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【8話】 家族
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親父は医者だった。誰よりもずば抜けて頭が良かった。
親父は毎日忙しいからあんまり接点はなかった。
母は俺が生まれてすぐ親父に嫌気が差して、離婚したらしいから顔も知らない。
幼少期の“あの”出来事が起きてから親父は血相を変えて言った。
『お前はあんな頭が悪い奴に惑わされるな』
『頭良い奴と結婚しろ』
『遊ぶ暇があるなら勉強しろ』
幼少期の事ながら、俺はなんとなくその意味を悟っていた。俺に頭が良い奴と結婚させて、俺の子供に夢を託そうとしているんだ、と。結婚は早いに超した事はない、と無理矢理お見合いのような事をして子供を作らせようとする時もあった。思い出せば出すほど吐き気がする。
親父は、始めは志高く、不治の病を治す為、細胞の研究をしていた。でも、今となっては咲の記憶を改竄する事に目的が変わっていった。
元々体が弱い親父は自分が手遅れだと悟ったのか、俺の子供に何としてでも託そうと張り付くように模索し始めたのだ。そんなの無理だって、分かってはいても、現在は細胞の研究がどんどん進んできている。親父なら作ってしまうかもしれないと、毎日恐怖で仕方がなかった。
睡眠も食事も取らず作業をしているものだから、親父はついに寝込んだ。その直前に作り上げたのが、今の咲に使われている、一部の細胞を麻痺させる液体。液体だから直接体に取り込まなければ害はないだろうと思っていた。実際その家にいる俺には何の変化も起きなかったから。でもその考えが甘かった。親父はそこも計算していた。
親父が寝込んだって知って咲とその一家は見舞いに来てくれたんだ。交流自体は少なくとも、俺と咲が仲良かったから。それに俺は実質一人の様なものだから心配で来たんだろう。親父が寝込んだ時はこれを期にあの液体を何処かへ隠そうと思って隠していた。だから安心していたのに。
咲が部屋に来た途端、瓶を投げて液体ごとぶちまけた。そんな気力が一体どこに…それに隠し場所があんな簡単にバレるなんて思いもしなかった。中身を捨てたら危険かもしれねーし無闇に中身を出す事は出来なかった。いや…咲の為ならそのくらいの危険を冒すべきだった。後々調べてみると、効果としては10年くらい続くらしい。5歳の頃だったから15歳の今。
もうそろそろ効果は切れる。だが、切れたとしてあいつは思い出せないだろう。まず、何もしなくとも、記憶は時間が経つにつれ薄れていく。だから、俺との記憶も自然消滅してやがて違和感すらなくなるだろう。
今まで少しでも記憶の隅に留めさせたくて、トラウマ紛いの事を植え付けさせたが…。結局は自己満足でしかない。最後まではまだしないしする気もないけどヤったという既成事実があれば親父も諦めるだろうという思惑で。でもその当の本人は数年前に他界したから今更わざわざする必要なんてなかった。
ただアイツを見たら…。
─────
はぁ、頭が痛い。ズキズキする頭を抱えながら学校へと向かった。あれから記憶を掘り出そうと頑張って頭を使ったんだけど結局、体を触られたくらいの事しか思い出せなかった。あんな…
『気持ち良くしてやった』
なんて、横暴な!本当ばか!あれを思い出したくないのは勿論…。もっと他の、大事な事を思い出したい。一昨日の事だし快人に聞けば分かるけど、言ったら『なんで覚えてないの?バカなの?アホなの?デートだよ?』とか言われそう…うわ、絶対言うじゃん…。あれこれ考えているとHRが始まった。
「えー、もうすぐ体育祭があるので徒競走の練習をしようと思います」
あぁ、もうすぐ体育祭か…、すっかり忘れてた。でも今日は頭痛いし見学しようかな。
「け、見学って…咲ちゃん大丈夫!?」
「水分や糖分が足りてない可能性がある…」
