126 / 400
攻略対象file5:狡猾な魔塔主
156.家族とぴょんぴょん
しおりを挟む「シモンは…シモンは家族…!家族なの…!」
シモンの肩にぐりぐり顔を埋めて赤い顔を隠す。
くぐもった声を聞いたルルが「家族?ただの使用人なのに?」と返してくるものだから、思わずしょんぼり肩を落とした。
「シモンは、特別なの…兄様たちとも、レオたちとも違うの。シモンは、特別な家族なの」
兄様たちに感じているような家族愛や、レオたちに感じているような友愛ともまた違う。かといって、ルルが言うような異性に対しての愛情とも違う。
愛についてよく知らないから何とも言えないけれど、でも、シモンへの想いだけは言葉に出来ないという確信がある。家族愛や恋情みたいに言葉が決まっているようなものじゃなくて、まだ言語化されていない全く別の想いのような気がするのだ。
主従と言われてしまえばそこまで。それ以上でもそれ以下でもないような、でも、それ以上のような気もする。本当によく分からない、曖昧な気持ち。
「……でも、関係はいつか変わるよ。例えば仮にフェリに愛する人が出来たとして、それでも侍従とはずっと一緒にいるのかな」
「いるよ。シモンと僕は、ずっといっしょ」
「……」
一秒の迷いもなく言い切ったからか、ルルは僅かに目を見張った。
それはやがて呆れの色を滲ませて、肩を竦めたルルが「……そう」と小さく呟く。同時に力を増した抱擁に気が付いて顔を上げると、そこにはシモンの潤んだ緑の瞳があった。
いつもの場を茶化すような涙じゃなくて、本当に心の底から潤んだ涙みたいだ。
「彼は頭が硬いですね。変わらないものの一つや二つ、当然存在するだろうに」
ボソッと零された呟きを、ルルが機敏に拾ってぴくりと顔を顰める。けれど何も言わないから、きっと反論の言葉は思い浮かばないのだろう。
変わらないものがある。それは、最後まで分からないけれど。
でも、シモンとの関係がいつか変わるなんて想像すら出来ない。きっと僕達は最後の最後までずっとこのままだ。そんな確信だけが確かにある。
「……まぁ、確かに距離感がバグっている貴方達なら、いつまでもそうして抱き合っていそうだね」
「……!!」
ルルの言葉に慌ててバッと離れる。いけないいけない、今日は色々なことがあり過ぎたせいか、いつもよりシモンにぎゅーを求め過ぎていた。
隙あらばぎゅーしたくなるこの感覚、一体どうすれば抑えることが出来るのだろう…。
シモンの傍は安心感が段違いだ。シモンがいれば、シモンがいるならって、無条件な安堵が湧き上がる。だから気付けばぎゅっと抱き着いてしまっている、という無意識の上でのぎゅーがいつも多くなってしまうのだ。
名残惜しそうな顔をするシモンからそろりと視線を逸らした直後、ルルの愉快げな色を帯びた声が不意に降ってきた。
「フェリに愛する人が出来たら、抱擁も抱っこも貴方の役割じゃなくなるんだろうね。今のだって、僕は別に気にならないから大丈夫だよ。今のうちに存分に抱き合っておいた方が良いんじゃないかな」
「あなた…もしかして俺のこと嫌いですか?」
「もしかしなくても好きではないだろう。貴方、僕を殺しかけたのもう忘れたの?」
ちくちくした棘が微かに含まれたルルの発言。シモンが何かに気が付いた様子でハッと問うと、ルルはすんっと表情から色を無くして答えた。
確かに、自分のことを一度でも本気で殺そうとしてきた相手だ。そうすぐに好意的な印象を向けることは出来ないだろう。
「殺しかけたのは申し訳なかったですけど…でも元はと言えばあなたの配慮の足らない言葉が原因じゃないですか」
「ぴょんぴょん。その通りぴょん。フェリくんを傷つけるのはだめだめぴょん」
「ですよね。ぴょんぴょんですよね…って、え?」
