ドSな幼馴染の分かりにくい愛情表現

めるてぃ

文字の大きさ
8 / 11

【8話】 家族

しおりを挟む
親父は医者だった。誰よりもずば抜けて頭が良かった。
親父は毎日忙しいからあんまり接点はなかった。
母は俺が生まれてすぐ親父に嫌気が差して、離婚したらしいから顔も知らない。
幼少期の“あの”出来事が起きてから親父は血相を変えて言った。

『お前はあんな頭が悪い奴に惑わされるな』

『頭良い奴と結婚しろ』

『遊ぶ暇があるなら勉強しろ』

幼少期の事ながら、俺はなんとなくその意味を悟っていた。俺に頭が良い奴と結婚させて、俺の子供に夢を託そうとしているんだ、と。結婚は早いに超した事はない、と無理矢理お見合いのような事をして子供を作らせようとする時もあった。思い出せば出すほど吐き気がする。

親父は、始めは志高く、不治の病を治す為、細胞の研究をしていた。でも、今となっては咲の記憶を改竄する事に目的が変わっていった。
元々体が弱い親父は自分が手遅れだと悟ったのか、俺の子供に何としてでも託そうと張り付くように模索し始めたのだ。そんなの無理だって、分かってはいても、現在は細胞の研究がどんどん進んできている。親父なら作ってしまうかもしれないと、毎日恐怖で仕方がなかった。

睡眠も食事も取らず作業をしているものだから、親父はついに寝込んだ。その直前に作り上げたのが、今の咲に使われている、一部の細胞を麻痺させる液体。液体だから直接体に取り込まなければ害はないだろうと思っていた。実際その家にいる俺には何の変化も起きなかったから。でもその考えが甘かった。親父はそこも計算していた。

親父が寝込んだって知って咲とその一家は見舞いに来てくれたんだ。交流自体は少なくとも、俺と咲が仲良かったから。それに俺は実質一人の様なものだから心配で来たんだろう。親父が寝込んだ時はこれを期にあの液体を何処かへ隠そうと思って隠していた。だから安心していたのに。

咲が部屋に来た途端、瓶を投げて液体ごとぶちまけた。そんな気力が一体どこに…それに隠し場所があんな簡単にバレるなんて思いもしなかった。中身を捨てたら危険かもしれねーし無闇に中身を出す事は出来なかった。いや…咲の為ならそのくらいの危険を冒すべきだった。後々調べてみると、効果としては10年くらい続くらしい。5歳の頃だったから15歳の今。

もうそろそろ効果は切れる。だが、切れたとしてあいつは思い出せないだろう。まず、何もしなくとも、記憶は時間が経つにつれ薄れていく。だから、俺との記憶も自然消滅してやがて違和感すらなくなるだろう。

今まで少しでも記憶の隅に留めさせたくて、トラウマ紛いの事を植え付けさせたが…。結局は自己満足でしかない。最後まではまだしないしする気もないけどヤったという既成事実があれば親父も諦めるだろうという思惑で。でもその当の本人は数年前に他界したから今更わざわざする必要なんてなかった。
ただアイツを見たら…。

─────

はぁ、頭が痛い。ズキズキする頭を抱えながら学校へと向かった。あれから記憶を掘り出そうと頑張って頭を使ったんだけど結局、体を触られたくらいの事しか思い出せなかった。あんな…

『気持ち良くしてやった』

なんて、横暴な!本当ばか!あれを思い出したくないのは勿論…。もっと他の、大事な事を思い出したい。一昨日の事だし快人に聞けば分かるけど、言ったら『なんで覚えてないの?バカなの?アホなの?デートだよ?』とか言われそう…うわ、絶対言うじゃん…。あれこれ考えているとHRが始まった。

「えー、もうすぐ体育祭があるので徒競走の練習をしようと思います」

あぁ、もうすぐ体育祭か…、すっかり忘れてた。でも今日は頭痛いし見学しようかな。

「け、見学って…咲ちゃん大丈夫!?」

「水分や糖分が足りてない可能性がある…」

と、凛ちゃん、須藤君が心配してくれる。氷や、塩飴、お茶、タオルなど沢山貸してくれた。頭痛なだけだし皆大袈裟だよ。そんな気遣いが嬉しくてつい微笑んでしまう。 

「ありがとう。少し頭痛いだけだから大丈夫だよ」

心配してくれる友達がいるって…こういう事なんだな、と胸が熱くなる。

「岬さん!大丈夫?見学って珍しいね」

「宮原君!ありがと、少し頭痛いだけだから大丈…」

さっきと同じように返そうと思ったら、急に宮原君のおでこが私のおでこに触れた。

「○%×$☆♭#▲!※!?!?」

遠目から見ていた女子達含め、
声にならない叫びをあげていると

「熱はないみたいだね。この時期でも熱中症になる事があるから気を付けてね。何かあったらすぐ駆けつけるから!」

そう言うと足早に去っていった。距離、近かった…暫くボーッとして熱を冷まそうとしていると、先程宮原君に熱烈な視線を向けていた…宮原君推しの女子達が押し寄せてきた。

「宮原君は皆に優しいんだから勘違いしないでよね」

「抜けがけは許さないから」

「仮病だったり?なら、道具運びやらせちゃいましょ!」

さっさか女子達で話しあって何を納得したのか私に大量のカゴを押し付けてきた。多分、ビブスとかバトンとか体育祭の準備に使う物だろう。
頼まれたからにはやるしかない。多少の痛みは我慢しなくちゃ。運動場の端っこで指定に沿った場所に並べていく。日差しは結構キツイ。日焼け止めは塗ったんだけどあまり意味がなさそう。

すると、コースで走っている人の影が。沢山の声援に励まされながら走るのは快人。
やっぱり、足速いなぁ。練習だろうが手抜きしないのが快人。1位でゴールした後、女子達にタオルや飲み物を渡されてニコニコしている。あれが愛想笑いだと分かってても苦しい。

…あれ、苦しいって何?都合が良いしむしろ嬉しいはずなのに…すると、突如激しい頭痛が私を襲う。耐えられなくてついその場で倒れてしまった。
意識が朦朧とする中、最後に聞こえたのは「大丈夫か!?」って心配する快人の声だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

田舎に帰ったら従妹が驚くほど積極的になってた話

神谷 愛
恋愛
 久しぶりに帰った田舎には暫くあっていない従妹がいるはずだった。数年ぶりに帰るとそこにいたのは驚くほど可愛く、そして積極的に成長した従妹の姿だった。昔の従妹では考えられないほどの色気で迫ってくる従妹との数日の話。 二話毎六話完結。だいたい10時か22時更新、たぶん。

処理中です...