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学園編
36.双子、来店
しおりを挟む学園中に賑やかな雰囲気が漂う。
どこへ行っても人の声が絶えない校舎を早朝から見回り、生徒のみ参加の開会式を終えた後、僕達は改めて生徒会室へ戻った。
するとすぐに今日は珍しく、オーレリア兄様ではなくローダが前に出た。
「準備期間中は無理をさせた。中々忙しない予定ではあったが、無事にこの日を迎えられたことを喜ばしく思う」
いつもは眠そうに座っているローダだけれど、今日はばっちり覚醒しているみたいだ。
人前に出る予定が多いからか、いつもは特に手を加えることなく下ろしている長い前髪が、今日は後ろに撫で付けられていた。
端正な美貌が全開なので、これは普段よりも一層生徒達に囲まれるだろうなと安易に予想出来た。
今からもうローダの疲弊した様子が目に浮かぶ。
「当日中は特に生徒会で担う仕事はないが、各自校内を回る時はそれとなく周囲の様子を確認してくれ」
はい!とみんなの声が揃う。僕もだけれど、やっぱり全員いつもとやる気が段違いだ。
ローダはこくりと頷くと、そろそろ気を張るのも飽きてしまったのか普段のぽーっとした無表情に戻って言葉を締めた。
「……まぁ存分に楽しめ。以上だ」
それだけ言うと、ローダは「何かあれば起こせ」とオーレリア兄様に吐き捨ててソファに寝転がった。
すぐにぐーすか寝息が聞こえてきたことに、皆揃って苦笑した。
やっぱり、ローダはいつでもローダだ。そう思うと、変に身体を強張らせていた緊張感も少し薄れた。
***
そういうわけで、ちょっぴり締まらない始まりになったけれど、ついに文化祭が幕を開けた。
今日はクラスの仕事があるので、生徒会を出た足でそのまま教室へ向かう。
文化祭は三日続くのだが、僕のシフトは一日目……つまり今日なのだ。
クラスの人達が恐縮して一日しか僕の仕事を入れなかったので、二日目以降は完全に自由時間である。
結果的に彼らと自由に会える時間が増えたのは嬉しいけれど、それはそれとして少し靄の残る感じではあった。
僕だけ楽をさせてもらっているみたいで、ちょっぴり申し訳ないけれど……僕がいると緊張させてしまうのも事実だろうし、まぁこれでよかったのかもしれない。
「──あ、フェリアル様!」
教室へ着くと、すぐにクラスメイトに出迎えられた。
どうやら少し遅れてしまったらしい。既に数人のお客さんが入り始めている教室を覗き、僕は慌ててクラスメイトに頭を下げた。
「ご、ごめんね。ちょっと遅れちゃったみたい……」
「いえいえ!生徒会のお仕事でもお忙しいでしょうし、どうかお気になさらず!」
本当に何とも思ってなさそうなクラスメイトにほっと息を吐く。
彼が手に持っていた衣装を差し出され、それを受け取り軽く広げてみた。
「これが、カフェの制服?」
「はい!そちらでご接客していただくことになります!」
ふむふむ……あぁよかった、おかしなメイド服とかではなさそうだ。
よくあるウエイトレスみたいな衣装だ。白いブラウスに黒いベスト、黒いズボン。シンプルな白いエプロン……本当によかった。本当の本当にまともな衣装だ。
ほっと息を吐き、僕はクラスメイトにお礼を言って早速着替えに向かった。
サイズはピッタリ。更衣室にある姿見を覗いて、僕は自分でちょっぴり誇らしくなった。
ふふん、我ながらかなり似合っている。これはデキる店員さんだと思われること間違いなし。
「よーし、がんばるぞー」
誰もいないのを良いことに、一人でえいえいおーと拳を突き上げて気合を入れる。
しっかり準備満タンにして教室へ戻ると、早くも中はお客さんでいっぱいになっていた。
まだ始まったばかりなのに、流石は貴族が通う名門学園の文化祭となると、人の入りが段違いに多いらしい。
「あの、僕はなにをすれば」
「はっ!フェリアル様、お戻りになられたのですね!よくお似合いです!」
「あ、ありがとう。すてきな衣装をご用意してくれたことも、ありがとう」
さっき僕を出迎えてくれたクラスメイトが駆け寄ってきてにこやかに笑う。
新しく入るお客さんの接客をお願いされたので、気合を入れて頷き教室の入り口へ。
きちんと上手に案内できるかな、とそわそわしながら次のお客さんを待っていると、ついに人影が僕の前でピタリと止まった。
「……!い、いらっしゃいませ!カフェ、やってます!」
廊下は人でいっぱい。人だかりに慣れておらず俯いていた中の来客だったので、僕はそのまま相手の顔を確かめることもなくお辞儀した。
なんだかカフェというより居酒屋の客寄せみたいな声量になっちゃったけど……まぁいっか。伝わればよし、である。
入ってくれるかな……と頭を下げたまま不安になっていると、ふと頭上で聞き慣れた大好きな声が聞こえた。
「聞いたかよディラン。カフェやってるらしいぜ」
「あぁ。カフェやっているらしいな。素晴らしい宣伝なので思わず立ち止まってしまった」
ハッと息を呑み、勢いよく顔を上げる。
視界いっぱいに現れたその姿を見て、思わず涙が溢れそうになった。
幼い頃から毎日のように見ていた紺青色とカーマイン色の瞳……それらに懐かしさを感じてしまったことが、ちょっぴり寂しい気もした。
でもそれ以上に、ただ嬉しい。
僕は決壊しそうな涙腺をグッと堪え、へにゃりと眉尻を下げた情けない表情で口を開いた。
「ディラン兄様……ガイゼル兄様……」
声が震える。
二人はそんな僕を見下ろして互いに顔を見合わせたかと思うと、同時に仕方なさそうに微笑んだ。
息ピッタリで仕草が似ているところも、幼い頃からまったく変わらない。
「ん?えげつなく可愛いおチビ店員が居たと思えば、俺らのチビだったのか」
「あまりに愛らしいので人間界の祭りごとに天使が紛れ込んだのかと思ったぞ」
あぁ、兄様達だ……なんて、相変わらずの絶好調なセリフを聞いてくしゃりと表情が綻んだ。
耐えきれずに少しだけ瞳を濡らしてしまった滴をくしくしと拭い、改めて顔を上げる。
二人のお客さんを見上げ、僕はふにゃりと頬を緩めた。
「カフェ、やってます。よろしければ、一杯いかがですか」
マニュアルのセリフをしっかり紡ぐと、二人は同時に強く頷いた。
「接客はぜひ天使にお任せしたい」
「おチビ店員、指名するぜ」
金なら倍を出す、と金貨をチラつかせる二人に苦笑した。
倍のお金を出すとか、店員を指名するとか。ここが普通のカフェだってこともう忘れているのかな……と思いつつも、僕はしっかり二人を案内した。
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