異世界召喚闘争記~俺とビキニと七つの剣王~

うえじ

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第一章

第一節 始まりはどん底から④

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 張りつめた空気がビキニの肌を指す。
 こんなはずではなかったと、目の前に立つ男を見つめながら後悔と自責の念に思考が冷めていくのがわかる。
「私としたことが、なんたる無様さか……」
 ギリ、と歯がなる。つい先刻あったばかりで、それにも関わらず戦禍に巻き込み、そしてきちんと準備も説明もままならないままに自分の尻拭いまでさせてしまっている。
 不甲斐なさに手が震えて止まらない。私がしっかりしなければならないのに。
 何かあればすぐにでも助太刀するつもりで、一狼に視線を向ける。
 いくら異世界で強者に分類されるとしても、加護も魔法もなく本当に身一つで上級騎士に相対すなど、自殺行為と称して差し支えない。
「イチロー……」
 小さく、囁くようにに言告げる。
「何でも言うことを聞こう。与えられるものは全て与えよう。だから……だから、必ず生き延びてくれ……」
「そこは勝ってくれって言うとこだぜビキニ?」
 そういうとニカッと笑みを見せる。呆気に取られるビキニをよそに、一狼は戦場に赴く前に指揮の上がる高揚感を覚えた。
(んなセリフ言われちゃ余計にやる気が出るってもんだぜ。そう……俺の好きなラノベのヒロインのセリフを言われちゃあな!)

 視線がぶつかる。相手と自分のでかたをうかがうかのように、視線で間合いを定め仮想の鍔迫り合いをするかのように、徐々に殺意の濃度が濃密に煮詰まっていく。
 
 火蓋を切ったのは、ビキニの最後の叫びだあった。
「イチロー最後だ。上級騎士はそれぞれが専用の武装、そして『複数の』加護を持っている……!」
 だから気を付けろ……と言い終わるより先に両者は動き出した。


 アスピスは遠距離よりまたあの『伸びる斬撃』を放つ。自尊心と虚栄心の塊のような人間だ。自信の破れた技をむざむざ捨てることはしないはず…………そう、一狼は判断していた。
 そのまま同じ攻撃をするとはさすがに思ってはいなかったが、『斬撃の操作』『追尾する斬撃』『空間を曲げて直接任意の空間に斬撃を下す』『一振りで数発の斬撃生成』などは少なからず想定していた。
 そう、あくまで『相手の射程圏外からの攻撃力』の想定である。

 まず、それが仇となった。

 一狼が一歩目を踏み抜いた瞬間には、目の前に既に頭上より大きく剣を振りかぶるアスピスがいた。
「ッッッ!」
 振り抜く一撃を眼前に、紙一重でかわす。前髪が数本きれいに切れる。
 かわすことに全力を注いだために体制が崩れた。そこに間髪を入れず無数の斬撃が襲いかかる。その速度は鎧を着けた状態からは考えられない速度であり、空気抵抗すら受けてうないかのように見える。
 そう、まるで装備の重量をはなからなくしているように。
(ぐ……は、や、い、ぜ!)
 初撃が右腕にかすり、二撃目は袈裟型に浅くもらう。そこで体制を無理矢理にも直し、三、四、五と絶え間なくくる斬撃の応酬を紙一重で避けていく。
 その異常な斬撃のラッシュは今まで戦ってきた人間からは受けたことがなかった。受けることなどまずあり得ない、そのレベルで常識はずれなまでに早かった。
 避ける度に汗が吹き出る。よくこの一撃をよけられたと、一振り一振りをかわす都度その僥倖に歯を噛み締めた。
(ちっ、やっば情報なしじゃ後手に回るな……!)
 アスピスはビキニのような滑るような動きではなく、純粋に装備と武器の重量を無くした上で基礎筋力を極限まで上げたような動きをしていた。これも確かに十分初見殺しではある。
 そう。アスピスの部下が取り囲む際にその一端を見せなければ、今の勝負は完全に初撃で終わっていた。
 フィジカルの差が愕然と出る状況下に自身の圧倒的不利を静かに考える。どうすればこの状況で好転できるか……と。

(まさかあれだけで対処できるとは……やはりこのガキは侮ることのできない分類の人間……)
 アスピスはその言動、態度とは裏腹に一狼の脅威度を高いレベルで判断していた。
「残念だったな、騎士とは尊大と同時に賢慮でもある。相手をなめてかかるなど三流のすることと知れ!」
 その言葉は恐れの表れだと、内心で言い聞かせるように苦言する。
 確実に一撃で沈めるはずだった奇襲を紙一重で避けられた。そう、『二度目は通用しない』と。あの男はそう言っていた。
(よもや天馬の加護を安易に見せるべきではなかったか……)
 あの動きを見ただけであの初撃をかわせたことにただならぬ悪寒を感じる。
 否、悪寒は現在進行形で感じ続けている。
 その動きをもって、時に相手の死角をうち、時に相手の動きの隙をつく。一撃一撃を必殺として振り抜いているにも関わらず、紙一重で奴はよてけていく。それだけでも驚愕に値する身体能力だ。
 しかし、本当に恐ろしいのは……
(こ奴……『敢えて』紙一重でかわしている……!)
 振り切る刃が鼻先を撫ぜるほどの僅差で奴は避ける。
 体制を崩しても大きく距離を取るのではなく、逆に距離を詰め、間合いを潰しにくる。
 死を恐れぬのでも、理性が麻痺しているのでもない。奴の顔は一撃毎に恐れ、追い詰められた空気をまとっている。

 故に底が見えない。
 ここまで絶望的に不利な状況下で奴は決して心が折れず、さらにあえて危険な戦闘方法を選んでいる。
 まだ少年と言って差し支えない年齢だろう。どれだけの経験を積めば、ここまでの境地に達するのか……
(よくもこのような狂った戦いかたが出来るものだ……)
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