と、凛ちゃん、須藤君が心配してくれる。氷や、塩飴、お茶、タオルなど沢山貸してくれた。頭痛なだけだし皆大袈裟だよ。そんな気遣いが嬉しくてつい微笑んでしまう。
「ありがとう。少し頭痛いだけだから大丈夫だよ」
心配してくれる友達がいるって…こういう事なんだな、と胸が熱くなる。
「岬さん!大丈夫?見学って珍しいね」
「宮原君!ありがと、少し頭痛いだけだから大丈…」
さっきと同じように返そうと思ったら、急に宮原君のおでこが私のおでこに触れた。
「○%×$☆♭#▲!※!?!?」
遠目から見ていた女子達含め、
声にならない叫びをあげていると
「熱はないみたいだね。この時期でも熱中症になる事があるから気を付けてね。何かあったらすぐ駆けつけるから!」
そう言うと足早に去っていった。距離、近かった…暫くボーッとして熱を冷まそうとしていると、先程宮原君に熱烈な視線を向けていた…宮原君推しの女子達が押し寄せてきた。
「宮原君は皆に優しいんだから勘違いしないでよね」
「抜けがけは許さないから」
「仮病だったり?なら、道具運びやらせちゃいましょ!」
さっさか女子達で話しあって何を納得したのか私に大量のカゴを押し付けてきた。多分、ビブスとかバトンとか体育祭の準備に使う物だろう。
頼まれたからにはやるしかない。多少の痛みは我慢しなくちゃ。運動場の端っこで指定に沿った場所に並べていく。日差しは結構キツイ。日焼け止めは塗ったんだけどあまり意味がなさそう。
すると、コースで走っている人の影が。沢山の声援に励まされながら走るのは快人。
やっぱり、足速いなぁ。練習だろうが手抜きしないのが快人。1位でゴールした後、女子達にタオルや飲み物を渡されてニコニコしている。あれが愛想笑いだと分かってても苦しい。
…あれ、苦しいって何?都合が良いしむしろ嬉しいはずなのに…すると、突如激しい頭痛が私を襲う。耐えられなくてついその場で倒れてしまった。
意識が朦朧とする中、最後に聞こえたのは「大丈夫か!?」って心配する快人の声だった。
親父は毎日忙しいからあんまり接点はなかった。
母は俺が生まれてすぐ親父に嫌気が差して、離婚したらしいから顔も知らない。
幼少期の“あの”出来事が起きてから親父は血相を変えて言った。
『お前はあんな頭が悪い奴に惑わされるな』
『頭良い奴と結婚しろ』
『遊ぶ暇があるなら勉強しろ』
幼少期の事ながら、俺はなんとなくその意味を悟っていた。俺に頭が良い奴と結婚させて、俺の子供に夢を託そうとしているんだ、と。結婚は早いに超した事はない、と無理矢理お見合いのような事をして子供を作らせようとする時もあった。思い出せば出すほど吐き気がする。
親父は、始めは志高く、不治の病を治す為、細胞の研究をしていた。でも、今となっては咲の記憶を改竄する事に目的が変わっていった。
元々体が弱い親父は自分が手遅れだと悟ったのか、俺の子供に何としてでも託そうと張り付くように模索し始めたのだ。そんなの無理だって、分かってはいても、現在は細胞の研究がどんどん進んできている。親父なら作ってしまうかもしれないと、毎日恐怖で仕方がなかった。
睡眠も食事も取らず作業をしているものだから、親父はついに寝込んだ。その直前に作り上げたのが、今の咲に使われている、一部の細胞を麻痺させる液体。液体だから直接体に取り込まなければ害はないだろうと思っていた。実際その家にいる俺には何の変化も起きなかったから。でもその考えが甘かった。親父はそこも計算していた。
親父が寝込んだって知って咲とその一家は見舞いに来てくれたんだ。交流自体は少なくとも、俺と咲が仲良かったから。それに俺は実質一人の様なものだから心配で来たんだろう。親父が寝込んだ時はこれを期にあの液体を何処かへ隠そうと思って隠していた。だから安心していたのに。
