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学園編
42.皇太子とマリッジブルー?
しおりを挟むちょっぴりグダグダではあったけれど、直近の一大任務、ローズの腕の治癒は無事に達成することができた。
けれど気は抜けない。
学園の生徒としての重要な行事、文化祭はまだ終わっていないのである。
一日目は兄様達との交流やローズの件であっという間に時間が過ぎて、早くも二日目。
事前に手紙で送られていた予定通りなら、二日目の今日はお忍びでレオが来るはず。
皇太子という立場上ほいほい大衆の面前に顔を出せない上に、そもそも多忙だから来られるかどうかすら分からない。
そんなふわっとした約束ではあったけれど……嬉しいことに、レオは予定通り学園に来てくれた。
「──フェリ、久々の再会ですね。この日を心待ちにしていましたよ」
学園の裏門でレオを出迎えた僕は、変わらない友人の姿を見て思わず瞳を潤ませた。
「おひさしぶり、レオ。会えてとってもうれしい」
レオとは学園に来る前から会う機会が徐々に減っていた。
幼い頃はあんなに一緒に遊んでいたから、その変化が寂しくて……でも、お互いに立場が大きく変わったから仕方ないということも理解出来る。
それでも、とにかく再会を果たせたことが純粋に嬉しい。
成長盛りの僕より背が伸びた気がするレオは、時が経つほど増していく皇太子としての威厳を纏って穏やかに微笑んだ。
「学園への出立日も見送りが出来ず、フェリに会う機会を長く逃してしまったことを悔やんでいたんです。だから私も、会えてとても嬉しい」
「レオ……」
堪えていた瞳のうるうるが再び湧き上がってしまう。
皇帝陛下がほとんど隠居の状態となった今、レオは皇帝としての執務も代行することになり、それはもうとっても忙しい身だ。
本来、僕の学園入学なんて気にする暇もないだろうに……僕と同じように、レオも寂しく感じてくれていたのか。
「ようやく会えたというのに申し訳ないのですが……今日も午後から貴族会議を控えていまして、長居は出来ないんです……」
「ううん、いいの!こうしてね、会えただけでも、ほんとうは十分なんだよ」
困り顔でそう言うレオに慌てて首を振る。
申し訳なさそうに眉尻を下げるレオに、これ以上気を遣わせたくない。
僕はこの日を楽しんでほしくてレオを誘ったのだ。だから、そんな顔をしないで笑ってほしい。
そう思ったから、僕は切り替えてレオの手を引いた。
「レオ、さぁ行こう。屋台は回れないから、僕がね、いっぱい食べ物を買っておいたの。お部屋で一緒に食べよう」
文化祭の醍醐味である校内を回るという行為は出来ないから、レオのために用意した部屋で雰囲気を楽しむことくらいしか出来ないけれど……。
僕が行こう行こうと歩き出すと、レオは嬉しそうに笑って頷いた。
***
いつもは応接室として使われている部屋を貸し切らせてもらい、レオと二人でソファに並んで座る。
一応護衛の騎士さん達が入り口に控えているけれど、気配を消しているから実質レオと二人きりだ。
僕はテーブルに用意したたくさんの食べ物を指さしてレオに尋ねた。
ちなみに、毒見は既に全部済んでいるので問題なしだ。
「レオ、食べたいのある?クレープとか、串焼きとかあるよ」
「いかにもお祭りといった感じで楽しいですね」
完璧な皇太子としての仮面を取り払ったレオは、子供みたいに瞳を輝かせて楽しそうに選び始めた。
皇宮というある意味冷たい戦場のような場所で、レオは常に気を張っているのだろう。
最近になってようやく人に頼ることを覚えつつあるけれど、それでも人を信用することを苦手とするレオのことだ。こういう時間は貴重なものに違いない。
そう思うと、絶対にレオを楽しませなきゃという気持ちがより強くなった。
「うーん、あ!これ、これおいしいよ。お店のよりもね、クリームがいっぱいなの」
「それは気になりますね」
比率や健康というものを一切気にしていない、お祭り特有の欲望しか加味していないシュークリームを勧める。
レオは僕の説明にキラリと瞳を輝かせると、少し躊躇して、けれど最後は欲に逆らえない様子でシュークリームを手に取った。
「……今日くらいは、構いませんよね」
「うんうん!かまわない!だいじょぶ!」
ちょっとくらいは我慢をやめて、気分転換をするべきだ。
レオみたいないつも気を抜けない立場にいる人なら尚更。そう思って強く何度も頷くと、レオは嬉しそうにシュークリームを頬張った。
「……おいしい。美味しいです」
「ほんと?」
「えぇ、本当に。きっとフェリが一緒に居るからですね」
