余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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番外編

入学決定のお祝い

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 ついさっき邸に届いた包みを見下ろし、キラキラと瞳を輝かせる。
 廊下のお掃除を終えて部屋に入ってきたシモンが、包みを前にるんるんと身体を揺らす僕を見て不思議そうに瞬いた。


「フェリアル様?朝からド級の天使オーラを纏って一体何をしているんです?ルンルン揺れちゃって可愛いですね、抱っこしちゃいますよ?」


 朝からキレキレなシモンが近付いてきて、僕はふにゃっと笑いながら包みを指さした。
 ウサくん柄のラグの上に置かれているのは、ちょっぴり大きな茶色の箱。側面には『アカデミー』という文字が書かれている。

 それを見たシモンが、箱の中身を察したように「それはまさか……」と目を見開いた。
 僕はこくこくっと頷き、ぴょんぴょん飛び跳ねながらわくわくっと答えた。


「学園から荷物がとどいたのっ!僕ももうすぐ、ベテランお兄さんになるのっ!」


 わーいと飛び跳ねて、その場をルンルン、ぐるぐるっと走り回る。
 シモンの周りを何周かぐるぐる走り回ったところで、ふとシモンにがしっと捕らえられた。そのままひょいっと抱き上げられて、むぎゅーっと強く抱きしめられる。

 ぱちくりと見上げると、そこには僕以上に嬉しそうなふにゃり笑顔を浮かべるシモンの姿があった。


「ついに入学許可が下りたんですね!お勉強たくさん頑張ってましたもんねっ!」

「っ……!うん、うん!がんばった!シモンも、いっぱいお手伝いしてくれてありがと、ありがとっ」


 神界から地上に戻ってきて、みんなより二年という長い空白ができた僕は、みんなに置いて行かれないようそれはもう必死に勉強をした。
 先生としてのローズの力を借りたり、お休みの日もシモンに勉強を教えてもらったりして。

 いっぱいいっぱいがんばって、ついに僕は、十四歳で高等部に入学することになった。
 しかも、高等部の二学年。アランやアディくんが在学する学年だ!

 異例の対応ではあるけれど、学園側が用意した難しい試験をなんとか突破して、僕は努力でこの結果を掴み取った。
 それもこれも、全部みんなのおかげ。朝から夜まで、勉強する僕をいろんな方法でサポートしてくれたシモンや、みっちり知識を叩き込んでくれたローズたちのおかげなのだ。


「うぅっ、ありがとシモン、ありがと!みんなにも、いっぱいありがとしなきゃ……っ」


 うりうりと頬擦りすると、シモンもむぎゅむぎゅと抱き締め返してくれる。
 いい子いい子と頭を撫でられながら、シモンが語った言葉に思わず涙が溢れそうになった。


「フェリアル様、どうか忘れないでください。一番努力したのはフェリアル様です。周りの助けもあったけど、フェリアル様の努力があったからこそ、この結果に繋がったんですよ」


 視界が滲む。堪え切れずにぽろぽろと零した涙は、続いた言葉によってぶわっと決壊して、更にとめどなく溢れ出してしまった。


「よく頑張りましたね」


 声にならない嗚咽を漏らしながら、シモンの肩にぐっと顔を埋める。
 シモンの声があんまりにもあったかくて、優しかったものだから。溢れる涙でシモンの肩が濡れ始めていることに少し経ってから気が付いて、僕は慌てて顔を上げた。

 涙に濡れた顔のまま、シモンに向き直ってふにゃりと笑う。


「うん。ぼく、がんばった」


 そうだ、僕すっごくがんばったんだ。シモンが優しく諭してくれたおかげで、大切な事実をしっかりと思い返すことができた。
 何より一番は、僕ががんばったからこその結果なのだ。シモンにむぎゅーっと抱きつきながらじーんと喜びに浸っていると、ふいに部屋の扉がバーンッ!と音を立てて開かれた。


