異世界召喚闘争記~俺とビキニと七つの剣王~

うえじ

文字の大きさ
15 / 16
第一章

第三節 奪還の対価は代償と共に1

しおりを挟む
 山中、道なき道を男二人がかけ上る。
 舗装されていない山肌は非常に不安定であり、土から溢れる石に木の根、断層に巨岩とまともに通るのも難しい悪路ばかりであった。
「ほっよっとっ!」
 そんな道を目にもかけず一狼は登り続ける。傍らにはアスピスもついているが、その胸中は穏やかなものではなかった。
(虫けらめ……山猿の類いでもこの悪路はここまでのスピードで走破できんぞ?私ですら最低限の身体補助の加護をつけ、脚部と腰回り以外の装備をはずさなければついていけん……)
 ある意味では冷や汗にも似た発汗であった。
(エリス様から体調を全回してもらったとはいえ、加護なしでこのポテンシャルを保てるとは……やはり侮れん……)

「……でよー」
「なんだ?」
 そこで話を切り出したのは一狼。疲労など感じさせない様子で語りかけてくる。
「エリス様が言ってたけどよ、色々聞きたいことがあんだよ」
「……ふん、すでにここは奴等の縄張りだ。油断しない程度であれば話してやる。だが時間もない、補足などは受け付けんぞ」
「いいぜ別に。脳内補完すっから。ほら、はよ!」
「ちっ。まぁいい。まずビキニ様を拘束したふとどきな連中に関してだ」
 そういうと、アスピスの雰囲気もより厳格なものに変わった。それほどまでにその嫌悪感とは裏腹に危険な集団らしい。

「『逆剥』……それが今から向かう集団の組織名だ」
 いうと、静かにその特徴を伝える。
「逆剥とはもともと、ザルツバーク西方の隣国『ヨモツマガハラ』に存在した暗殺集団だ」
(うお、いきなり日本ぽい地名……)
「奴らはもともとはある邪神を崇拝している邪教集団だった。その教義は正常な人間であればまず嫌悪する類いのものであり、それに連なり敵対する者を秘密裏に始末する術を修めていった」
「なるほどな。国のなくなった今、やつらにとって王剣ってのを手に入れる絶好のチャンスってわけだ」
 相づちをうちながらも話から内心で疑問点をあげていく。
「そうだ。しかしこの国の王剣の性質上国内にはこれまではそういった反乱分子や危険な存在は存在できなかった。それもあり、外部からの侵入が可能となった四日前より、外部からの侵攻も多々あったのだ」
(四日前か……)
 本当に、国を失って息つく暇もないままの強行だったのだと。改めてビキニのことを思い返し、自然と奥歯を噛み締めていることに気づいた。
「……今王剣ってのをめぐって戦争してるってのはなんとなく察したけどよ、この国を破ったのがテメーんとこの国で、それで制圧の最中にその逆剥ってのに遭遇したってところか?」
「『形式上』はそうだ」
「……なに?」
「正確にはザルツバークの国王が何者かによって殺害された。その詳細や意図は不明であるが、親交もあり隣国でもある我がヘルグニカがいち早く察知し、支配したという形を取ったのだ」
 その一文だけで今がいかに複雑な状況かさとる。
「いいか、ザルツバークの王剣ミスティルペインは守護を司る剣。その剣能がなくなったことを運よく定期巡回していた我が軍の偵察部隊が発見したからこの状況ですんでいるのだ」
 アスピスはただ語り続ける。その言葉が出合った当初から段々と棘の抜けた様相に変化していくのを気づきもせず。
「そして急遽我がヘルグニカから大隊を半数だし統治を始めたのだ……」
「ってこたぁ俺らが来たときに居合わせたのも……」
「ふん、ヘルグニカの騎士が山賊の真似事などするものかよ。ただ、ビキニ様だけは運が悪すぎたのだ……」
「……」
「ビキニ様は先代の王が討ち取られた際北方にある魔術師の工房にいた。奇しくも戦争が激化し始めていた為、異世界への転移術式の研究を進めるためだ」
 そこでどうしても引っ掛かる点があった。ビキニはなぜ親好のあったヘルグニカに敵意を滲ませているのか、そして自分の世界へきた経緯である。
「ここからは我々でも詳しくはわからんが、事実だけを述べるとだな」
 そういうと、固い口から漏れ出すように真実が流れ出す。

「ビキニ様はヘルグニカが、ザルツバーク国王ティーバック・ザルツバーク・ローゼスペインを討ち取ったと知らされたようだ」
「……」
 やはりというか、国王の名前に突っ込みたい気持ちは場の空気に押し潰された。
 しかし、初めてビキニと会ったときのことを思い返すと全てが繋がっていく。

「貴様らと会う前に届いた最後のの報告では、ビキニ様を飛ばした術式は国王が殺害された当日に発動したらしいが不完全であったようだ」
(俺があいつに会ったときのはそんな三日も四日もいたような感じじゃなかった……時間のラグでもあるのか……?) 

「そして、魔術師の工房は破壊されていた。数人の魔術師の死体と共に」
「…………」
 胸焼けがした。アスピスの話す内容も半分は理解したが、如何せん予備知識もなければ状況も戦況もあらゆる情報が不足している。全体を把握などできるわけがなかった。
 しかし分かったことはある。核心をついているという不思議な自負が。

「なるほどな。つまりビキニはその逆剥って集団に踊らされたってことか」
「……ほう、虫らしい実に浅はかで単純な解答だな。しかし間違ってはいない」

「いいか虫ケラ、貴様の空っぽのオツムでもわかるようにいってやる」
 アスピスの皮肉は抜き去る木々を越えていく。
「ビキニ様は王剣の鍵と言ったが、その名の通り王剣を顕現させられるのはビキニ様ただ一人だけだ」
「ああ、つまり理由は知らねえが逆剥もそいつが狙いってことだろ?」
 さすがにここまでくれば嫌でもわかる。いや、それ事態はかなり前からわかっていた。その上で、確信に変わったこと、それは。
「あいつは王剣の為の生贄に過ぎないってか。胸糞じゃぁねぇかよ」
 話を聞いただけで一狼は逆剥という組織の性質を看破した。それは自分のいた世界……盾浜でも似たような事件、組織が多様にあったからだ。
「ふん、理解したか虫ケラ。だがそれなら余計に気を付けることだな。奴等には戦場に立つ上での矜持というものがない。死にたくなければ、あやつらを人と思わないことだな」
「あぁわかってるよ…………なあ!逆剥さんよお!!!」
 一狼は走りながら叫んだ。山の隅々まで響き渡る怒声にアスピスは一瞬、自分の周囲に人形の影が無数並走していることに気づいた。
「な……いつの間に……!?」
 なぜ気づかなかったのか?
 見れば黒衣に身を包んだ人間が十数人。自分達の周囲十メートル圏内に音もなく並んでいる。
「……………………」
 一狼の恫喝に一切反応はしない。しかし静かに、外套からナイフを取り出し始めた。
「へぇ、こりゃ思ってた以上に律儀さんじゃねぇか?」
 一狼もそこでようやく足を止めた。アスピスもそこで剣を構え応じる。
「道間違えてないか不安だったんだよ。お出迎えまでしてくれるなんてなぁ。いいやつらじゃねぇか」
 チンピラの前口上もほどほどに、そこで外套の一団は円を縮める。
「虫ケラ、油断などするなよ」
「ふん、余裕を持たねえと、このての輩は漬け込んでくるものなんだよ。まぁデモンストレーションにゃあちょうどいいだろう。かかってこいや外道ども。生まれたこと後悔するくらいにはボコらせていただくぜ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...