羅刹伝 雪華

こうた

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第二十七章-羅刹VS冥獄鬼-

第183話「如月家の者たち」

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 白夜との剣戟の最中、阿修羅の取り出した石が閃光を放つと、彼の神力が急上昇した。
「天理石ですか……」
 沙菜は自身の知るその石の名をつぶやいた。
 天理石――真羅朱姫も家宝として持っていた奇跡を呼ぶ石だ。
 獄界の炎と天界の光が融合して生まれたこの天理石の力を解放したらしい。
「食らえ!」
 阿修羅の剣が白夜の肩を斬り裂く。
 少量ではあるが、血が飛び散った。
成程なるほど。なんの工夫もなしに勝てる相手ではないか」
 阿修羅の力が強まったとはいえ、白夜はそれに合わせることができるはず。にもかかわらず、連続して放たれる阿修羅の攻撃で白夜は傷を負っていった。
 おそらく白夜は、天理石の力を解放する前の阿修羅と同等に調整していた力を引き上げていない。
 力に頼って勝ったのでは満足できないのだろう。
(白夜兄が新しい技か極致霊法辺りを使ってくれるか。これは見ておく価値があるな)
 力を制限していなければ、危険度S級の喰人種を一刀で斬り捨てるのが如月白夜だ。その彼が、何らかの戦術を用いる。
 好奇心をそそられる状況だ。
「はあッ!」
 阿修羅の剣が白夜の腕をかすめる。
 白夜の体さばきは一流のもので、決して鈍いなどということはないが、天理石で強化された阿修羅の速力には追いついていない。
 加えて、攻撃能力も下げたままなので、霊刀・残月の刃が阿修羅に触れても、軽い傷しか与えられていない。
「どういうつもりだ? いつまでも手加減してたら――」
「そろそろ頃合いか」
「――!?」
 阿修羅の剣につたう白夜の血が硬質化していく。
 何が起こるのか、沙菜にも察しがついた。
戦鬼血矢せんきけっし
 血閃だ。
 固まった血の矢が阿修羅の首を貫く。
 のどからあふれた血もまた、白夜の武器と化して阿修羅の五体を蝕む。
 阿修羅が膝を突いたその隙を白夜は見逃さない。
「霊刀・残月」
 白夜が両手で振り下ろした刃によって、阿修羅は両断された。
 力を失った冥獄鬼は細かい光の粒となって散っていく。
 結局、白夜は攻撃能力と防御能力が敵より下でも勝利することができた。
 如月白夜の代名詞とでもいうべき『絶対強度』。それは使い手が最強であることを保証する能力。
 そんな途方もない力を持ちながら、それを使わずとも理の守護者を打ち倒せるのが沙菜の異父兄だった。
「沙菜よ。怪我はないか?」
「別に立派な兄上の演技しなくていいんですよ」
 先ほどの軽口のお返しを受けて苦笑しながら、沙菜は久々に見た白夜の戦いの感想を口にする。
「白夜兄の血閃とは、なかなか貴重なものを見せてもらいましたよ。もちろん王族が滅ぶ前から使えたんですよね?」
「無論だ」
 短く答えた白夜は、屋敷内へと入っていく。
「帰省ですか? 気配からして、今なら父上も母上もいますね」
 無言のまま歩いていく白夜の後についていく沙菜。
 冥獄鬼は他にも何体かいるようだが、それぞれ羅刹の実力者が応戦しているようなので、急いで加勢しに向かう必要はないと考えた。
「斬られたのはあくまで血閃を発動するため。実質的にはダメージを受けていない。やはり白夜兄とまともに戦えるのは雷斗様と久遠様ぐらいか」
 白夜は、雷斗に不意を突かれて敗北した。
 不意打ちという一見卑怯な戦い方こそ、白夜の求めるものの一つだ。

「あら白夜。珍しく帰ってきたのね」
「また腕を上げたようだな。父として誇らしく思うぞ」
 邸内ていないでは、息子と娘の霊気に気付いた両親が迎えてくれた。
 白夜にとっては、久々の対面だ。
 母は、平凡な容姿を補うかのように華美に着飾っている。
 父は、質素な装いながら端正な顔立ちをしている。
 白夜の美形っぷりは父譲りだろう。
 沙菜は実の父を知らないが、平凡な顔は母譲りか。
「父よ、如月財閥の勢力こそ、以前にも増して強まっているのではないか? 街に入ると至るところで如月の名を目にする」
「私はお前たちのように戦うことはできんからな。商売ででも身を立てねば、お前たちを知る者から笑われるというものだ」
 白夜と父は、分野こそ違えど互いにその実力を認め合っている。
「実の母上が家にいるのも珍しいですね。今日はよその男と一緒じゃないんですか?」
「あらあら、沙菜ちゃん。あなたに義理の母上はいないでしょう?」
「まあ、いませんけどね」
 暗に恋人がいないことをバカにしているな。
 この母は、沙菜とそう変わらない見た目に反して、よく夫以外の男性と遊んでいる。
 自分もこのぐらいモテたら、と思わないでもない。
「お母さんだって、いつもよその男性といる訳じゃないのよ? お父さんのことも愛してるんですからね?」
「そいつは結構なことで」
 今度は父の方に目をやる。
「義理の父上。この前、優月さんの母上に、義理の父上の人格者っぷりを教えてきましたよ」
「沙菜は未だに『義理の』をつけるのかい。私はお前を本当の子供だと思っているのだよ?」
「私も義理の父上が本当の父上だと思ってますよ。血のつながりより、義理の有無の方が大切ですからね」
 沙菜がいちいち『義理の』とつけるのは、このような理由からだ。
 逆に『実の』とつけている母はどうでもいいと思っている。
「ところで優月君というのは、人間界から来た子だね。羅刹化する能力に加え、断劾や戰戻も会得しているという……」
「ええ。あの人はすごいですよ。おそらく私よりも才能があります。私の期待に必ずや応えてくれることでしょう」
 悪だくみでもしているかのような笑みを浮かべる沙菜。
「天堂優月か。一度手合わせ願いたいものだ」
 白夜も優月に興味を持ったようだ。
 一時いっとき、如月邸で暮らしていたこともある優月だが、如月家の人々の間で話題になっているなどとは思うまい。
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