シモンの言葉に賛同するような聞き慣れない声。あまりにスルッと入ってきたものだから、僕もシモンもルルでさえ、一度普通に受け入れて聞いてしまった。
数秒遅れてみんなで硬直し、揃って声の方を見下ろす。
随分下の方から聞こえてきたなと思いながら視線の先をじっと見つめると、そこにはふわふわの足でしっかりと立つウサくんがいた。
「……?」
はてなが大量に浮かぶ。どうして…どうしてウサくんが、立って動いて喋っているのだろう。
呆然とする思考の中、無意識に手がポケットの中に伸びる。そこに入れてあったはずの魔石が無くなっていることに気付き、あれ…?と思いながらぱちぱちと瞬いた。
「……あぁ。レンの魔石か」
一番最初に冷静に戻ったのはルルだった。
しゃがみこんでウサくんと向き合うなりボソッと呟き、道理でと言わんばかりにウサくんの両脇を鷲掴んで持ち上げた。
ウサくんはそれに一切抵抗することなく、じーっとルルを見つめて時折そわそわと体を揺らす。何だかかわいい。クマくんみたいだ。かわいい。
「どうやら魔石が僕の魔力に反応して、勝手に発動してしまったようだね」
「ルルの、魔力に…?」
きょとんと首を傾げる。それに合わせてなのか偶然なのか、同時にウサくんもきょとんと首を傾げた。
「うん。魔石の開発には僕も手を貸したんだけれど、その過程で何か不具合があったのか…魔石が僕の魔力に異常に反応するようになってしまったんだ」
「で、でも…僕、おねがいってまだ祈ってないよ…?」
喋って、動いてーって、お願いしていない。あのお祈りをしないと、魔石は発動しないと思っていたけれど…。困惑する僕を見上げたルルがきょとんと不思議そうに首を傾げた。
「お願いなら、これまでにする機会はいくらだってあっただろう。このぬいぐるみに動いてとか喋ってとか、本当に一度も祈ったことが無い?」
「……!!」
その言葉にハッとする。そうだ、僕は今まで何度も祈ってきた。
初めてのお友達。話せたらいいな、一緒に遊べたらいいなって、何度も思った機会があった。
雪ウサくんを作るときも、かくれんぼや鬼ごっこをするときだって、ウサくんも一緒に出来たら楽しいだろうなぁって、いつも思っていたじゃないか。
「……おもってた…」
ずっと思っていた。思い返した途端これまでのウサくんとの思い出がたくさん浮かんできて、僕はそろりとウサくんの前にしゃがみこんだ。
それと同時にルルがウサくんを離して地面に下ろす。とことこと歩いてくるウサくんをじっと見つめて、震える声で問い掛けた。
「ぼ…ぼくのこと、わかる…?」
ぬいぐるみだから表情が変わることはない。当然のことなのに、その時だけはウサくんの顔に笑顔が浮かんだように見えた。
「ぴょん。フェリくん。ちっちゃいころより、たくさんにこにこ。うれしいぴょん」
「っ…うさくん…!!」
ウサくんだ。ずっと僕を静かに見守ってくれていた、僕の初めてのお友達。
ぎゅーっと抱き締めるともふもふの腕がぴとっと抱き締め返してくる。短い腕が背中に回ることはないけれど、それでも反応が返ってきたことがとても嬉しくて。
「うさくん、うさくん」
「ぴょん?」
「ぴょん。かわいい。うさくんかわいい」
「フェリくんが一番かわいいぴょん」
むぎゅむぎゅと抱き合いながら、意味も無くウサくんに声をかけてしまう。答えが返ってくるのが楽しくて、嬉しいから。
ふわふわとウサくんの長い耳に顔を埋めていると、背後から微かに呻き声が聞こえた気がした。
「ぐっ、うぅ…心頭滅却…心頭滅却…ぴょんぴょん…」
「何それ。何かの呪文?」
638
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。