
「元より、私は誰かの許しを乞うつもりはありません」
霊槍・朧月を振るい、霊気を放つが、内心、あせりが出始めていた。
真哉と戦った時のように、美男子が相手で手心を加えているのではないのに、敵に傷を与えることができていない。
それどころか、こちらの消耗の方が激しい。
仮に切り札を出すのが同時だったとして、果たして勝てるのか。
沙菜にも死の恐怖はある。こんなところで死にたくはない。
次の策を練っていたところ、思いがけない人物の霊気を感じた。
「珍しく苦戦しているようだな。沙菜」
「白夜兄!」
沙菜の異父兄にして、最強の称号を持つ羅刹・如月白夜だ。
悠然とした佇まいで、彼がそばまで来ていた。
白夜は、沙菜が生まれた頃には旅に出ていて、共に過ごした時間はあまりないが、比類なき力を持つ兄に対して憧憬のような念は抱いている。
父親が違うせいか、沙菜と違って美形なのもポイントだ。
「いいところに来ましたね。ちょうど目の前に強敵がいますよ」
沙菜は、白夜に阿修羅と戦うことを勧める。
白夜の目的は常に、真の強さを追求すること。
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