「フェリ!どうした、何故泣いているんだ!」

「チビ!なんかあったのか!?奇襲か!?」


 慌ただしく蹴破られた、と言った方が正しいかも。
 部屋に駆け込んできたのはディラン兄様とガイゼル兄様の二人。二人とも、今日はちょうど仕事が休みでお邸にいたらしい。
 それにしても、さっきの小さな泣き声を聞き取って走ってくるなんて……二人とも、相変わらずの地獄耳だ。特に僕が関わる時は、二人の耳がとってもよくなる気がする。

 あわわとシモンの抱っこから抜け出しながら、大丈夫だよと二人をどうどう落ち着かせた。


「おちついて。僕はだいじょぶ。あのね、さっきのは嬉し涙なの。とっても嬉しいことがあったの」


 ふにゃふにゃ。思い出してふにゃっと緩く笑いながら、二人にも学園から届いた荷物をじゃじゃーんと見せてあげる。
 むっふーとドヤ顔しながら箱を掲げるシモンに近付くと、二人は箱の中身を察したようでハッと目を見開いた。


「まさかチビ、やっと学園の入学許可が下りたのか……!?」


 ちょっぴり上擦った声を上げたのはガイゼル兄様。そのままぱぁっと笑顔を浮かべて、ガイゼル兄様が僕を抱き上げる。
 声を出す暇もないほどびっくりしていた様子のディラン兄様も、ガイゼル兄様に続いて慌てたように駆け寄ってきた。


「すげーじゃねぇかチビ!いっつも頑張ってたもんなぁ!やっと頭の固い学園のジジィ共がチビの天才っぷりを認めやがったのか!」

「そろそろクソ教師共をぶっ飛ばしに行くところだったが、フェリは自分の力で目標を成し遂げたんだな。すごいぞフェリ、フェリは天才だ」


 うりうり、うりうり。二人から強い頬擦りとぎゅーを受けて、ちょっぴり苦しいけれどとっても幸せになる。
 えへへと笑いながらむぎゅーっと抱き締め返して、二人からの祝福を全身で受け止めた。なんだか物騒なセリフも聞こえた気もするけれど、それはたぶん気のせいだろう。うむ。


「ありがと、ディラン兄様、ガイゼル兄さまっ!」


 わしゃわしゃと頭を撫でる手は、きっとガイゼル兄様のものだろう。ほっぺを優しく撫でる手は、ディラン兄様のもの。
 どっちの手のひらもあったかくて、触れられたところ以上に、心がぽかぽかってあたたかくなる。

 ぽかぽかする胸を拳でぎゅっと抑えて、二人に抱き締められながらしばらく経った後、ふとシモンが感極まった様子で言葉を紡いだ。


「フェリアル様は本当に素晴らしいお方です……!きっと邸を出て寮で暮らすことになっても、気高くお兄さんらしく過ごすこと間違いありません!」


 そのセリフが部屋に響き渡った直後。ふいにシーンと静寂が広がった。
 さっきまでよかったよかったと賑やかに響いていた兄様たちの声が聞こえなくなり、あれれとぱちくり瞬く。
 顔を上げた先の二人の表情を見て、おもわずピタッと固まった。


「に、にいさま……?」


 そこにあったのは、もうすぐ世界が滅亡でもするのかと錯覚するほどの、絶望を宿した表情を浮かべた二人の姿。

 さっきまでニコニコしていたのに、一体突然どうしてしまったというのか。
 困惑する僕を静かに床に下ろすと、二人は顔を見合わせながら絶望の声音で語り始めた。


「そういえば……学園の生徒は全員寮生活だったな……なんで忘れてたんだ……」

「何ということだ……直ちに学園の寮を爆破しなければ」

「に、にいさまっ!?」


 なんてこと。空気がどんよりし始めたかと思えば、突然なんて物騒なことを。
 特にディラン兄様だ。無表情でガイゼル兄様よりは冷静に見えるけれど、その実ガイゼル兄様よりも乱心しているらしい。セリフがちょっぴり行きすぎている。


「だ、だめですディラン兄様!おちっ、おちついてっ!」

「大丈夫だチビ。コイツは正気だ。本気で寮を爆破しようとしてやがるんだ」

「もっとだめですっ!」


 全然フォローになっていないフォローを受けて、思わずナヌーッとびっくり仰天してしまった。
 ガイゼル兄様ったら、そのフォローで僕が落ち着くとでも本気で思ったのだろうか……。


