余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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攻略対象file5:狡猾な魔塔主

155.誰の為

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 シモンが驚いた様子で目を見開く。どうやらうにくんが消えたことはシモンの指示ではないらしい。
 けれど驚愕を滲ませた表情は直ぐに冷静なものに戻って、シモンは眉を顰めて吐き捨てるように呟いた。


「……まぁ…次代の魔塔主様にはそう簡単に効きませんよね」

「分かっているなら本気で殺しに来ないでくれないかな。正直魔法より貴方の殺気で死にそうになったよ」


 言いながら、ルルは何処からか取り出した瓶の中身を呷る。お世辞にも食欲の刺激されない緑色の液体を飲みこんだ直後、首の傷が嘘みたいに消え去った。

 ついさっきまで命すら危うい喧嘩を起こしていたのに、何だか拍子抜けするくらい切り替えの良い二人。
 シモンを止めようとあたふたしていた僕がばかみたいだ…としょんぼりしていると、それに気が付いたシモンがハッとした様子で正面にしゃがみこんできた。


「どうしましたかフェリアル様!?やっぱり殺しますか!?物理攻撃なら絶対負けないので指示をください!!」

「ちょっとちょっと。勘弁して」


 ちゃきっとナイフを取り出したシモンが真剣な顔で問い掛けてくる。ルルの瓶もそうだけれど、一体どこにそんなもの隠し持っていたのか…。

 ついさっきまでの余裕を崩してあわあわするルルを見上げ瞬く。流石のルルも、シモンにナイフ一本で本気の奇襲を仕掛けられると勝機が薄くなるらしい。
 確かにローズもびっくりなシモンの超人じみた体術を知っている身からすると、いくら魔法の才能があっても物理で突破するシモンには誰も勝てないと思ってしまう。


「シモンだめ。シモンが本気出したら、ルル死んじゃう」

「ちょっ、舐めないでくれるかな。僕の天才的な魔術の前には物理攻撃なんて平伏すしか無いんだよ。あまり強気にならないでね」

「強がってるのはどっちですか。ぷぷっ」

「わぁ…こんなに苛立ちを覚えたのはいつ以来だろう」


 笑顔のルルだけれど、額の青筋が隠し切れていない。上品な言葉遣いもシモンの前ではぼろぼろだ。

 再び二人が取っ組み合いになる前に何とかしなければと、半ば割り込むように二人の間に入る。
 そもそも二人の関係が今のところかなり微妙になってしまっているのは僕が原因だ。僕の甘さで迫りかねない最悪の結末とみんなの幸福について、ルルがいなければ僕は自覚せずに勝手な行動をするところだった。
 みんなを守る為という一見高尚な理由も、見方を変えれば単なる我儘に過ぎないのに。


「シモンさがって。僕、ルルとお話しする」


 ぷぷって笑っちゃだめ。真面目な顔で言うと、シモンは「もう一回ぷぷって言ってください!もう一回!」とやけにぷぷっの二回目を求めてきた。おかしなツボを持っているなぁとは思っていたけれど、今回に関しては本当に何が刺さったのかわからない。
 わからないけれど、下がってもらうためにぷぷっをもう一度実演した。片手で口元を隠してぷくくっと笑うだけ。

 これでいいのかな、とそわそわしていると、シモンは突然「グハァッ!!」と呻いて倒れ込んでしまった。うぅん…やっぱりシモンはよく分からない人だ。


「ルル、ルル」

「何かな?言っておくけど、さっきのは全て本心だからね。謝る気なんて…」

「ううん、いいの。いいよ。僕ね、ルルにありがとうと、ごめんなさいをしたいの」


 ふいっとそっぽを向くルルに声をかける。さっきのことで僕と話すのが流石に気まずいのか、謝る気なんてと言いながら眉はへにゃりと垂れ下がっていた。

 分かっている。さっきの言葉は、ルルが僕をただ傷付けようと思って放ったものじゃない。
 きっとルルに言われなければずっと自覚出来なかったことだ。みんなは優しいから、きっとルルみたいなことは絶対に言わない。ルルだから、はっきり言ったんだ。
 それを無碍にするのは、自分の非から目を逸らすことと同じ。こんなこと滅多に突き付けられない、無自覚の悪い癖なのだから。