にこやかに微笑むレオを見ると、僕も嬉しくて頬が緩んだ。
いや、シュークリームは僕も食べたし、本当に美味しいことも知っている。僕がいてもいなくても、シュークリームはいつも美味しい。
でも、きっとそういうことじゃない。そういうことじゃないのだろうって、最近相手の心を読めるようになってきた。
「うん、うん。よかった。レオがおいしくおやつ食べられるなら、僕、いつでもレオのところに行くからね」
「ふふっ、それは……最高の提案ですね」
くすくすと笑うレオの表情をジッと見つめて、ほっと安堵する。
よかった。仮面じゃない、心からの笑顔だ。
レオは冗談っぽく笑うけれど、僕は本気だ。
幼少期の仮面を被ったレオを知っているからこそ、レオの本当の笑顔を引き出すためならなんだって出来る。
大事なお友達であるレオのためなら、僕は……。
「そうだ、フェリ。公子……大公とは最近どうですか?あの男、フェリにしっかり手紙の返事を送っていますか?」
レオがおやつを食べながらふと尋ねてくる。
それを聞いてぱちくり瞬いて、そしてまた頬が緩む。ライネスはレオの従兄弟でもあるし、気になるのは当然か。
「大丈夫。きちんと、お返事くれるよ。今日でお仕事片づけて、明日来てくれるって」
「そうでしたか、それなら良いのです。フェリが学園に入学してから仕事漬けのようなので、フェリをほっぽっていないか心配だったんですよ」
「……そうだったの」
ライネス、仕事漬けなのか。それは確かに心配だ……。
僕がへにゃりと眉尻を下げると、レオはすぐにニコリと笑ってセリフを続けた。
「あぁ、ですがそれほど心配せずとも平気ですよ。元々彼は、フェリが居なければ仕事くらいしかすることのない男ですし」
「そ、そんなことないよ。ライネスだって、趣味とか」
「趣味?強いて言えばフェリの水晶コレクションを集めたり、フェリに似合う服を掃いて捨てるほど見繕ったりとかですか?」
「……ぐぅ」
特に反論することも出来なくて、ぐうの音しか出なかった。
確かに考えてみれば、ライネスが趣味らしい趣味を楽しんでいるところを見たことがない。
暇があれば仕立屋を呼んで僕の服を作らせたり、僕の好きなお菓子を集めて僕に食べさせてニコニコしたり。
そういうライネスしか思い浮かばなくて、やっぱり反論は出来なかった。
「うーん……もしもの時のために、なにか趣味、おすすめするべきかな……」
思わず腕を組んでうーむと考え込むと、レオは今のセリフが引っかかったのかきょとんと首を傾げた。
「もしもの時とは?」
あ、そういえばレオにもまだ話していないんだった。
というか、今のところシモンにしか話していない。いや、まだ自分でも詳しいことは何も考えていないし、特に誰かに伝える予定もなかったけれど。
でも、この際だしレオにも一応話しておこうかな。
そう思って、僕は学園に来てから出来た新たな夢をレオに語った。
「あのね、僕、帝国の外に行こうとおもうの」
「…………え?」
「いつになるかわからないけど、行ってみたい国がいっぱいあるの。あと、見てみたい海とか、森とか、遺跡とか」
「え……ちょ、あの」
「ライネスは大公さまのお仕事忙しいから、きっと僕だけで行くこともあるとおもう。だから、その時はライネスおひとりだし、なにか趣味を」
「ちょっと待ってください!フェリ!」
突然レオが勢いよく立ち上がり、びっくりして数ミリほど飛び上がる。
ぱちぱちと大きく見開いた目を瞬くと、レオは僕よりも驚愕と……そして少しの恐怖を滲ませた表情で震える声を吐き出した。
「ど、どうして……どうして、帝国から出るだなんて恐ろしいことを?何か気に入らないことでも!?そ、それともあれですか、マリッジブルーとかいうアレですか!?」
「へ?あの、レオ、ちょっと落ちついて──」
「落ち着いてくださいフェリ!ひとまず深呼吸です!どんな不満があるのか分かりませんが、とにかくまずは落ち着きましょう!」
「レ、レオが落ち着いて……」
僕は至って普通だよ。落ち着いていないのはレオの方だよ。
そう言いたいけれど、何やら錯乱状態のレオには僕の言葉が通じない。
どうしたものか……と困り顔をする僕をよそに、レオの表情はどんどん硬さを増していくばかりだった。
「フェリがいなくなるなど、それだけは、それだけは絶対に……──」
とりあえずシモンを呼んでクールダウンのお手伝いでもしてもらおうか。
そんなことを悶々と考える僕は、レオの表情が仄暗く沈み始めたことに気付かなかった。
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