「ちょっとちょっとお二人とも!なんですか突然!せっかくのフェリアル様の祝い事だというのになんて野蛮な!」

「発端はてめぇだろうが馬鹿野郎!」


 僕のあたふた具合にシモンも続く。けれどすぐにガイゼル兄様にツッコまれ、シモンはぷくっと頬を膨らませて「なんですって!」とぷんすかし始めた。
 で、でもまぁ、たしかにガイゼル兄様の言う通り原因はシモンかも……。

 いつものポカシモンを見たことでちょっぴり気が落ち着いたのか、僕は冷静になって二人をどうどうと宥めた。


「まぁまぁふたりとも、どーどー。ディラン兄様も、どーどー」

「どーどーするフェリアル様きゃわっ!」


 毎度おなじみ、シモンの全肯定発言を皮切りにピリッとした空気が和らいでいく。
 僕をむぎゅっと抱き締めてうりうり頬擦りしてくるシモンはとりあえずスルーして、兄様たちをなんとか穏やかに説得することに。


「寮のことは、しかたないの。兄さまたちも、学園にいたころは寮で生活したでしょ?僕もおんなじことするだけ。今度は兄さまたちが、僕をまっててくれる?」


 待っててほしいな、と言って首をこてんと傾げる。
 すると二人はちょっぴり苦しそうに悶絶して、やがて復活すると、仕方なさそうに溜め息を吐きながら顔を見合わせた。


「……まぁ、こればっかりはしょうがねぇか」

「……フェリの強かな成長を見届けるのも兄としての役目だ」


 二人がしっかりと説得を聞いてくれたことにぱぁっと表情を輝かせる。
 やっぱり、二人はただ僕のことが心配なだけだったんだ。話せばきちんとわかってくれるのね、とふすふす紅潮しながら頷く。
 二人はふすっとする僕をなでなでしながら、ふと何かが気になった様子で訝し気な声を上げた。


「そういやシモン、お前にしては珍しいな?いつものお前なら、チビと離れ離れになるっつったらキモいくらい暴れるだろうによ」

「二年間もフェリと離れるというのに、お前が全く正気を失わないという事実が気持ち悪い。何者だ貴様。絶対にシモンではないだろう」


 なんだか言いたい放題な二人を見上げて苦笑しつつ、たしかに二人の言い分はわかるかも……とシモンをチラ見する。

 疑問を投げ掛けられた当のシモンは、何やらきょとんと不思議そうに瞬いて答えた。



「え?何言ってんですか?俺は当然フェリアル様についていきますけど」

「…………は?」



 なに当たり前のこと言ってんだこいつ、こわ。みたいな顔をして兄様たちを見据えるシモン。
 ドン引きの表情をしているところ申し訳ないけれど、今一番ドン引きしたいのは兄様たちの方だと思う。


「いや当然でしょ。二年もフェリアル様から離れたら俺、普通に死ぬんで。むしろお供する以外の選択肢あります?お二人の疑問に俺の方がびっくりですよ」


 びっくりなのは兄様たちの方だと思う……というツッコミは呑み込んで、とりあえず今後の展開を見守る。

 兄様たちは無言でワナワナと震えたのち、鬼の形相でシモンに掴みかかった。二人ともげきおこだ。


「てめぇ自分のことだけ棚に上げてんじゃねぇぞ!俺らは行けねぇんだからてめぇも行けねぇに決まってんだろうが!」

「は!?なんですかそれ!聞いてません!無理ですけど!むり!俺ぜったい行きますから!」

「何故お前だけ許されると思った。お前も二年間ここで留守番に決まっているだろう」

「いやですむりです!やだやだ!俺は絶対フェリアル様のお傍を離れませんッ!!」


 大号泣するシモンとそれを詰めに詰める兄様たち。だいぶ大混乱の状況を前に、僕はどうにもできず小さく溜め息を吐くことしかできなかった。

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