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学園編
6.出会い?
しおりを挟む「やば~い超可愛い!噂の英雄ちゃんってこんなに可愛い天使ちゃんだったんだ~!」
信じられないと思うけれど、今のセリフは威厳ある学園長さんが発したものである。
ここは広い校舎の最上階に位置する学園長室。
ローダに案内されてそこに辿り着いた時、僕はとっても緊張して心臓がバクバクしていた。
けれど、その緊張感は入室してすぐに散り散りになった。
なぜなら、他でもない学園長さんがお堅い空気を一瞬で塵にしたからだ。
見た目は美麗なお貴族様といった印象の学園長さん。
チョコのような美味しそうなブラウンの長髪は、緩い三つ編みで肩に流されている。
明るい橙色の瞳は、まるで太陽みたいに煌いて見えた。
この人が学園長……でも、なんだか予想とだいぶ違う人物のようだけれど。
「ていうか、えぇ?14歳って聞いてたけど、ほんとぉ?あの有名な双子の弟だって聞いてたから、どんな怪物が来るかソワソワしてたのにぃ」
か、怪物……?
有名な双子というのは、言わずもがな兄様達のことだろう。
兄様達、卒業後も学園で語り継がれるくらい有名だったのかな。まぁでも、あの二人のことだから伝説の一つや二つくらいサラッと残していそうだけれど。
なんて、半ば現実逃避みたいに巡らせていた思考を中断する。
僕は改めて、向かいに座るこの学園の最高権力者をジッと見据えた。
「あ、あの……えっと、このたびは、特別入学を許可してくださり……」
「あぁ~いい、いい!そういう堅苦しいのナシにしよ!あ、ほら!お菓子食べる?マカロンとか、マドレーヌとかもあるよ!」
「むっ、マドレーヌ……そ、それじゃ、えへへ、えんりょなく……」
マカロンにマドレーヌだって?
せっかく用意してもらったんだから、食べない方が失礼だよね。
別に甘いものへの欲望に耐えられなくて食べるわけじゃないよ?あくまで、お出しされたものはしっかり食べなきゃって、マナーの話だからね。うむ。
「もぐもぐ。むぅ、うまし」
「うわ、すご。マジで可愛い。あの冷徹な公爵が親バカになって溺愛するわけだ」
お皿いっぱいのマカロンとマドレーヌを瞬く間に完食する。
しまった……まだ本題が始まってすらいないのに、来客用のお菓子を全て食べ尽くしてしまった……。
いくらお出しされたお菓子を食べないのは失礼だからって、逆に秒速で全部食べ尽くしてしまうのもどうなのか。
またポカやっちゃった……としょんぼりしていると、僕がもぐもぐする様子をジッと眺めていた学園長さんがふと改まった様子で姿勢を正した。
「おっといけない。このままだと永遠に英雄ちゃんを観察していたくなっちゃうね。とりあえず、話を進めるためにも軽く自己紹介でもしようか」
自己紹介、という言葉が聞こえてハッとする。
ササッと座り直すと、学園長さんは甘い美貌を柔く緩めて切り出した。
「改めて、私はアルス・アルカナ。この学園の学園長をしているよ。まぁ、アルちゃんでもアルアルでも好きに呼んでね。君のことはフェリちゃんって呼ぶから、よろしく!」
フェ、フェリちゃん……?