「ありがとう。ルルが教えてくれなかったら、僕、ずっとわからないままだった。僕の幸せを押しつける…?のは、よくないこと。考えてなかった」


 幸せの押し付けなんて概念があるなんて。盲目的に一つの幸福しか知らなかった僕からすると、その言葉は酷く衝撃的だった。
 幸福は人の数だけあって、それぞれ大きく違う。そんなことは少し考えれば分かることなのに。物語の結末みたいな、真っ直ぐなハッピーエンドだけがみんなの為になると本気で思っていた。

 自分の立場になって考える、というのはとても大切なことだ。
 仮に僕の立場に兄様達が立っていたとして、僕は兄様達無しで迎えるハッピーエンドを果たしてハッピーエンドと呼べるだろうか。
 想像するだけで体が震えそうになる。そんなの、ハッピーエンドなんかじゃない。

 理解は出来た。ルルの言葉を頭で理解することは出来たけれど。それでも。


「ごめんなさい。わかってても、やっぱりみんなを守りたいって、思っちゃうの。わがまま、直らなくてごめんなさい…」


 どうしても、みんなを守りたいという気持ちが先走ってしまう。もしも決断を迫られた時、またみんなの為だからと幸福を押し付けて勝手な判断をしてしまいそうだ。
 分かっていても心と体がついてこない時、一体どうするのが正解なのだろう。

 きゅっと服を握り締めて俯く。息を呑んだのは正面に立つルルだったか、それとも背後で悶絶から復活しつつあったシモンだったか。
 反省してしょんぼりと俯く僕を見下ろしたルルが、ふと居心地悪そうに首の後ろに手を当てた。


「……良くも悪くも、貴方は本当に真っ直ぐな人なんだね。それに、真面目だ。僕みたいな捻くれた人間の捻くれた言葉を、こんなに馬鹿正直に受け止めて考え込むとか…」


 正直、予想外だ。そう呟いたルルに首を傾げると同時に、背後からがしっと抱き締められてぱちぱち瞬いた。


「全くです。フェリアル様は繊細な方なんですから、急に石を投げられたらびっくりして固まることしか出来ませんよ」

「それについては…まぁ…すまなかったよ」

「困るんですよ。あなたみたいに石どころか前触れも無しに毒ぶっかけてくるような人」

「いや流石にそこまで鬼畜じゃないだろう。ないよね?」


 割と本気で悩み込むような顔を向けてくるルル。それにこくこくと頷いて、ルルは鬼なんかじゃないよと訴えた。


「ちょっとびっくりした。でも、ダメなこと何も言ってない。ルルはいいひと」

「っ…うぅ……俺のフェリアル様はなんて澄んだ心をお持ちなのか……何処ぞの捻くれ魔術師さんにも見習っていただきたい……」

「すっごい根に持つね。貴方には一生恨まれそうで何だか怖いな」


 うりうりと頭に頬擦りにしてくるシモンをあわあわ受け止めていると、不意にルルがじーっと僕達を見つめて突然おかしなことを聞いてきた。


「……ずっと気になっていたんだけれど、貴方達はもしかしてそういう関係なの?主従にしたって距離が近過ぎるよね」

「……?そういう、かんけい?」


 そういう関係とは、どういう関係のことを言うのだろう。
 きょとんとする僕を呆れ顔で見下ろしたルルが、説明を面倒くさがるみたいにあっさりと頷いた。


「うん。正直、デキてるのかなって」


 できてる……でき、てる……?
 数秒困惑で硬直し、やがて意味を理解した途端ぼぼっと顔が真っ赤に染まった。

 羞恥と混乱で声すら発せなくなり、ぶんぶんっととにかく無言で首を横に振った。

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