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学園編
57.またねと約束
しおりを挟む「ライネスの夢って、なぁに?」
純粋に気になったので聞いてみた。
けれど、ライネスはどうしてか幸せそうにふわふわと笑うだけ。
「ふふっ、内緒」
内緒。それはいつもなら引っかかる言葉だけれど、今は不思議とそうならない。
ライネスが本当に幸せそうな顔をしているからだろうか。
なんにせよ、とにかくライネスの夢はとっくに叶っているらしいのだ。
叶ったのなら、深入りする必要も特にないだろう。
「うーん。そっか。ライネスも、夢が叶ってよかったね」
「ありがとう。全部フェリのおかげだよ」
なんと。どうやらライネスの夢が叶ったことには僕の存在も関わっているらしい。
よく分からないけれど、僕がいることでライネスが幸せになったのなら、まぁ別になんでもいいや。
「これからは、フェリの夢を叶えないとね。一つ残さず、全部」
そう語るライネスは、なんだか僕よりも嬉しそうだ。
僕も笑って何か返そうとした時、ちょうど後夜祭の終了を告げる鐘が鳴り響いた。
「……あぁ。終わってしまったみたいだね」
ライネスの視線がふと逸れる。
僕もその視線を何気なく追って、そして、暗い学園をふと一望した。
終わったんだ。反射的にそう思った。
非日常の詰め合わせみたいな三日間が、たった今本当に終わってしまったのだと。
考え始めるとじわじわ感傷的な気持ちが湧き上がってきて、僕はそれから意識を逸らすためにもライネスに微笑みかけた。
「シモンのところ、戻ろっか。花火おわったよって、会いにいかなきゃ」
「そうだね。私もそろそろ帰らないといけないし」
ライネスがふと寂しそうに紡いだ言葉に、小さく息を呑みそうになった。
そっか……文化祭の最終日が終わったということは、それはつまりライネスも……。
僕は聞き分け良さそうな笑顔で「そうだね」と頷き、ライネスとぎゅっと手を繋ぎながら屋上を出た。
***
三日間続いた文化祭はついに終わりを迎えた。
校舎には祭りの余韻が強く残っていて、暗く静まり返ったそこを抜けて外に出るまで、なんだかとっても不思議な気持ちだった。
生徒達はとうに寮へ帰っていて、真っ暗な校舎裏には人影が三つ。
闇に溶け込む馬車の前に立つライネスと、その向かいに佇む僕とシモン。三人だけだ。
「短い時間だったけれど、来られて良かった。二人が元気そうで安心したよ」
ライネスがふわりと微笑む。
僕は途端に熱くなる目頭をぐっと堪えて、ライネスの手をぎゅっと包み込んだ。
「……きてくれて、ありがとう」
会えて嬉しかった。そう言うとすぐに、私も嬉しかったよと予想通りの返答が続く。
僕の震える声と身体に当然のごとく気付いたらしいシモンが、何も言わずに背中を撫でてくれた。
その優しい手つきで更に衝動が増していく。僕はもう堪えられず、少し先に立つライネスの胸に飛び込んでしまった。
「おっと……ふふっ。どうしたの、フェリ」
「っ……!」
背中にライネスの腕が回って、ぎゅうっと強く抱き締められる。
あやすように背や頭を撫でる手は、まるで子供扱いされているみたいだったけれど……今だけは、それを不服に思うことはなかった。
むしろ、名残惜しい。
もう子供のままでいいから、ずっとライネスと一緒がいい。ずっと撫でていてほしい。
そんなことを一瞬でも思ってしまったことは、誰にも内緒だ。
「おわかれの、ぎゅー」
「んんッ……そっか、そっか。お別れのぎゅー、大事だね」
「うん」
しばらくお互いに抱き締め合って、やがて後ろ髪を引かれる思いでゆっくりと離れる。
ライネスは大公さまで、ただでさえ忙しいのだ。
こうして往生際悪く、お別れのぎゅーだなんて言葉で騙して別れを先延ばしにするなんて……そんなこと、許されるはずない。
僕は賢いお兄さんなので、自重して大人しく別れを受け入れることにした。
「ライネス。お手紙、かくよ。ぜったい、お返事ちょうだいね」
「もちろん。フェリの手紙は最優先で読むし、私からも毎日手紙を書くよ」
ライネスが帰ったら、早速今日のことを手紙にして送らなきゃ。
こうして顔を合わせている内に伝えられればいいけれど、全てを伝えるには時間が足りなすぎるから。
今日、ライネスが来てくれてどれほど嬉しかったか。楽しかったか。
その全てを伝えるためには、手紙が何枚あっても足りないかもしれない。
「……お二人とも。残念ですが、そろそろ寮の消灯時間なので……」
ふと背後からシモンに声を掛けられる。
その言葉にハッとした。もうそんな時間なら、これ以上は長引かせられない。
寮監であるハンス先生の厚意で、なんとかこの時間に外出出来ているけれど……。
流石に消灯時間までは戻るように言われているから、シモンの言う通りそろそろお別れだ。
「ライネス。おわかれだね。ばいばい、だね」
うるうる、と瞳が潤む。
視界がぐにゃりと滲んで、けれどライネスが仕方なさそうに微笑んだことは、そんな視界の中でもよく見えた。
「大丈夫。すぐに会えるよ。次のお休みはシモンも連れて三人で、一緒にチョコケーキを食べに行くんでしょ?」
「……!うん、うん!そうだね」
そうだった。今度のお休みは三人でお出かけ……。
“次”がある。そのことを改めて考えると安堵して、僕は笑顔でこくこく頷いた。
一歩、二歩と後退り、ライネスに小さく手を振る。
「……またね、ライネス」
ばいばいじゃない。またねと言うと、ライネスは嬉しそうに笑った。
「またね。フェリ、シモンも」
そう言うとサッと踵を返し、黒い馬車に乗りこむ。
そうすると、まるで影になって消えたみたいに、ライネスが背景の黒に溶け込んでしまった。
馬車が静かに動き出しても、僕はぶんぶんっと振る手を下ろさない。
結局馬車が見えなくなるまで見送った後、僕はようやく手を下ろした。
「……」
辺りは真っ暗で、近くの物もよく見えない。
だから、声を漏らさないよう必死に唇を引き結んで、頬に伝う滴を無視してしまえば……今のお兄さんらしくない姿は、全部がセーフになるのである。
「フェリアル様。風邪を引いてしまいますから、寮へ戻りましょう」
きっとシモンにはバレバレだろうに、シモンは僕の顔を覗き込むことなく、ただ肩に優しく羽織を掛けてくれた。
「……ん」
短い返事をして俯く。
シモンに肩を抱かれるようにして、僕はとぼとぼと寮への帰路についた。
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