なんだか親戚のおじさんみたいな距離感だ。学園長と生徒の関係なのに。
「よ、よろしくおねがいします。えっと、アル先生」
「アル先生?あはっ!か~わい~!それいいね、気に入った!」
グッ!と親指を立てるアル先生に苦笑する。
なんというか……ものすごく変わり者だ。いや、ハンス先生やオーレリア兄様の反応から変わった人だってことは予想していたけど。
だとしても、実際のこの人は想定を遥かに凌駕するレベルの変わり者だ。
「……悪い、フェリアル。以前の学園長は平凡で話の通じやすい人間だったようだが、何を血迷ったのか後釜にこんな変人が選ばれてしまったらしい」
アル先生の纏う空気に圧倒されていると、無言で隣に座っていたローダが見兼ねたのか眉尻を下げてそう語った。
以前の学園長、後釜。
なんだか気になる言葉だ、と首を傾げる。そんな僕を見て、アル先生が「おや」と目を丸くした。
「フェリちゃんは知らないのか。例の災厄で、学園は邪神マーテルに陥れられて膨大な被害を被ったからね。前学園長はその責任を負って辞職したんだ」
なるほど。確かにほぼ全てが貴族である生徒達を守れなかったのだから、学園の責任者である前学園長が無事に済むわけもなかったのか。
だからって、見るからに学園長って印象ではないアル先生が選ばれた理由はよくわからないけれど……。
でも事実として彼は学園長という重要な地位に選ばれた。こういう表面をしているけれど、きっとこの人も相当の実力者なのだろう。
「正直めっちゃ面倒くさかったんだけどね~。まぁでも前代の尻拭いしたおかげでフェリちゃんに会えたわけだし結果オーライだよ~」
なんだかこの人の話し方を聞いていると、もうとっくに薄れたはずの前世の記憶がちょっぴりだけ蘇ってきそうだ。
なんといったっけ。あれは、そう、『ぎゃる』なるものの気配を感じる……。
「……学園長、さっさと本題を話してください」
アル先生の軽快な語りに飽きたのか、ふとローダが吐き捨てるようにそう言った。
仮にも学園長を相手にその態度は……と思ったけれど、アル先生は特に気にしていない様子で答えた。本当に権力者らしくない人だ。
「おっとそうだったね。いやぁフェリちゃんって見るからに可愛いから、堅い話より世間話してたくなるよ~。ねっ、フェリちゃん!」
「へっ!は、はい!いっぱいおしゃべりしたいです!」
「んん~かわいいっ。食べちゃいたいっ」
食べちゃいたい……??
謎のセリフに首を傾げる。
どういうことだろう、僕を食べても別においしくないと思うけれど……。なんだか『ぎゃる』に加えてシモンの面影も感じてきた気がする。
……そういえば、シモン元気かな。
今朝別れたばかりなのに、もうずっと顔を合わせていないような気分だ。
僕がこんななのだから、シモンが今どうなっているか考えるのも怖い。
芋虫みたいに丸まってしくしく泣いていたらどうしよう……シモンなら全然ありえる……。
「うーんそれじゃあ名残惜しいけど、フェリちゃんも疲れてるだろうしこの辺で解散にしようか。ほんとはもっとお喋りしたいけど!」
ぷくっと頬を膨らませながら言うアル先生に小さく笑みが零れる。
不貞腐れた様子で組んだ片足をぷらぷら揺らしていたアル先生だったけれど、ふと何かを思い出したように「あ!」と声を上げた。
「そうだ、忘れてた。今日ね、フェリちゃんの他にも新しく学園に来た人がいるんだ~。なんかフェリちゃんに会いたいって騒いでたから、入れてもいいかな?」
「僕に……?はい!もちろんです!」
僕の他にも途中入学の生徒さんがいるのかな……?
でも、僕に会いたいと言っているのはどうしてだろう。
「そろそろ来ると思うんだけど……」とアル先生が入り口に視線を向けた時、ちょうど扉がノックされた。
「あ、きたきた。入っていいよ~」
アル先生のものすごく軽い感じの応対の直後、ゆっくりと開かれた扉の向こうから「失礼します」と何やら聞き慣れた声が聞こえてくる。
入ってきた男性を見て、僕は目を疑った。
あんぐりと口が開き、目もまんまるに見開き、思わずがくっと脱力する。
“彼”は流れるような動作でこちらに歩いてくると、スマートな笑顔を浮かべて名乗った。
「本日より高等部の養護教諭としてお世話になります、シモン・ロタールです」
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