咲が部屋に来た途端、瓶を投げて液体ごとぶちまけた。そんな気力が一体どこに…それに隠し場所があんな簡単にバレるなんて思いもしなかった。中身を捨てたら危険かもしれねーし無闇に中身を出す事は出来なかった。いや…咲の為ならそのくらいの危険を冒すべきだった。後々調べてみると、効果としては10年くらい続くらしい。5歳の頃だったから15歳の今。
もうそろそろ効果は切れる。だが、切れたとしてあいつは思い出せないだろう。まず、何もしなくとも、記憶は時間が経つにつれ薄れていく。だから、俺との記憶も自然消滅してやがて違和感すらなくなるだろう。
今まで少しでも記憶の隅に留めさせたくて、トラウマ紛いの事を植え付けさせたが…。結局は自己満足でしかない。最後まではまだしないしする気もないけどヤったという既成事実があれば親父も諦めるだろうという思惑で。でもその当の本人は数年前に他界したから今更わざわざする必要なんてなかった。
ただアイツを見たら…。
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はぁ、頭が痛い。ズキズキする頭を抱えながら学校へと向かった。あれから記憶を掘り出そうと頑張って頭を使ったんだけど結局、体を触られたくらいの事しか思い出せなかった。あんな…
『気持ち良くしてやった』
なんて、横暴な!本当ばか!あれを思い出したくないのは勿論…。もっと他の、大事な事を思い出したい。一昨日の事だし快人に聞けば分かるけど、言ったら『なんで覚えてないの?バカなの?アホなの?デートだよ?』とか言われそう…うわ、絶対言うじゃん…。あれこれ考えているとHRが始まった。
「えー、もうすぐ体育祭があるので徒競走の練習をしようと思います」
あぁ、もうすぐ体育祭か…、すっかり忘れてた。でも今日は頭痛いし見学しようかな。
「け、見学って…咲ちゃん大丈夫!?」
「水分や糖分が足りてない可能性がある…」
と、凛ちゃん、須藤君が心配してくれる。氷や、塩飴、お茶、タオルなど沢山貸してくれた。頭痛なだけだし皆大袈裟だよ。そんな気遣いが嬉しくてつい微笑んでしまう。
「ありがとう。少し頭痛いだけだから大丈夫だよ」
心配してくれる友達がいるって…こういう事なんだな、と胸が熱くなる。
「岬さん!大丈夫?見学って珍しいね」
「宮原君!ありがと、少し頭痛いだけだから大丈…」
さっきと同じように返そうと思ったら、急に宮原君のおでこが私のおでこに触れた。
「○%×$☆♭#▲!※!?!?」
遠目から見ていた女子達含め、
声にならない叫びをあげていると
「熱はないみたいだね。この時期でも熱中症になる事があるから気を付けてね。何かあったらすぐ駆けつけるから!」
そう言うと足早に去っていった。距離、近かった…暫くボーッとして熱を冷まそうとしていると、先程宮原君に熱烈な視線を向けていた…宮原君推しの女子達が押し寄せてきた。
「宮原君は皆に優しいんだから勘違いしないでよね」
「抜けがけは許さないから」
「仮病だったり?なら、道具運びやらせちゃいましょ!」
さっさか女子達で話しあって何を納得したのか私に大量のカゴを押し付けてきた。多分、ビブスとかバトンとか体育祭の準備に使う物だろう。
頼まれたからにはやるしかない。多少の痛みは我慢しなくちゃ。運動場の端っこで指定に沿った場所に並べていく。日差しは結構キツイ。日焼け止めは塗ったんだけどあまり意味がなさそう。
すると、コースで走っている人の影が。沢山の声援に励まされながら走るのは快人。
やっぱり、足速いなぁ。練習だろうが手抜きしないのが快人。1位でゴールした後、女子達にタオルや飲み物を渡されてニコニコしている。あれが愛想笑いだと分かってても苦しい。
…あれ、苦しいって何?都合が良いしむしろ嬉しいはずなのに…すると、突如激しい頭痛が私を襲う。耐えられなくてついその場で倒れてしまった。
意識が朦朧とする中、最後に聞こえたのは「大丈夫か!?」って心配する快人の声だった。
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