余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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攻略対象file5:狡猾な魔塔主

121.再会

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 ちらちらと何度も振り返りながら侍従長の元へ向かったシモン。そんなシモンを見送り、僕はサムさんを連れて今日の目的であるカリオン侯爵邸に向かった。

 最近はディラン兄様の近況を追うのに夢中で、他のことに目を向けることが出来ていなかった。
 それをもどかしく思ったのか、三日前にアディくんから邸に来ないかという手紙が届き……今日がその日という訳だ。
 どうやら今回は二人で遊ぶわけでは無いらしく、アディくんのお友達も一人来るらしい。何でも、そのお友達が僕に会いたがっているのだとか。

 僕はあまり交流の場に出ない。それなのに会いたいなんて思われるほど、目に見える接点のある子が居ただろうかと不思議に思う。
 何にせよ、アディくんのお友達ならきっと良い人に違いない。お近づきの印にとクッキーと飴を用意したから、仲良くなれるといいな、なんてそわそわしてしまう。


「サムさん」

「うん?どうしました?」

「これ、あげる。お仕事おつかれさまの飴」


 侯爵家の邸を前にして、来る途中馬車の中で話し相手を担ってくれたサムさんにお礼の飴をプレゼントする。
 ピーマン味は不評だったから、今回用意したのはレモン味の飴のみだ。黄色い紙が両側にきゅっとされた飴を受け取ると、サムさんは感極まった様子で目を見開いた。


「あ……ありがとうございます……嬉しいです……っ」


 大切なものを抱えるような目で、サムさんは飴をじっと見つめる。どうやら気に入ってくれたようだと解釈して、そわそわしていた気持ちがふにゃりと緩んだ。


「れもん、すき?」

「好きです!大好きです!」

「そっか」


 レモンが苦手だったらどうしようと思っていたけれど、とっても喜んでもらえたようで何よりだ。

 ぽわぽわと僕も嬉しくなりながら侯爵邸の門をくぐり、今度こそアディくんに会うために早足で進む。案の定時間が少し大変なので、貴族としては上品とは言えないけれど、約束を優先して駆け足だ。
 やがて見えてきた二つの人影。慌てて駆け寄り、手前に立っているアディくんにぎゅっと抱きついた。


「アディくん……!」

「フェリアル!」


 すかさずぎゅーっと背中に回る逞しい両腕。僕の力の無い細腕とは比べ物にならないそれに、一瞬ぴしりと固まってしまった。
 アディくんの身長は会う度伸びているような気がする。今日なんて、抱きついた今の姿勢で目の前にあるのはアディくんの胸だ。顔じゃない。

 しゅんとなりながら離れる。アディくんは一度きょとんして、直ぐにハッとした様子で振り返りながら言った。


「フェリアル。お前に会いたいって奴、来てるから会ってやれ」

「うん……?」


 アディくんの体で隠れていたその人。そろりそろりと覗き見ると、そこには少し緊張したような顔で立つ彼がいた。


「アラン……?」

「あ、あぁ……フェリアル……ひ、久しぶり……」


 濡羽色の髪に、少し翳りを帯びた翠色の瞳。舞踏会の時はツンとしていた表情は何処と無く沈んでいて、アランがいる衝撃よりもその表情の理由が気になってしまった。
 あたふたと駆け寄り、俯いたアランと目を合わせたくて両頬を手で包んで持ち上げる。至近距離で目が合うと、暗かったアランの顔はたちまち真っ赤に染まった。


「な、なっ、なにをっ」

「アラン。どうしたの?やなこと、あった?」


 へにゃりと眉を下げて問う。アランは僕の問いにぴたりと硬直し、やがて「はぁ……っ」と溜め息を吐いて赤色をすんと戻した。

 微かに眉間に寄る皺と、ツンとした表情。通常通りのアランだと眦を緩めると、またアランの顔がほんのり赤面してしまった。


「……なんか……気にしてなさそうだね」

「気にする……?なにを……?」

「舞踏会の件に決まってるでしょ!あんな騒ぎあったし、僕……フェリアルに守られたまま何も出来なかったし……嫌われたのかと……」

「……!?ど、どうして!?」


 僕がアランを嫌いになる、なんて。何がどうなってそんなことを思ったのか、理由が思いつかなくて本気で困惑してしまった。
 お友達のアランを嫌うというだけでも有り得ないのに、どうして舞踏会での件で僕が彼を嫌うことになるのだろう。
 あわあわとする僕を見下ろし、アランはほっと息を吐いた。かと思うと表情を沈ませ、眉を下げながら小さく語る。


「何も出来ない友達って、意味あるの?僕はフェリアルに何も返せてない……たくさん恩があるのに、何も……」

「どうして?何もできないのは、だめなこと?」

「……え?」


 今度は僕がしょんぼりと萎れる。アランの手をぎゅっと握って、ぽつりぽつりと呟いた。


「僕も…いつも守られてばっかり。何もできてない。でも、だからこれから、強くなるの。ぜったい」

「フェリアルが何も出来ないとか、そんなこと……」

「あるの!でも……アランがそう思ってくれたなら、僕、何かできたってこと。うれしい。僕、ちゃんと強くなってる」

「っ……!」


 ふにゃりと頬が緩む。今の自分が強いだなんて口が裂けても言えないけれど、それでも確かに過程を歩いているのだ。
 それを証明してくれたのはアラン。僕はアランに恩を感じていて、そして、アランのことが大好きだ。
 大切な友達に『何も出来ない友達は意味が無い』なんて言われたら、それは悲しい。とっても……悲しい。


「何もできない僕は……きらい……?」


 うるうると瞳にじわじわ溜まっていく雫。
 唇をきゅっと引き結んで見上げると、アランは顔を真っ赤にしてぶんぶんっと首を横に振った。

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